私は驚異的とも呼べる速度で戦士へと変わっていった。粗方の訓練は全てこなして来た。今日はザイバックの試みでいよいよ実践訓練となった。そう……これがレイヴァンを抑える第一歩になる……。

「どうした?不安か?」

「いや、いつもの考え事さ。不思議と恐れは無いよ……。」

「その意気ですぞ。自信は力になります故。」

「ま、それならイイんだがよ。さて、そろそろ会場に到着だ。きっとウジャウジャ居るぜ♪戦いに飢えた狂犬どもが。」

ザイバックは楽しそうにある場所を指差した。視線を向けると、そこにはカルナムールに唯一存在する道楽施設「コロッセオ」があった。コロッセオは主に賭け事(ギャンブル)に使われる施設で、武道トーナメントなどが主な人気である。まぁ、確かに御誂え向きではあるか……。

「今日はお前にトーナメントに参加してもらうぜ。他の参加者は文字通り戦いに飢えた狂犬がいっぱいだぜ。なんせ賞金が掛かってんだ……あいつ等はこれで飯を食ってる。強いぜ、金が絡むと人って奴は……。」

私はザイバックの言葉に頷くと、コロッセオに足を踏み入れた。
……凄い。受付ロビーには既に溢れかえる様に人が群がっている……この中で私は戦うのか……トーナメント参加者と思しき者の眼は確かに狂気に満ちている……。これが、戦士……。萎縮する私にケイナスが声を掛けてきた。

「どうですかな?あれが戦う者達です。己の力に絶対的な自信を持っているから強い……そしてしぶといんです。」

「どうやらそうみたいだね。眼を見て確信したよ……私も本気で挑まなきゃ、殺される……。」

背筋にゾワッとした変な感覚が走った。寒気とも違う、何か高揚感に近い………。ザイバックは何やら壁に貼ってある紙に見入っている。

「何を、見てるんだ?」

「あ、ああこれか?これはトーナメント表だよ!お前のエントリーは昨日済ませといたから、ホラ!見ろ。」

何!?勝手に済ませていたのか……。どうやら訓練開始当初からこれを計画に入れてたな……。若干腑に落ちなかったが、今更どうこう言っても仕方ない……どれ、表に目を通しておくか……
なるほど、私の最初の相手は【クレイサン】か……って誰なんだ?

「ほう、クレイサンか……。」

ザイバックがニタニタと笑いながら言った。

「知ってるのか?」

「ああ、クレイサン、通称ハンマークラッシャー。鎖に繋がったハンマーで慈悲の欠片も無く打ち砕く、まぁ殺人鬼みたいな奴だ……。俺も騎士団に入る前に一度戦ってんだ。ま、俺が勝ったけどな♪」

当たり前だろうな……。私にはザイバックに勝てる人間なんて居るとは思えない……彼は戦いの風が見えるんだ……。

「では、第一戦を開始する!クレイサン!ケイス!は競技場に!」

来た……いよいよ実践だ……。ザイバック達の声援を背に受け、私は競技場に入った…………。

「な、なんだ?!」

競技場に入った瞬間、私は狼狽してしまった。地響きの様な大歓声が沸きあがり、360度観客で埋め尽くされている……。

「では、これよりケイス・アルムナスとクレイサン・カイルの試合を始める。両者、前へ!!」

「ヘヘヘヘヘ……今日はお前が餌食になってくれるか……。」

「お手柔らかに頼むよ。」

私には恐怖や不安といったものは無かった。そう、レイヴァンに支配されるより怖いものなど存在しない……。

「両者武器を取れ………始め!!」

大きな大砲の音が響き、戦いの火蓋が切って落とされた。私は雪凪の柄に手を添えてジリジリと間合いを計った。居合いを決めるには後もう半歩の距離が居る。

「おいおい、どうした?仕掛けねえのか?なら、俺からいくぜ!」

クレイサンはブンブンと巨大なハンマーを回し始めた。距離にして三メートル……ハンマーを当てるにはもう少し近づかねばならないはずだ。
私はクレイサンの足元に神経を集中させた………。

