マズイ……嫌な予感が……。

「いやぁーーーーーーーー!!!」

「うわ?!おい、エレンブラ!!大声出すなって!!」

「ケイス以外の男の人に、ボクの体が………。」

エレンブラの顔は恥ずかしさと狼狽に染まっていた。ザイバックはおろおろとしながら私に助けを求める眼差しを送ってくる。

「エ、エレンブラ……落ち着いて、ザイバックは昔よく遊んだ仲じゃないか。」

「で、でもでも……ボクだって、女の子なんだもん。下着姿を見られるのは恥ずかしいもん……。」

「じゃあ、何で私ならイイんだ?」

「だって……それは……ボク、ケイスのお嫁さんになるんだし。」

「何?ケイス……お前、エレンブラとそういう仲だったのか?」

キョトンした顔でザイバックが私の腕にしがみ付くエレンブラを見た。

「どうやら……そうみたいなんだ。ハハ…。」

苦笑いをすると、私はエレンブラに洋服を着る様促した。エレンブラもこくりと頷くと、イソイソと部屋に戻った。

「あの〜、どうかしたの?」

「!!」

シャルが怪訝そうに私とザイバックを交互に見ながら歩いてきた。

「お、起こしちゃったね。」

「そりゃ起きるわよ。あんな叫び声聞いたら……。」

やはり理由はそれか……。全くエレンブラの奴、人騒がせだな……。

「い、いやなんでもないんだよ。ゴキブリが、居たから、それでビックリしたみたいなんだ。」

ふぅんと一応の納得がいったようにシャルは床を見て頷いた。

「よぅ!随分と元気になったみたいだな!」

ザイバックの声に一瞬体をビクッと震わせると、シャルは怯えたような目になって私の背中にしがみ付いた。

「あちゃぁ……やっぱり王宮での事、根に持ってるみたいだな。
俺が押さえ込んで怒鳴ってた事が、怖いんだろ?」

そうか……シャルは王の寝室でザイバックに押さえ付けられて怒鳴られてたんだ。

「大丈夫だよ。彼はザイバックって言って、私の親友なんだ。君を怒ったり押さえたりしたのは、アウヴァニアじゃ王様が一番偉いんだ。そうだな、【静寂の巫女】くらい大事な役割を持った人なんだよ…。それに、王の部屋には許可無く立ち入る事は出来ないんだ。なんせ王って言う人は全ての人間の頂点に立っていると言っても過言じゃないくらい凄い人だからね、中にはその権力に目が眩んで、王を殺そうとする人もいるんだ。だから、シャルが勝手に王の部屋に居たら、暗殺者と勘違いされてもおかしくないんだよ。」

「…………。」

「それに、ザイバックは王を守らなきゃいけない立場にあるんだ。だから、シャルが王を殺そうとしている可能性が十分指摘出来たあの状況ではああするしか無いんだ。」

「……そう……なの?」

「ああ、ケイスの言う通りだ。すまねえな……痛かったろ?」

ザイバックが跋が悪そうに謝ると、シャルの表情に笑顔が戻った。

「そういう事なら仕方ないよ。」

「シャル……許してくれんのか?」

「許すも許さないも、ザイバックはああしなくちゃいけなかったんでしょ?だったら、気にしないよ。」

屈託無く笑うとシャルはザイバックと握手を交わした。うんうん、わだかまりが無くなるのは喜ばしい事だ。私が微笑みながら二人の光景を見ていると、

「着替え終了♪ってあれ?ザイバック……シャルさんと知り合いだったの?」

エレンブラが着替えを済ませ戻ってきた。

「な、何だ?そのシャルさんてのは……。」

ザイバックが不思議そうにエレンブラを見た。

「だって、雰囲気がボクなんかよりもずっと大人だから、シャルさんって呼びたいんだ。ね?シャルさん♪」

「え?!……そ、そうだね。エレンブラ。」

シャルとエレンブラが初めて会話を交わしたのはつい二日前だった。最初はドギマギしていたが、やはり屋敷には少ない女同士だという事もあって、夕食までには随分と砕けていた。シャルさんと呼ぶようになったのも、夕食の会話の中で語ったシャルの恋愛観が随分と大人だったことによるものだ。

「??」

「ま、まぁみんな!こんな廊下に四人で屯してても仕方ないだろ?もうすぐ朝食の時間だから、リビングに行くよ。」

私は三人をリビングに連れて行くと、ふぅと溜息を吐いてしまった。朝から実に気をすり減らしてしまったしな……。

「なぁ?シャルの歓迎パーティー、してなかったよな?エレンブラのも!」

突然パンを頬張ったザイバックが言った。

「ああ!それイイね。ボクもシャルさんもケイスの屋敷に遣って来た身だもんね♪」

遣って来た身って……シャルはレイヴァンの意思が行った事だし、エレンブラは押しかけて来たんじゃないか……心の中で毒づいたが、まぁいいか……楽しそうだしな……。これでより一層みんなの仲が良くなれば、それに越した事は無いんだし……。
私は納得すると、返事をした。

「良いんじゃないか?やろう。シャルとエレンブラの歓迎パーティー。」

「ありがとう、ケイス。」

シャルの嬉しそうな顔にむず痒さを覚えながらも、私は平静を装った。

「それじゃあ、今日の夜八時から始めるから、それまでは各自自由にしててくれ。」

「それじゃあ、ボクは飛び切りのドレスを着なきゃ♪そうだ!シャルさん、街に買い物に行きましょうよ!」

「え?で、でも私……。」

「いいんじゃねえの?女同士二人でドレスでも調達して来いよ!費用は全部、ケイス取締りが負担するから、な?ケイス。」

「あんまり高いのは止めてくれよ。私だって金欠なんだから。」

「はーーい!そいじゃぁ、行こ♪」

「そ、それじゃあお言葉に甘えて……行って来ます…。」

二人が出て行ったのを見計らって、ザイバックが私に近寄ってきた。

「遠慮するなんて、シャルって意外と礼儀正しいんだな♪」

「エレンブラが遠慮が無さ過ぎるだけだよ。」

「ヘヘへ……ま、そうか。それじゃあ俺はちょいと体を鍛えて来る!」

「仕事熱心だね…。」

「いや、趣味だよ♪心を鍛えるにはまず体からって言うじゃねえか!」

「ハハハ……そうだな。」

ザイバックはシャドーボクシングをしながら庭園へと走っていった。さて、と言う事は……部屋の掃除や装飾……パーティーの食事は私が担当する事になるわけだ……。私は人を使う事が昔から苦手で、召使いは雇っていなかった。やれる範囲は私がやっていたし、特に気にもしていなかったから……しかし、こういう状況では召使いの重要性が身に染みる……。今度、募集してみるか……なんて愚痴を零しながらも、私は着々とパーティーの準備に没頭していた。

「粗方は終了した……後は、煮込んでいるビーフシチューが出来上がれば私の仕事は終了だ。さてと、そろそろ私も着替えようかな……。」

部屋に戻って私は着替えを始めた。心が何時に無く踊っている。こんなに楽しみな時間は何年振りだろうか。特に此処最近はゴチャゴチャした事が多かったし、羽を伸ばすには丁度良いか。
………などと浮かれている自分を落ち着かせながら、私はみんなが揃っているであろうリビングへと足を運んだ。この時、私はまだ気付いてなかった……。リビングに着いた自分が目にする驚愕の出来事に…………。

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