―翌日……。まだ朝日も顔を出さない薄靄掛かった葵色の庭に、レムは一人佇んでいた。

「(今日からいよいよ全ての謎を解き明かす旅が始まる…。ゲートに行けば、きっと分かる筈だ……。俺に秘められし謎が…この世界の真の姿が……。)」

大きく深呼吸をして、レムは背伸びをした。肺に明け方のヒンヤリとした心地良い空気が入っていく……と、レムは不意に後方に気配を二つ感じ、背伸びを止めて気配に向かって踵を返した。

「よっ!やっぱ起きてたか。」

「やはり、これからの事を考えると…おちおち寝てはいられませんな。」

気配はザイバックとケイナスだった。レムはホッとした様に胸に手を当てると、にこやかに二人に手を振った。

「俺もさ。俺たちが同行する旅は決して一筋縄じゃ行かないハズだからな……。ギエルハイムに巣食う魔物達にとって、シャルは忌むべき存在であり、また、幸福の力を齎すゲートも邪魔なハズだ……。俺達の旅は魔物にとっては絶対に阻止したいもの……。
いくらアウヴァニアが平和だと言っても、それは多分今日までの話さ……。奴等は必ず俺たちを殺しに来る……。」

柔らかい顔は一変して真剣な面持ちに変わった。旅の中で常に狙われる命……平和なアウヴァニアでは想像も付かぬほどの危険と恐怖……それを今、彼等は感じていた。

「さて、そろそろ朝陽が昇る頃だ。シャルとエレンブラを起こして、朝食にしよう。」

レムが重苦しい雰囲気を掻き消すように明るく言った。ザイバックやケイナスもそれに呼応する様に明るく笑いを見せた。三人は朝食の準備をする為に、リビングへ続く通路を抜き足で通り過ぎていった。まだ、女性陣は寝ている……朝食が出来るまでは起こすまい……彼等なりの紳士的振る舞いのつもりだった。漸くの事でリビングに着くと、

「おはよっ!遅いね三人とも!」

「もう、朝食の準備はしてあるわ。」

……既に女性陣は起きていた……。しかも朝食の準備までしてある……。と、レムはふとエレンブラが気になった。目の前に居るエレンブラは昨日の事が嘘のように普段通りである……。

「エレンブラ……昨日の事は、大丈夫かい?」

エレンブラは少し躊躇った様にレムを見ると、次の瞬間には満面の笑顔で応えた。

「全然平気だよ!!……ってまぁ、少しはショックだったけど……レムになったってボクの婚約者だよ♪それに、かっこよくなったしさ!ほんとはまだ信じられない事も多いんだけど……レムがケイスだって事は信じられるからイイんだ♪」

「エレンブラ………ありがとう。」

「エヘヘ、照れるなぁ♪」

エレンブラは照れ臭そうにおでこを掻くと、そそくさとダイニングへ駆けて行った。

「な?俺の言った通りだろ!?俺達は深い絆で結ばれた仲間なんだからよ!今更、サプライズな秘密の一つや二つあった所で、愛想尽かすような下衆はいねえよ!な!エレンブラ!」

後ろから肩を組んで来たザイバックが得意げに言うと、エレンブラももちろん!と言った様に大きく頷いた。満足気にザイバックはレムの顔を覗きこむと、シャル、ケイナスを一瞥して、大きく笑った。

「ガーッハッハッハッ!最高の仲間ってのはこういう事だな♪」

それに呼応する様にあたりは笑いに包まれた……全員がザイバックと同じ想いであった……。

「さ、朝ごはん出来たよ♪今日から旅なんだから、精を付けなきゃね!」

「!!エレンブラ…知ってたのか?」

ザイバックが口に含んだコーヒーを噴き出した。

「もちろん♪シャルさんがボクもって言うからさ♪」

「シャル殿……。」

「そうよ。私が一緒に来てってお願いしたの……。愛する人や友人が危険な旅に身を晒すのを、黙って見送って帰りを待っているだけなんて……旅先で共に命を落とす事よりも遥かに辛いから………。」

