「狼狽」〜第十章〜戦士としての目覚め
2004年8月29日 連載―パーティーから一夜明け、私は騒々しい音で目が覚めた。
「どうしたんだ?こんな朝早くから……。」
眠っているエレンブラを起こさない様、そっとベッドから離れると、寝ぼけ眼を擦って音のする中庭に出向いた。
「おう!起きたかケイス。お前も早く顔洗ってこいよ。」
そこにはザイバックとケイナスが剣の訓練をしていた。そうか、昨日約束したんだっけ……剣の教えを請うと……。よし、顔を洗って来るか…。私は部屋に戻り、着替えを済ませると顔を洗って再び中庭に出向いた。
「で、私は何から始めればいいんだ?」
「そうですな、まずはこれを。」
そう言ってケイナスが私に細長い筒を渡した。
「……これは?」
不思議そうに問う私を、ザイバックは呆れた様に見た。
「おいおい……それは刀だよ。鞘に収まってんだよ。」
鞘?……ああ、そうか。あまりに細いんで気付かなかった。ザイバック達の鞘は平たいから……。
「それは【雪凪】。ケイス殿の刀です。」
「え?貰ってもいいのかい?」
「当然です!自分の刀も持たぬ剣士などおりませぬ。」
「でも、高価な物なんじゃ……。」
「心配すんなって!ケイナスがやるって言ってんだ。」
「そうですよ。拙者は是非、受け取って欲しいんです。」
「そ、そうか……ありがとう。大切にするよ。」
凄い…これが刀か。芸術品だな……。スラッと長い刀身は美しく銀に輝き、鞘は細かな装飾が施されている。
「さてと、んじゃ始めるか!!朝食までに、まず基本的な事を覚えてもらうぜ!!」
「では、まずは拙者が刀の扱い方を……。」
よし、私は必ずこの【雪凪】をモノにしてみせる。固い決意を今一度確認し、私の訓練は始まった………。
「まず、刀は刃が片方しかありませぬ。そう、この曲がっていて波模様が付いている薄い部分です。ここでしか斬る事は出来ませぬ。」
「じゃあ、背の部分は何に使うのかな?」
「刃の反対側の背の部分、これは【峰】といって、相手に打撃を与える時に使います。例えば、相手を殺さず、気絶させたい時は峰の部分で相手の後頭部を打ち付けて気絶させます。これを【峰打ち】と言います。」
なるほど。刀はブレードの様に相手を打ち倒す事のみを目的に作られているワケでは無いと……。つまり、無駄な犠牲を極力削減出来ると言うワケだ……。
「次に、刀は叩きつけるだけでは斬れませぬ。刀がその世界最高の切れ味を発揮するには、斬りたい箇所に刀の刃を当てたら、引かなくてはいけませぬ。」
【ブレード】が叩きつけて骨ごと砕いて相手を殺すのに対して、刀はあくまで局所的に相手を切り刻むというわけか。
「斬った際に注意せねばならぬのは、返り血です。刀は切断する武器です。故に切断箇所からは勢い良く血が出ます。刀を引いて斬ったらば、素早く身を後ろにずらして返り血が目に入らぬ様、注意して頂きたい。」
「どうだ?刀の事、分かってきたか?」
「ああ、何と言うか……扱うのに数年を要する理由が分かったよ。戦闘技術がかなり要るみたいだね。」
ザイバックは私の答えに納得したのかうんうんと頷くと、自慢げに鼻を鳴らした。
「フン!流石ケイス!よく分かってんじゃねえか。だったら、まず自分が身に付けるべき事は……分かるだろ?」
「ああ、まずは基礎的な剣の技術が必要だ。ザイバック、頼む。」
「おう!そうだな、まずは腕立て伏せ300回!!」
「何?何で腕立て伏せなんだ?」
「おいおい、ケイス、刀や剣は腕の筋力が無きゃ自在に振れないんだぜ。お前は体力に自信が無いんだろ?だったら当分は基礎体力を作らなきゃな♪ホラ!始め!!」
