それにしても何て早いんだ……。確かに私は体力に自信は無いが、それにしたって少女よりも遅いはずが……。
「おい!ちょっとシャル……待ってくれ!私が悪かった。真実を確かめもせずに鼻から虚偽だと決め付けてしまって。君の話を今度はキチンと真面目に受け止めようと思う……。だから止まってくれ。」
「…………。」
シャルから応答は無かったが、彼女の足が止まった事からして、私の言葉に応じる気はあるらしい。
「ありがとう、走りながら喋っていたんでは体が持たないからね……。」
私は冗談を言ったが、シャルは相変わらず表情が崩れる事は無かった。ま、仕方ないか……こればっかりは時間を掛けて彼女の心のドアを抉じ開けていくしかなさそうだしな……。
「さ、執務室に戻ろう。今度は疑ったりしないから。」
「気にしてないわ……別世界なんて信じるとは思ってなかったから……。」
「……。」
どうもシャルの言葉には棘がある……。なんかこう、人を鼻から寄せ付けない雰囲気だ。執務室に戻ると、ザイバックが欠伸をしながら頭をポリポリ掻いていた。
「やぁ、何とか交渉成立したよ。」
「お!!やっと戻って来たか……。」
退屈から解放されたようにザイバックは大きく背伸びをして首をゴキゴキと鳴らした。
「で、お前はホントに別世界から来たのか?記憶喪失ってのは嘘なのか?」
私が質問しようとしていた事があっという間に持っていかれた。シャルは少し不満そうな顔に移ろうと
「さぁ……少なくとも私が生まれた世界はこんな長閑じゃなかった……でもそれが本当に現実かはよく分からないの……。記憶喪失っていうのは強ち間違いじゃ無い……だって、今の私にはそれくらいしか分からないから……。」
スラスラとそう言ってのけた。ホントに少女なのだろうか?
「なぁ……君は年はいくつだい?」
「……21よ……。」
「なるほど……。」
どう見たって14〜5歳の可愛い少女にしか見えない……。一体何がどうなってるんだ?
「なら、何でそんなガキみたいな容姿なんだよ?」
ザイバックは何の躊躇も無く質問した。まぁ、私も聞きたかったが……。
「さぁ…なんでかしらね……この世界で都合がいい様に【コルツェク】がしてくれたのかしら……。」
……ん?今何かとても重要な事を言ったような……。
「コルツェクって……シャル!何か思い出してるのか!?」
「あれ……?何でだろう……急に頭に浮かんできた……。」
どうやらシャルは本当に別世界の人間らしい……。恐らくその【コルツェク】という人物がシャルがこの世界にいる事と関係がありそうだ……。にしても都合がいいとはどういう事だろうか?別に21の姿でも彼女なら今目の前にいる容姿を見ても美しいハズだが……。
「都合がいい……それってどういう事なんだい?」
「……思い出した。確か……コルツェクは私にこの世界の調査をするよう命じたんだ……。その際に少女の姿なら多少の無礼も許されるだろうから……そう言ってたような……。」
「!!!!」
驚くべき事実だ!!つまり、彼女は、シャルは諜報部員…つまり「スパイ」って事か!!?にしても話の展開が急すぎる……何故こうも立て続けに記憶が蘇ってるんだ??
「するってぇと……お前はこの世界の何をスパイするよう指示を受けたんだ?」
ザイバックは余計な事を考えない分、ありのままの現実を受け止める癖がある……普段なら忠告するところだが、今はそっちのほうが話を進められそうだ……。
「……ゲート……。」
「ゲー……ト???」
二人で同時に考え込んだ。何だ?ゲートって……あの、橋を通る時にくぐる門兵が立っているトンネルみたいなものか??でも、そんな物を調べる意味がどこにあるんだ??
「貴方達…何か勘違いをしていない?ゲートって言うのはこの世界と私が生まれた世界を繋ぐ門の事よ……。」
「そんなものがあったのかい!?」
「初耳だぜ……。」
「それはそうでしょうね……この世界は自らがゲートを閉ざしてしまったんですもの……。」
「あの…シャル……君、記憶が戻ったみたいだな……。」
「ええ、そうみたい……貴方達の質問攻めのお陰で。」
それは良かったと言いたい所だがそういうワケにもいかない。
これでハッキリと別世界の存在を認識出来たワケだが、今度はその事を国王に報告しなければならないからだ……。スパイだと言う事がバレたらシャルは今度こそ死刑かもしれない……。それに、まだまだ謎が多すぎる。昨日今日で別世界があって私はそこからやってきたスパイなんです。世界同士を繋ぐゲートの調査に来ました。なんて言われても全く、現実味が沸かないし、内心まだ俄かには信じられない……。この目で確かめない限りは。
「ザイバック……国王への報告は【ようやくまともに会話が出来るようになった】とだけ伝えてくれないか?君だって別世界の事を国王に平然と報告できないだろう……。」
「まぁ……俺もこの目で見てみない事にはな……。」
「そういうことだ……報告を済ませたらすまないが、また戻ってきてくれ。」
「あいよ!それじゃ、行って来る!」
ザイバックはヒラヒラと手のひらを振りながら屋敷を後にした。
残ったのは私とシャルだけ……。
「いいの?虚偽を働いて……。」
「いいんだよ……君が本当に別世界の人間だって証拠を手に入れるまでは口外したくないんだ……。」
「変わってるわね……別世界のスパイをかばうなんて……。」
「お人よしなんだ……許してくれ。」
「そうね……でなかったらただの馬鹿でしかないわ……。」
「……こりゃ随分と手厳しいな………。」
「普通よ………。」
「…………。」
こうして新たな事実が次々と浮かび上がってきたが、未だ確固たる証拠も無い……。これは厄介事に巻き込まれたようだ……。
私が頭を抱えながら沈みかけた夕陽に視線を遣った時……巨大な影が屋敷を掠めた………。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索