「ホラよ!!」

大きく一歩を踏み出すと、クレイサンの手からハンマーが放たれた。

「今だ!!」

私は飛んできたハンマーを瞬時に交わして間合いを一気に詰め、懐ががら空きになったクレイサンの腹部に一閃を走らせた。

「ん?どうした?何かしたか?」

「ちょっとね、君のお腹を切開させて貰ったよ。」

「何バカな事………!!?……ぐわぁっ!!」

体を捻ってコチラを振り返ったクレイサンの腹部から勢い良く血飛沫が舞った。苦痛に顔を歪めるとクレイサンは呆気なく倒れてしまった……。これが、殺人鬼??全く弱い……。私は自分の力がこれ程までに付いているとは、正直驚きだった。観客も全員何が起こったのかを理解できずにポカンとしている。

「勝者!!ケイス・アルムナス!!」

その言葉に、漸く会場が戦いの終了を把握した様に沸き返った。
こうして私の初陣は勝利で飾られた………。その後も私は自分でも恐ろしいほどに次々と対戦相手を薙ぎ倒していった。そして………遂に、決勝まで来てしまった。ザイバックやケイナスは心底嬉しそうにしていたが、私にはどうも解せなかった。私は一ヶ月程度の訓練でここまで来ている。仮にも対戦相手はザイバックを唸らせる程の実力者ばかりだ。幾ら訓練の内容が通常よりも数倍厳しかったとはいえ、これはあまりに強くなり過ぎだ…。

「では決勝を始める!両選手は前へ!!」

私の懸念を他所に、無常にも試合の開始は告げられた。対戦者は
【ケント・クラブル】と言って、レンブラント王国と肩を並べる大国【ドレケイティア】の出身で、レンブラント王国内でも有名な凄腕剣士である。

「さてと、お手並み拝見といこうか。」

ケントは背中の愛剣【クレヴァライズ】に手を掛けてその場に静止した。私は雪凪に指を添えると、ケントににじり寄った。凄い威圧感だ。指が震えて居合いが出来ない。……!!……くっ!こんな時に頭痛だと?……いや、違う、この感覚は……レイヴァン!!……。

「どうした?仕掛けないのならコチラから行くぞ……。」

どうして、出て来た……。どうして?ひでえじゃねえか…。お前は俺を受け入れたハズだぜ?なのにこんな楽しいパーティーに俺を呼ばないなんてよぉ……。止めろ!お前は殺戮しか生まない……。いいじゃねえか……静寂の巫女さえ無事ならイイんだよ……。後は俺の飢えを満たす為の道具だ。……くっ!!私はお前など認めない……。殺戮を糧にするなど……絶対に許さん。……!!何だ?何て力だ?!……うおっ!?俺が、俺の意識が……。まさか、お前……俺を吸収する気か?!……もし、それでお前が消滅するなら…やってやる!……止めろ!!そんな事をしたらお前は人じゃ無くなるぞ!!……構わない…。お前をこのまま野放しにするよりもマシだ。……止めろ、止めろぉぉぉぉぉぉぉ!!………。レイヴァンの声は消えた。体が熱い…。レイヴァンの存在は消えた……。私は……レイヴァンを吸収したのか……これで、私は人じゃ無い………人じゃ…………。

「おい!大丈夫か?」

「………ん?ここは……。」

「ここは医務室だよ!ケイス、お前突然倒れてどうしたんだよ!?」

そうか……レイヴァンを吸収した後、私は気を失ったのか……。

「それに、ケイス……お前、何があった?顔が変わってるぞ。」

「何?顔が……!!まさか、鏡は!?」

「ここだ!ホレ!」

ザイバックの差し出した鏡に映っていたのは私の面影を残した別人だった……。吸収の業……なのか?………。

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