「狼狽」〜第八章〜再来・前編
2004年8月25日 日常……私が男だと勘違いしていた友人、もとい現在の許婚であるエレンブラが無理矢理な同棲をしてから三日が過ぎた。シャルは私達に気を使っているのか、どこかギクシャクしていた。同棲とは言っても、一応ベッドは別にしている。エレンブラはその事が不満らしいが、私にはまだ心の準備というものが……。だから私は必ずエレンブラよりも遅く就寝していた。もし、私が先に眠りに着いたが最後、翌朝、ベッドの中であられも無い姿を晒して甘美な寝息を立てているエレンブラが容易に想像できたからだ。と、そろそろ起床しないと……。時計を見れば時刻は既に早朝六時を過ぎていた。
「ふあぁ〜……さて、今日も一日頑張らないと………。」
「ん、んうぅん〜………。」
ん?今かなり近くで甘い声が聞こえた様な……それに、さっきからベッドがモゾモゾ動いてる気がするんだが……。私は恐る恐る隣で蠢いている塊に覆い被さっている布団を剥いだ。
「!!!!」
思わず硬直してしまった。……咽から叫びが飛び出しそうになったが、今叫んだらシャルまで起こす事になる。私は必死に心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
「ん、ん〜ケイス……駄目、駄目だよぉ…そんなトコ触っちゃ駄目だよ……ボクにだって…むにゃ……心の準備がぁ…。」
一体どんな夢を見てるんだ……。頬を上気させて甘い声を出しながら、エレンブラは透き通る様な白い肌が眩しい肢体をくねらせた。それにしても、何て格好で寝てるんだ……下着じゃないか……。幾ら許婚だからって、こんな格好で寝られちゃ男としては生殺しだ……。私は何とか理性を保つべく、エレンブラを起こして自分のベッドに移ることを促す事にした。
「おい、エレンブラ。起きろ、起きてくれ。自分のベッドに移ってくれないか?」
「ん、ん〜……そんなにボクの胸を見ないでよぉ…恥ずかしいよ……。でも、ケイスだったらイイよ……。」
プニ……ん?何だろう、とても柔らかいモノが手に触れてるな……。私はふと視線を手の方へと遣った。
「!!!!!」
私の手は、エレンブラの胸にしっかりと置かれていた。しかも、エレンブラは私の手を掴み、グリグリと胸に押し付けてくる。
「や、やめろって……エレンブラ!」
「あ…ああ……どう?柔らかいでしょ?」
いかん!このままだと………私は必死に手を胸から退けると、ベッドから飛び起き、手早く身支度を整えると、執務室に逃げ込んだ。
「ハァハァ……何なんだよ、一体……。」
一人で気持ちを落ち着かせていると、再び眠気が襲ってきた。ガクッと頭が落ちそうになったその時、バタンッ!!けたたましい音を立てて扉が開いた。私はビクッと跳ね起きると慌てて寝惚け眼をこすった。
「よぉ!只今、帰ったぜ!!」
ザイバックが王都から戻ってきたらしい。にしてもこんな早朝から随分と元気な事だ……。
「ザイバック……元気だな…。」
「おう!それだけが取り柄だぜ♪」
屈託なく言うとガハハと豪快にザイバックは笑った。
「で、どうだった?」
「あ?ああ、報告か……なぁに、バッチシよ!国王曰く、更なる進展を期待しているぞ。だってよ!」
「そうか……。」
私はホッと胸を撫で下ろした。これで、とりあえずは誤魔化せたワケだ。
「次の報告は?」
「えーっと……一ヶ月後だ!」
一ヶ月後……それまでにシャルが異世界から来た人間だという確固たる証拠を集めないと……。それに【静寂の巫女】の事も、【レイヴァン】の事も……知識にはあるものの、他人に信用させるまでには至っていない。何とか決定的な証拠を見つけないと………。そうだ、ザイバックが報告に行ってから起きた事を言わなければ……。私が人を殺めたと聞いたら、どんな顔をするんだろうか?……自嘲気味に笑うと、私はザイバック不在の間の出来事を洗いざらい話した。
「ふ〜ん……つまり、お前にゃもう一人、人間が潜んでるんだな?」
「そう、しかも…人間と化け物のハーフだ。」
「そして異世界の人間には、俺達の世界の人間を下等動物だと思ってる連中もいると……。」
「そう、私が実際に下等動物扱いされてる……。」
「で、お前はそれが悔しかった。エルバートって奴に少なからず憎しみを抱いた。そしたら、レイヴァンが覚醒して、後はエルバートを塵にしちまった……。」
「そうなんだ……奴の言う事によれば、私がシャルを庇ったり、身元引き受けを願い出たのも、レイヴァンの意思みたいなんだ。」
「シャルは【静寂の巫女】っていうギエルハイムにゃ無くてはならない存在で、レイヴァンはシャルを化け物から守る戦士。」
「そして、シャルが何故この世界に遣って来たか、それは閉じてしまったゲートを開く為。ゲートによってもたらされていた幸福の力……それは争いの少ないアウヴァニアだからこそ存在する力で、化け物の好む混沌の力を中和させる力を持っている。ゲートが閉じている今、幸福の力は供給されず、ギエルハイムは混沌が支配しようとしている……。シャルにも幸福の力同様の能力があるが、混沌の力が膨大な為に、制御が効かなくなった。」
「で、俺達は、それを手伝う……。」
「そういうことだ。」
暫し二人で黙り込んだ。いくらザイバックでも、これだけの話、信じるだろうか?