シャルの顔にふうっと悲しみが浮かんだ。

「そうだな。行くならみんな一緒だ。」

レムはシャルの異変を感じたのか、不意に立ち上がって大声で言った。

「おう!レムの言う通りだぜ!」

単純な思考回路のザイバックはあっさりとエレンブラ同行を受け入れた。一方、ケイナスはまだどこか躊躇を見せていたが、ふうと小さく溜息を吐くと、

「そうですな……少々危険ですが、エレンブラ殿も同行させましょう……ただし!エレンブラ殿には旅の中で拙者の指導の下、護身術を身に着けていただく事が条件です!」

護身術体得を条件に、自分の中で納得をいかせたようだ。

「わかった!ボクも足手纏いにはなりたくないから。」

エレンブラ俄然やる気である。こうして、旅の面が揃ったのであった………。

―朝食後、各々はリビングで出発前の談笑していた。これでこの屋敷も暫くは空き家になる……。レムは今まで何気なしに過ごして来た屋敷に、改めて振り返ってみると懐かしさを覚え、心なしか視線は屋敷を見回していた……と、その時、不意に大きな気配をレムは感じた。リビングの中央に、明らかな“異様”が感じて取れる……。他の面々も次々に気配に気付いたらしく、談笑を止めて神経を集中させた。

「まさか……敵か?」

「いいえ、違うわ……この気配は……。」

シャルが次の言葉を紡ごうとしたその時、リビングの中央の空間が捻じ曲がったかと思うと、歪みの中から一人の優男が現れた。
シャルを除いては、その現実を大きく逸脱した光景に目を奪われ、ただ立ち尽くしていた。優男は地面に足を着けると、片手を振って空間を修復させた……エルバートと同じように……。

「よう!諸君。御機嫌よう♪」

優男はニコっと笑うと明るく言った。

「アクイラ!!どうしてここに?!」

アクイラと呼ばれた優男は、薄紫の長髪に美しさを垣間見せる顔立ちをしていて、シャルに名を呼ばれると、満面の笑みを湛えてシャルに近づいていった。

「おお〜♪これは巫女様!私を覚えておいでで!」

ぽかんとその様子を見ていたレムは、不意に我に返った。

「シャル!その男は?!」

「彼はアクイラ……彼もまた、【護り手】よ。」

「ほう♪私もと言う事は……そこの君!君も護り手だね。でもおかしいなぁ……コッチの人間には護り手の力なんて……。」

「俺はレイヴァンを吸収して、真人(トゥレイオ)となった新たな護り手だ。」

「!!真人(トゥレイオ)だって?!そいつぁ凄いじゃないか♪それも、あの殺戮野郎を吸収したんだろ?やるねぇお兄さん♪」

レムに続き他の面々も漸く事態を把握し始めた。

「おい!じゃあお前も仲間なのか?」

ザイバックは一度悩みが吹っ切れたら、いきなり核心を突くような事を平気で言えるのだ……。レムは常々そこだけは見習いたいと思っていた……。

「ん〜…君等が巫女様を護りながらゲートを開きに行くって言うなら、仲間……かな。」

あまりにも敵意の無い話し振りに、彼等の中にアクイラを警戒する心は無くなっていた。暫く質疑応答を交わした後、アクイラは仲間として認められた。

「それじゃあ、ヨロシク頼むよ!共に巫女様を護ろうぜ〜♪」

「おーーーー!!やってやろうぜ!アクイラ!!」

ノリが近いのか、同じ単細胞なのか、ザイバックとアクイラは既に意気投合している。

「しかし、何でまたアクイラが……。」

「おっと、そうだった!それを言わなきゃ!!……巫女様、今ギエルハイムは大変危なくなっています。一刻も早く、ゲートを開かねばなりません。」

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