……どうやら、私の考えが甘かったみたいだ。ザイバックやケイナスもこういう地道な下積みがあったから、今みたいに立派な剣士になったんだ。私だけいきなり刀の訓練にいけるハズが無いんだ……。自分の認識の甘さに僅かな自己嫌悪を抱きつつも、私は黙々と基礎体力作りに励んだ。………雨の日も、風の日も……。
―基礎体力作りを始めて10日経った。
「よし!大体いいだろ!しっかし、よく付いて来れたな。俺達は通常の倍以上の量でカリキュラム組んでたんだよ。ケイス……お前、すげえな。普通の兵士でも音を上げるぜ。」
「え?……私がこなしていた訓練は……通常の倍以上の過酷さだったのか?」
「ええ、早くケイス殿に刀の訓練に移って貰いたく思いましてな。拙者達も、五日が限界かと踏んでいたんですが、まさか全部こなしてしまうとは思いませんでした。やはり、ケイス殿には剣士としての素質がおありだ。」
「うっし!それじゃ今日から剣を使った訓練だ!ケイス、雪凪を抜いてみろ。」
「あ、ああ。」
「よし、それじゃ試しに振ってみ。多分恐ろしく軽く感じるはずだぜ♪」
そんなバカな。腰に下げているだけでズシリと重みが伝わって来ると言うのに……。私は半信半疑のまま刀を鞘から引き抜いた。
「な……そんな……か、軽い!!まるで紙の様に軽い!!」
刀を振ってみるが全く重みを感じない。凄い!!自在に動くぞ!!
「ありがとう!ザイバック、ケイナス!まさか私にここまで筋力が付くなんて……。」
「おいおい、まだお礼を言うには早いぜ!こっから訓練は本番なんだからよ!」
「そうですぞ。では、先ずは基本的な型を、そして足裁きをお教え致します。しっかりと付いて来てくだされ。」
「ああ!お願いするよ。」
私はただ無我夢中で訓練を消化していった。自分でもどこまで体力が保つのか分からなかったが、今はそんな悠長な事は言ってる場合じゃない。一刻も早く、剣士として……。そして、レイヴァンを制御できる力を……。
―訓練開始から20日目……。
私は刀の型、足裁き、相手の攻撃の受け流しや裁き方をほぼ体得していた。体力のほうも、一日40kmは軽く走れるまでになった。ザイバック達も正直驚いているらしい。常人じゃ在り得ない速度で私は剣士としての階段を駆け上がっているらしいのだ。
これも、全てはシャルを守りたい、レイヴァンの力を制御したいという想いが後押ししてくれているからだろう……。今日からは、実際に腕利きの剣士を募っての実践訓練に移るらしい。漸く、漸く実践まで漕ぎ着けた。【雪凪】も既に私の体の一部の様になっている。コンディションもベストだ。今までの私なら在り得ない事だが、今の私は自信を持ち始めていた。
「今日は試合なんだよね?あんまし無理しないでよ。ケイスに何かあったら、ボク……。」
「分かってるよ。私は絶対勝つよ。だからエレンブラは応援していてくれ。」
心配そうに体を寄せて来るエレンブラをギュッと抱き寄せると、私は頬に口づけをして部屋を後にした。
「おう!それじゃ、記念すべき実践といくか♪」
「ケイス殿には戦場で戦果を挙げられる程の技術は叩き込みました故、自信を持って下され。」
「ああ、私はまだ剣士としては未熟だ。でも、精一杯やれるだけはやるつもりさ。」
「そうだ!よく言ったぜ!!短期間での急成長に少しは天狗になってるかと心配したけど、どうやら余計なお世話だったみたいだな♪」
…………こうして、私は剣士としての腕を確かめる為、戦いに飢えた戦士達の中へと飛び込んでいく事になった………。待っていろ、レイヴァン。私は二度と過ちは繰り返さない!繰り返させない!!