「……おっしゃ!!事情は大体分かったぜ!!そういうことなら、協力させてくれよ!」
変な心配は要らなかった様だ……。ま、ザイバックらしいか……。あれから一時間は話していたらしく、外には朝日が昇っていた。私とザイバックはグーッと背伸びをして誓いの握手を交わした。
「…すまないな。私の勝手な行動に付き合せてしまって。」
「イイって!気にすんなよ!俺とケイスの仲じゃねえか。今更一人で全部を背負い込もうなんて、言いっこなしだぜ!」
「分かった……。」
ザイバックの言葉に不覚にも感動してしまった。私はジンとする胸を冷ますために水を飲もうと執務室を出ようとした。が、その時
「ん〜朝から騒がしい声がするなぁ……ケイスなの?」
「!!!!エレンブラ!!」
そうだ!忘れてた!そもそも私は彼女から逃げてきたんじゃないか。しかも寝惚けてる所為か、その格好は下着姿のままだった。
何やら気配を後ろに感じ、振り返ると、ザイバックがニヤついていた。
「ほ〜、ケイス……お前も結構やり手だな♪あんな可愛い子をモノにするなんてよ!」
野卑な笑い声を上げると、私の肩をバンバンと叩いてエレンブラを凝視していた。
「へぇ〜……可愛い上に艶かしい……ナイスバディーだし……こんな子、辺境に居たっけか?」
「そ、それが……彼女、エレンブラ、なんだ。」
「へぇ〜…エレンブラねぇ……ってなにぃーーーー!!!!」
ザイバックと私は幼少期よりの腐れ縁で、当然エレンブラとも遊んだ仲なのだ。ザイバックの顔には普段の豪快さは消え失せ、まるで怯える子供の様にうろたえている。
「だって、アイツは…男だろ?」
「それが、私達の勘違いだったらしいんだ。彼女は昔から男っぽく育てられてたらしい……だからだよ。」
何やら納得したように手をポンと叩くと、ザイバックは懐かしそうにエレンブラを眺めた。
「へぇー、エレンブラ、随分と見ない間にこんなセクシーになりやがって……。」
「ま、まぁ10年以上も会ってなかったからね。」
「あれ?ザイバック?……うわーー!久し振りだね♪」
「お?おお、しっかし、お前、なんちゅう格好してんだよ!」
「ふぇ?………!!いっ。」
「いっ?!」
…
「ふあぁ〜……さて、今日も一日頑張らないと………。」
「ん、んうぅん〜………。」
ん?今かなり近くで甘い声が聞こえた様な……それに、さっきからベッドがモゾモゾ動いてる気がするんだが……。私は恐る恐る隣で蠢いている塊に覆い被さっている布団を剥いだ。
「!!!!」
思わず硬直してしまった。……咽から叫びが飛び出しそうになったが、今叫んだらシャルまで起こす事になる。私は必死に心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
「ん、ん〜ケイス……駄目、駄目だよぉ…そんなトコ触っちゃ駄目だよ……ボクにだって…むにゃ……心の準備がぁ…。」
一体どんな夢を見てるんだ……。頬を上気させて甘い声を出しながら、エレンブラは透き通る様な白い肌が眩しい肢体をくねらせた。それにしても、何て格好で寝てるんだ……下着じゃないか……。幾ら許婚だからって、こんな格好で寝られちゃ男としては生殺しだ……。私は何とか理性を保つべく、エレンブラを起こして自分のベッドに移ることを促す事にした。
「おい、エレンブラ。起きろ、起きてくれ。自分のベッドに移ってくれないか?」
「ん、ん〜……そんなにボクの胸を見ないでよぉ…恥ずかしいよ……。でも、ケイスだったらイイよ……。」
プニ……ん?何だろう、とても柔らかいモノが手に触れてるな……。私はふと視線を手の方へと遣った。
「!!!!!」
私の手は、エレンブラの胸にしっかりと置かれていた。しかも、エレンブラは私の手を掴み、グリグリと胸に押し付けてくる。
「や、やめろって……エレンブラ!」
「あ…ああ……どう?柔らかいでしょ?」
いかん!このままだと………私は必死に手を胸から退けると、ベッドから飛び起き、手早く身支度を整えると、執務室に逃げ込んだ。
「ハァハァ……何なんだよ、一体……。」
一人で気持ちを落ち着かせていると、再び眠気が襲ってきた。ガクッと頭が落ちそうになったその時、バタンッ!!けたたましい音を立てて扉が開いた。私はビクッと跳ね起きると慌てて寝惚け眼をこすった。
「よぉ!只今、帰ったぜ!!」
ザイバックが王都から戻ってきたらしい。にしてもこんな早朝から随分と元気な事だ……。
「ザイバック……元気だな…。」
「おう!それだけが取り柄だぜ♪」
屈託なく言うとガハハと豪快にザイバックは笑った。
