小説「狼狽」第1章〜少女
2004年8月14日 連載君は一体誰だ?……そんな言葉が良く似合うその少女は私の瞳を見つめ、空虚なその薄葵の瞳を私の黒眼(くろまなこ)に写していた。
「君は、名前は何て言うのかな?」
「……シャル……」
「そ、そうか…!私はケイス。この辺境地帯の取り締まりをしているんだ。」
……あまりに冷たい視線と口様に質問した私自身がたじろいでしまった。常に冷静さを失わない私がだ。彼女には生気がまるで抜けている……。まるでクグツの様だ。
―と、不意に扉がけたたましく響き、私はそちらに気を奪われてしまった。
そこには一人の巨漢が立っていた……。
巨漢は私を見るや否やニカーッと野卑な笑いを浮かべた。
「ヒヒヒヒ、調子はどうだ?親友よ!」
武芸に通じ、戦闘では未だ負け知らず、容姿端麗だが、どこかガサツな巨漢は私の一応の親友に当たる【ザイバック】だった。
「おやおや、これはとんだ客だな、将軍様。」
そう、彼は幾多の戦いを無傷で乗り越えてきたその戦歴を買われ、この世界の中枢である【ケイネラス王国】の国王直属に位置する最も誉れ高い騎士団【国王騎士団】の将軍に抜擢された、いわば私の上司にあたる男である。
「おいおい、その将軍様っての止めろよ。何か背中がムズ痒くなっちまう……。お前には昔と同じ、ザイバックって呼んでもらいてぇんだよ……。」
「分かった分かった……で、何でこんな辺境の街まで?」
こんな事を言うのもなんだが、正直なトコ、私が職務に励んでいる街は【カルナムール】と言う、王国からは2000キロ以上も離れた街で、一般に“辺境”と呼ばれ、国王からの信頼が薄い者程飛ばされ易いという……。つまり私も国王からの信頼が余程薄いと見える……いや、このシャルの身元引き受けを申し出たからか?
私の悪い癖で、直ぐに物思いにふけっていると……
「おい!ケイス!!」
ザイバックがそれに気付いたらしく、私に強めの口調で迫ってきた。
「お前なぁ…人に話を振っておきながらそのまま放置はねぇだろ!ちゃんと話を最後まで聞け!!」
「ア、アハハ………すまない…つい、いつもの悪癖が出てしまったよ……そ、それで、君がこんな辺境に来た理由は?」
「ああ、実はな…お前がその身元不明、記憶喪失の少女の身柄を引き取ってから、辺境のこんなトコに左遷されちまっただろ?国王がキチンと“仕事”をしてるか確認を取って来い!って言うから来たんだよ。」
「…………。」
“仕事”…それは辺境の地を治める事も含まれるが、何と言っても私の場合はシャルの記憶の復元と身元のハッキリとした所在を見つける事に重点が置かれていた。そもそも、何故にそこまで国王がシャルを警戒するか、それは私がまだ彼女の身元引き受け人を名乗り出る前、つまり時にして約一ヶ月前に遡る………。
「君は、名前は何て言うのかな?」
「……シャル……」
「そ、そうか…!私はケイス。この辺境地帯の取り締まりをしているんだ。」
……あまりに冷たい視線と口様に質問した私自身がたじろいでしまった。常に冷静さを失わない私がだ。彼女には生気がまるで抜けている……。まるでクグツの様だ。
―と、不意に扉がけたたましく響き、私はそちらに気を奪われてしまった。
そこには一人の巨漢が立っていた……。
巨漢は私を見るや否やニカーッと野卑な笑いを浮かべた。
「ヒヒヒヒ、調子はどうだ?親友よ!」
武芸に通じ、戦闘では未だ負け知らず、容姿端麗だが、どこかガサツな巨漢は私の一応の親友に当たる【ザイバック】だった。
「おやおや、これはとんだ客だな、将軍様。」
そう、彼は幾多の戦いを無傷で乗り越えてきたその戦歴を買われ、この世界の中枢である【ケイネラス王国】の国王直属に位置する最も誉れ高い騎士団【国王騎士団】の将軍に抜擢された、いわば私の上司にあたる男である。
「おいおい、その将軍様っての止めろよ。何か背中がムズ痒くなっちまう……。お前には昔と同じ、ザイバックって呼んでもらいてぇんだよ……。」
「分かった分かった……で、何でこんな辺境の街まで?」
こんな事を言うのもなんだが、正直なトコ、私が職務に励んでいる街は【カルナムール】と言う、王国からは2000キロ以上も離れた街で、一般に“辺境”と呼ばれ、国王からの信頼が薄い者程飛ばされ易いという……。つまり私も国王からの信頼が余程薄いと見える……いや、このシャルの身元引き受けを申し出たからか?
私の悪い癖で、直ぐに物思いにふけっていると……
「おい!ケイス!!」
ザイバックがそれに気付いたらしく、私に強めの口調で迫ってきた。
「お前なぁ…人に話を振っておきながらそのまま放置はねぇだろ!ちゃんと話を最後まで聞け!!」
「ア、アハハ………すまない…つい、いつもの悪癖が出てしまったよ……そ、それで、君がこんな辺境に来た理由は?」
「ああ、実はな…お前がその身元不明、記憶喪失の少女の身柄を引き取ってから、辺境のこんなトコに左遷されちまっただろ?国王がキチンと“仕事”をしてるか確認を取って来い!って言うから来たんだよ。」
「…………。」
“仕事”…それは辺境の地を治める事も含まれるが、何と言っても私の場合はシャルの記憶の復元と身元のハッキリとした所在を見つける事に重点が置かれていた。そもそも、何故にそこまで国王がシャルを警戒するか、それは私がまだ彼女の身元引き受け人を名乗り出る前、つまり時にして約一ヶ月前に遡る………。
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