To be continue……
「どうしたんだ?こんな朝早くから……。」
眠っているエレンブラを起こさない様、そっとベッドから離れると、寝ぼけ眼を擦って音のする中庭に出向いた。
「おう!起きたかケイス。お前も早く顔洗ってこいよ。」
そこにはザイバックとケイナスが剣の訓練をしていた。そうか、昨日約束したんだっけ……剣の教えを請うと……。よし、顔を洗って来るか…。私は部屋に戻り、着替えを済ませると顔を洗って再び中庭に出向いた。
「で、私は何から始めればいいんだ?」
「そうですな、まずはこれを。」
そう言ってケイナスが私に細長い筒を渡した。
「……これは?」
不思議そうに問う私を、ザイバックは呆れた様に見た。
「おいおい……それは刀だよ。鞘に収まってんだよ。」
鞘?……ああ、そうか。あまりに細いんで気付かなかった。ザイバック達の鞘は平たいから……。
「それは【雪凪】。ケイス殿の刀です。」
「え?貰ってもいいのかい?」
「当然です!自分の刀も持たぬ剣士などおりませぬ。」
「でも、高価な物なんじゃ……。」
「心配すんなって!ケイナスがやるって言ってんだ。」
「そうですよ。拙者は是非、受け取って欲しいんです。」
「そ、そうか……ありがとう。大切にするよ。」
凄い…これが刀か。芸術品だな……。スラッと長い刀身は美しく銀に輝き、鞘は細かな装飾が施されている。
「さてと、んじゃ始めるか!!朝食までに、まず基本的な事を覚えてもらうぜ!!」
「では、まずは拙者が刀の扱い方を……。」
よし、私は必ずこの【雪凪】をモノにしてみせる。固い決意を今一度確認し、私の訓練は始まった………。
「まず、刀は刃が片方しかありませぬ。そう、この曲がっていて波模様が付いている薄い部分です。ここでしか斬る事は出来ませぬ。」
「じゃあ、背の部分は何に使うのかな?」
「刃の反対側の背の部分、これは【峰】といって、相手に打撃を与える時に使います。例えば、相手を殺さず、気絶させたい時は峰の部分で相手の後頭部を打ち付けて気絶させます。これを【峰打ち】と言います。」
なるほど。刀はブレードの様に相手を打ち倒す事のみを目的に作られているワケでは無いと……。つまり、無駄な犠牲を極力削減出来ると言うワケだ……。
「次に、刀は叩きつけるだけでは斬れませぬ。刀がその世界最高の切れ味を発揮するには、斬りたい箇所に刀の刃を当てたら、引かなくてはいけませぬ。」
【ブレード】が叩きつけて骨ごと砕いて相手を殺すのに対して、刀はあくまで局所的に相手を切り刻むというわけか。
「斬った際に注意せねばならぬのは、返り血です。刀は切断する武器です。故に切断箇所からは勢い良く血が出ます。刀を引いて斬ったらば、素早く身を後ろにずらして返り血が目に入らぬ様、注意して頂きたい。」
「どうだ?刀の事、分かってきたか?」
「ああ、何と言うか……扱うのに数年を要する理由が分かったよ。戦闘技術がかなり要るみたいだね。」
ザイバックは私の答えに納得したのかうんうんと頷くと、自慢げに鼻を鳴らした。
「フン!流石ケイス!よく分かってんじゃねえか。だったら、まず自分が身に付けるべき事は……分かるだろ?」
「ああ、まずは基礎的な剣の技術が必要だ。ザイバック、頼む。」
「おう!そうだな、まずは腕立て伏せ300回!!」
「何?何で腕立て伏せなんだ?」
「おいおい、ケイス、刀や剣は腕の筋力が無きゃ自在に振れないんだぜ。お前は体力に自信が無いんだろ?だったら当分は基礎体力を作らなきゃな♪ホラ!始め!!」
