―「イーシュの森」…そこは昼間にも関わらず、生い茂る木々に日光が遮られ、薄暗く不気味な空気を醸し出していた……。

「どこだ?!出て来い魔物!!」

レムは怒号を発し、腰の雪凪に手を掛け構えた。すると、その声に反応する様に、アクイラがエレンブラとシャルを抱えて走ってきた。

「やっと追い着いたぜ!あんまし単独で突っ走るなって……。」

息も絶え絶えにその場に座り込むと、アクイラは皮肉った。

「すまない……俺も気が動転してた様だ…。」

「ま、無理も無いか……コッチじゃ想像の産物だからな、魔物って奴は。」

アクイラが苦笑しながら言った。と、その時!シャルの顔が突然に強張り、その場にうずくまると、頭を抑えて呻き始めた。

「どうした?!シャル!!」

「巫女様!!神通力ですね!」

「シャルさん!!しっかり!」

「う……うぅぅぅ、くっ……直…近くに……。」

シャルはそう言うと、直近くに立っている巨木を指差した。一同に異様な緊張が走る……。すると、アクイラは思い切った様に手を振りかざすと、何かを唱え始めた。

「大空に鷹の意思を反芻せし我が力よ……全てを断つ真空の刃を以って応え給え……。【エア・ブラスト】!!」

ギュオオオオオ……アクイラの掌に目に見て取れる程の気圧の渦が集まり始めた。気圧の渦は次第に形を変え、鋸の刃に近い形のまま円形になると、凄まじい勢いで放たれた。

「チェックメイト♪」

ズバンッ!!……巨木はまるで紙切れの様に幹から真っ二つに裂けていた。あまりに現実から逸脱した光景にレムやエレンブラは言葉を失った。……これが、護り手の力……これが魔物が棲む世界で生きる人間の能力……。暫し見入っていると、不意にアクイラから声が飛んだ。

「レム!!巨木がコッチに倒れてきてる!!焼き尽くしてくれ!」

「何だって?!俺はそんな事……!!出来る…。」

「そうだろ?なんたってレイヴァンを吸収したんだ。炎の力はレムに宿ってるんだよ!」

そう……レムはレイヴァンを吸収した…つまり、レイヴァンの能力はすべからくして宿っている……自身に言い聞かせるとレムは静かに目を閉じた。

「灼熱の烈火に燃ゆる熱き血潮を権化とせり……。対峙せしものよ…灰と化せ!【バーニング・スプラッシュ】!!」

ゴオォォォォォォォ!!!!……真っ直ぐ巨木に掲げられたレムの掌が紅く光ったと思うと、次の瞬間、灼熱の業火の渦が噴射され、巨木は一瞬にして灰になっていた…。

「すごい…これが、俺が手に入れた力……なの…か?」

掌を見つめ佇んでいると、アクイラの声が響いた。

「ヤバイ!!後ろだ!!」

「なに!?」

咄嗟に振り返ると、そこには身の丈が三メートルを悠に越える巨大な生物がいた…。明らかに動物ではない、異形のそれは、赤々と鋭い眼光を効かせ、地響きにも似た唸りを上げてレムを睨みつけている…。レムはゾクッと背筋が凍るような寒さに襲われた。と同時に恐怖が心と頭を支配し、一歩も動けなくなってしまった。

「どうした?!早く距離を置け!!」

「だめ…だ……体が言う事を効かない……。」

魔物は、その押し潰すようなプレッシャーと恐怖で満ち、レムの体を硬直させていた。アクイラはチッと舌打ちをすると、シャルとエレンブラを傍の木陰に隠れさせた。

「仕方ない……か。出来れば被害を留めたかったが……そうも言ってられないみたいだし……。」

何かを納得すると、レムに向かって指示を出した。

「おい!そっから動くな!!一発でソイツを片付けるからよ!」

「分かった……でも、なるべく早く頼むよ……。」

「分かった!!」

アクイラはふうと大きく息を吐き出し、静かに目を閉じると、両腕を眼前で交差させ、再び何かを唱え始めた。

「汚れ無き大地と静寂に澄んだ大空よ……汝の均衡を乱せし異形を浄化すべくその御心の力、賜りたもう……。」

キイィィィィーーーーー……甲高い音が場を包んでいく…。アクイラの足元からは青白い光が差し込み、体の周りを稲光が走り回った。バチバチと弾ける音が辺り一帯に広がり、レムは肌に電気の様な痺れが走ったのを感じた。―と、