「で、どうだった?」
「あ?ああ、報告か……なぁに、バッチシよ!国王曰く、更なる進展を期待しているぞ。だってよ!」
「そうか……。」
私はホッと胸を撫で下ろした。これで、とりあえずは誤魔化せたワケだ。
「次の報告は?」
「えーっと……一ヶ月後だ!」
一ヶ月後……それまでにシャルが異世界から来た人間だという確固たる証拠を集めないと……。それに【静寂の巫女】の事も、【レイヴァン】の事も……知識にはあるものの、他人に信用させるまでには至っていない。何とか決定的な証拠を見つけないと………。そうだ、ザイバックが報告に行ってから起きた事を言わなければ……。私が人を殺めたと聞いたら、どんな顔をするんだろうか?……自嘲気味に笑うと、私はザイバック不在の間の出来事を洗いざらい話した。
「ふ〜ん……つまり、お前にゃもう一人、人間が潜んでるんだな?」
「そう、しかも…人間と化け物のハーフだ。」
「そして異世界の人間には、俺達の世界の人間を下等動物だと思ってる連中もいると……。」
「そう、私が実際に下等動物扱いされてる……。」
「で、お前はそれが悔しかった。エルバートって奴に少なからず憎しみを抱いた。そしたら、レイヴァンが覚醒して、後はエルバートを塵にしちまった……。」
「そうなんだ……奴の言う事によれば、私がシャルを庇ったり、身元引き受けを願い出たのも、レイヴァンの意思みたいなんだ。」
「シャルは【静寂の巫女】っていうギエルハイムにゃ無くてはならない存在で、レイヴァンはシャルを化け物から守る戦士。」
「そして、シャルが何故この世界に遣って来たか、それは閉じてしまったゲートを開く為。ゲートによってもたらされていた幸福の力……それは争いの少ないアウヴァニアだからこそ存在する力で、化け物の好む混沌の力を中和させる力を持っている。ゲートが閉じている今、幸福の力は供給されず、ギエルハイムは混沌が支配しようとしている……。シャルにも幸福の力同様の能力があるが、混沌の力が膨大な為に、制御が効かなくなった。」
「で、俺達は、それを手伝う……。」
「そういうことだ。」
暫し二人で黙り込んだ。いくらザイバックでも、これだけの話、信じるだろうか?
「……おっしゃ!!事情は大体分かったぜ!!そういうことなら、協力させてくれよ!」
変な心配は要らなかった様だ……。ま、ザイバックらしいか……。あれから一時間は話していたらしく、外には朝日が昇っていた。私とザイバックはグーッと背伸びをして誓いの握手を交わした。
「…すまないな。私の勝手な行動に付き合せてしまって。」
「イイって!気にすんなよ!俺とケイスの仲じゃねえか。今更一人で全部を背負い込もうなんて、言いっこなしだぜ!」
「分かった……。」
ザイバックの言葉に不覚にも感動してしまった。私はジンとする胸を冷ますために水を飲もうと執務室を出ようとした。が、その時
「ん〜朝から騒がしい声がするなぁ……ケイスなの?」
「!!!!エレンブラ!!」
そうだ!忘れてた!そもそも私は彼女から逃げてきたんじゃないか。しかも寝惚けてる所為か、その格好は下着姿のままだった。
何やら気配を後ろに感じ、振り返ると、ザイバックがニヤついていた。
「ほ〜、ケイス……お前も結構やり手だな♪あんな可愛い子をモノにするなんてよ!」
野卑な笑い声を上げると、私の肩をバンバンと叩いてエレンブラを凝視していた。
「へぇ〜……可愛い上に艶かしい……ナイスバディーだし……こんな子、辺境に居たっけか?」
「そ、それが……彼女、エレンブラ、なんだ。」
「へぇ〜…エレンブラねぇ……ってなにぃーーーー!!!!」
ザイバックと私は幼少期よりの腐れ縁で、当然エレンブラとも遊んだ仲なのだ。ザイバックの顔には普段の豪快さは消え失せ、まるで怯える子供の様にうろたえている。
「だって、アイツは…男だろ?」
「それが、私達の勘違いだったらしいんだ。彼女は昔から男っぽく育てられてたらしい……だからだよ。」
何やら納得したように手をポンと叩くと、ザイバックは懐かしそうにエレンブラを眺めた。
「へぇー、エレンブラ、随分と見ない間にこんなセクシーになりやがって……。」
「ま、まぁ10年以上も会ってなかったからね。」
「あれ?ザイバック?……うわーー!久し振りだね♪」
「お?おお、しっかし、お前、なんちゅう格好してんだよ!」
「ふぇ?………!!いっ。」
「いっ?!」
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