……どうやら、私の考えが甘かったみたいだ。ザイバックやケイナスもこういう地道な下積みがあったから、今みたいに立派な剣士になったんだ。私だけいきなり刀の訓練にいけるハズが無いんだ……。自分の認識の甘さに僅かな自己嫌悪を抱きつつも、私は黙々と基礎体力作りに励んだ。………雨の日も、風の日も……。
―基礎体力作りを始めて10日経った。
「よし!大体いいだろ!しっかし、よく付いて来れたな。俺達は通常の倍以上の量でカリキュラム組んでたんだよ。ケイス……お前、すげえな。普通の兵士でも音を上げるぜ。」
「え?……私がこなしていた訓練は……通常の倍以上の過酷さだったのか?」
「ええ、早くケイス殿に刀の訓練に移って貰いたく思いましてな。拙者達も、五日が限界かと踏んでいたんですが、まさか全部こなしてしまうとは思いませんでした。やはり、ケイス殿には剣士としての素質がおありだ。」
「うっし!それじゃ今日から剣を使った訓練だ!ケイス、雪凪を抜いてみろ。」
「あ、ああ。」
「よし、それじゃ試しに振ってみ。多分恐ろしく軽く感じるはずだぜ♪」
そんなバカな。腰に下げているだけでズシリと重みが伝わって来ると言うのに……。私は半信半疑のまま刀を鞘から引き抜いた。
「な……そんな……か、軽い!!まるで紙の様に軽い!!」
刀を振ってみるが全く重みを感じない。凄い!!自在に動くぞ!!
「ありがとう!ザイバック、ケイナス!まさか私にここまで筋力が付くなんて……。」
「おいおい、まだお礼を言うには早いぜ!こっから訓練は本番なんだからよ!」
「そうですぞ。では、先ずは基本的な型を、そして足裁きをお教え致します。しっかりと付いて来てくだされ。」
「ああ!お願いするよ。」
私はただ無我夢中で訓練を消化していった。自分でもどこまで体力が保つのか分からなかったが、今はそんな悠長な事は言ってる場合じゃない。一刻も早く、剣士として……。そして、レイヴァンを制御できる力を……。
―訓練開始から20日目……。
私は刀の型、足裁き、相手の攻撃の受け流しや裁き方をほぼ体得していた。体力のほうも、一日40kmは軽く走れるまでになった。ザイバック達も正直驚いているらしい。常人じゃ在り得ない速度で私は剣士としての階段を駆け上がっているらしいのだ。
これも、全てはシャルを守りたい、レイヴァンの力を制御したいという想いが後押ししてくれているからだろう……。今日からは、実際に腕利きの剣士を募っての実践訓練に移るらしい。漸く、漸く実践まで漕ぎ着けた。【雪凪】も既に私の体の一部の様になっている。コンディションもベストだ。今までの私なら在り得ない事だが、今の私は自信を持ち始めていた。
「今日は試合なんだよね?あんまし無理しないでよ。ケイスに何かあったら、ボク……。」
「分かってるよ。私は絶対勝つよ。だからエレンブラは応援していてくれ。」
心配そうに体を寄せて来るエレンブラをギュッと抱き寄せると、私は頬に口づけをして部屋を後にした。
「おう!それじゃ、記念すべき実践といくか♪」
「ケイス殿には戦場で戦果を挙げられる程の技術は叩き込みました故、自信を持って下され。」
「ああ、私はまだ剣士としては未熟だ。でも、精一杯やれるだけはやるつもりさ。」
「そうだ!よく言ったぜ!!短期間での急成長に少しは天狗になってるかと心配したけど、どうやら余計なお世話だったみたいだな♪」
…………こうして、私は剣士としての腕を確かめる為、戦いに飢えた戦士達の中へと飛び込んでいく事になった………。待っていろ、レイヴァン。私は二度と過ちは繰り返さない!繰り返させない!!
To be continue……
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