「フフフフ……ヤハリソウカ。」

魔物の口から言葉が発せられた。驚愕にレムは目を見開き、魔物を見据えた。アクイラも思わず詠唱を止めた。

「チッ……お前、【ゴーレム】か…。」

アクイラが厄介事に出くわした様に顔をしかめた。

「ゴーレム?」

「そうだ、魔物は基本的には喋れないんだけど、一部の例外はこうやって話せるんだよ。ソイツはゴーレムって言う、魔力で動いてるいわば人形だな!」

「フン、小賢シイ……オレハ人形デハナイ!オレハ魔物ダ!」

明らかな憤怒を浮かべてゴーレムは怒号を上げた。

「ヘイヘイ……じゃ、その魔物のゴーレムに聞く。何でアウヴァニアに居る?」

「決マッテイル……。ギエルハイムハ既ニ大陸ノ七割ガ魔素ニ侵食サレタ!アマリニモ魔素ガ膨大ナ為ニ、アウヴァニアニ染ミ出シテ来テイルトイウワケダ。」

不安は的中した。アクイラの予想通り、魔素は既にギエルハイムに収まりきれなくなりつつある様だ……。レムの一番恐れた事態が、その扉を開き始めている……。レムは愕然とした。そして、やり場の無い焦燥感に駆られた……。急がなくては……。

「で、巫女様を殺して、俺達を阻止しようって寸法か?」

「ソノ通リダ!!貴様等皆殺シダァァ!!」

グンと腕を振り上げるとゴーレムは動けないレムにその堅固な拳を叩き降ろした。

「レムーー!!」

シャルの悲鳴にも似た声が響いた。と、その時……ゴーレムの腕がググっと持ち上がった……レムだ。

「俺は迷わない……例えそれが非現実的な事だろうと関係無い……シャルを……シャルを殺そうとする奴は例え神であっても俺は迷わず戦う!!!」

「ナ?!ソンナ馬鹿ナ!!」

「残念だが、俺はお前を許すわけにはいかん。巫女の護り手として……シャルの仲間として!!」

腕を押しのけると、レムは雪凪に手を掛け、詠唱を始めた。

「フフフフ、剣ナド効カヌゾ!」

「地獄の業火よ……我が剣に宿れ……今此処に!!【マグマヴァサール】!!」

雪凪は次の瞬間、灼熱の炎を帯び、レムは詠唱終了と同時に居合いを決めた。時間にして僅か数秒の事だった……。

「フン、ダカラ言ッタダロウ!!効カ……!!!!!」

グォォォォォ!一瞬にしてゴーレムは火柱に飲み込まれ、消滅した。辺りに暫しの沈黙が流れる…と

「ひゅ〜!凄いじゃねえの!」

突然、横からザイバックの声が聞こえた。

「ザイバック!?一体何処にいたんだ?」

「わりいわりい!ケイナスと二人で迷っちまって……。にしても、あれがバケモノか……あ〜あ、俺も一戦交えたかったぜ……。」

心底残念そうに俯くザイバック……。彼には相手が魔物だとかは関係ない様だ……。

「いや、しかし見事!拙者も教えた甲斐があります!」

ケイナスが数秒遅れで追い着いてきた。シャルとエレンブラも安心し、木陰から身を出し、レムの元に駆け寄ってきた。と、アクイラが突然思い出したように大声を上げた。

「あーー!!しまった!荷物を繁華街に置きっぱなしだ!!」

一同「なにぃーーーーー!!!」

………こうして魔物を倒したレム一行の旅は続くのであった。

「ボク、パンツ取られたかもーー!!」

「拙者もパンツが…」

「んなわけあるか!いいから走れーー!」

    

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索