「狼狽」〜第十四章?〜魔素(グレヴァルム)
2004年9月13日 連載日は半分ほど傾き、変死体に群がっていた野次馬達も元の一般町民へと戻っていた……。
「ハァハァハァ……やっと着いたぜ…荷物は確かこの辺に…あ!あった!」
一番乗りで繁華街に着いたアクイラは、噴水の傍らに置いてある見覚えのある荷物を見つけた。小躍りしながら荷物に駆け寄り、入念なチェックを行い始めた頃、残りの面々が疲労を浮かべ追い着いてきた。
「ゼェゼェ……ったく!何で荷物を置いてきちまったんだよ…。
お陰で余計な体力を消耗しちまったじゃねえか……。」
愚痴を零しながらザイバックは不機嫌そうに荷物に近づいた。
ケイナスも自分の荷物を手に取ると、中身を検査し始めた。
「ふぅ、拙者のは無事でした。」
安心した様に顔を綻ばせ、ケイナスはその場にペタリと腰を落ち着けた。
「ボクのは……うん!無事だったみたい♪」
エレンブラの荷物も無事だった様で、ニコニコと嬉しそうに、レムに荷物を見せている。
「巫女様の荷物は無事ですよ!もちろん、私のもね♪」
ニンマリとアクイラがOKサインを出した。シャルはその合図にクスっと笑うと、ホッとした様に力なく座り込んだ。
「さて、じゃあ俺のは……うん、何とも無い…。」
レムは自分の荷物に異常が無いと確認すると、シャルに素っ気無く質問をした。
「なぁ、シャル……アクイラが言っていたんだが、神通力って何だい?」
「神通力は、魔素を感知して頭痛や腹痛として教えてくれる力なの。魔素の濃度が高ければ高いほど、結果としては私は苦しむ事になる…かな?」
微笑んではいるが、レムにはそれが苦痛を誤魔化す為の笑いに見えた。これから先、彼女は苦しみ続けるのだろうか……そんな事が頭を過ぎる…。
「でも、心配しないで!それはこの姿だからなの……静寂の巫女は成人するまで、身を確実に護るために防御能力が突発的に高いのよ。だから…ゲートを開いて、ギエルハイムに戻って元の姿に戻れば神通力は無くなるわ……。」
「そうか……でも、辛かったら言うんだ。俺達が必ず助けるから。」
シャルの顔に歓喜が浮かんだ。ニッコリと満面に笑みを湛え、シャルは大きく背伸びをした。
「ありがとう!……。」
「お互い様だよ!」
二人はその場に寝転がり、空に向かって大きく笑った。
「うわ!ズルイよシャルさん!ボクも!」
嫉妬を露にしてエレンブラはレムの横に急いで寝そべって同じように笑った……。
「そいじゃ、コッチは男三人で笑いますか?」
アクイラが冗談めいた声色で座った。
「お!いいねぇ!おい、ケイナス!」
「い、いえ…拙者は遠慮させて頂きます。この様に人通りが行き交う場所で寝そべって笑うなどと……武士としてはいたし兼ねる……。」
「冗談だよ冗談♪そんな気持ちの悪い真似なんてしないって!」
本気で躊躇するケイナスを見て、アクイラは野卑に笑いながら言った。ケイナスはホッと胸を撫で下ろすと、
「では、拙者は今晩の宿を探してきます故、失礼…。」
イソイソと宿探しに向かった。ケイナスを見送ると、一同は和やかな雰囲気をキリッと変えて、今後の進路を模索し始めた……。
「さてと……こっからどうすんだ?」
ザイバックが腕を組んだまま空を見上げて呟いた。
「そうだよね……ボク達、旅するって言うのは良いけど、計画性に欠けてない?」
「そうかもね……私もそう思うな。」
女性陣の意見はピッタリだった。ザイバックは益々感慨を深めながらうんうんと唸っている。
「私はここの地理はさっぱりだから、何とも言い様が無いんだよねぇ…。」
アクイラがヒラヒラと降参のポーズを取る。
「そうだな……。」
レムの頭には二つのルートが浮かんでいた。先ずは一度王都へ戻り、事の全てを報告し、王の助力を懇願するルート……もう一つは王へは全てを秘密裏にし、ここから西の山間部を抜けて取り敢えずの町を目指すルート……。結局一人では決め兼ねたレムは、この二つのルートを提案してみた。すると、
「俺は王都へ行くルートに賛成だな!上手く行きゃ王国の船を使えるかもしれねえ…資金援助だって受けられっかもしれねえし。」
「ボクは山間部を抜ける方に賛成かな。シャルさん達が別世界の住人だなんて言っても、信じるとは限らないし、下手をしたらボク達は危険思想者だって思われて牢獄行きだよ!」
異見は真っ二つに分かれた。どちらも確かに納得のいく理由がある…。王都ルートは先ず信じてもらえるかが大きな焦点だし、山間部ルートは時間が掛かり過ぎる……。
「シャルやアクイラはどっちがいい?」
「私は……王都ルートかな……確かに危険ではあるけど、山間部を一々抜けているようなゆとりは無いと思うの。」
「アクイラも同じく!!ギエルハイムにゃ時間が無いんだよなぁ……なるべく時間が掛からずに済む方に懸けたいんだよ!」
「そうだな……巫女本人が王都行きを選んだんだから、一度王都へ帰って、全てを国王様に話そう。」
行き先は決まった。………王都への帰還……。そして全ての報告……。危険を孕んではいるが、シャルの使命達成への一番の近道と成り得るのも、このルートであった。
「そうと決まったら、明日にでも王都に行こうぜ!!」
「あれ?でもどうやって?」
「エレンブラ、心配は要らないよ。ここから数十キロ東に行けば、王都へ向かう船が来る港町に着く。そこで船を借りて王都へ行くんだ。」
「あ!なーるほど。」
「んじゃ、行き先も決まった事だし、今日はもう休むか!」
アクイラはスックと立ち上がり大きく欠伸をした。一同の体も大分疲労している……と、
「いやぁお待たせしてしまって申し訳ない!宿を見つけましたぞ!!」
ケイナスが両手を振りながら明るい声で叫んでいた。ザイバックやアクイラはそれに倍以上の声で返事をすると、ケイナスと共に宿に入っていった。
「そいじゃ、ボク達も行こうよ!」
エレンブラがシャルとレムの腕を掴んで歩き出した。
「やれやれ、エレンブラは元気だな。」
レムが皮肉っぽく笑った。それにつられる様にしてシャルもクスッと噴き出した。
「あーー!二人してボクを笑ったなぁ!レム!!今日こそはボクと一緒にお風呂に入って貰うからね!!」
エレンブラはムスっとしてそう吐き捨てると宿に一人足早に駆けて行った。
「いっ?!混浴だけは勘弁してくれよ!!おい、ちょっとエレンブラ!!」
レムは顔を赤らめながら慌ててエレンブラの後を追った。それを見送りながら、シャルは一人笑った。
「これが……温かいって言う事なのかな?……ずうっと……こんな生活が続けばいいのに……。」
沈み往く淡く錆朱色をした夕空を独り見上げながら、シャルはふと沈んだ表情に切な願いを抱いていた……。
「おーい!シャルも急いで!エレンブラの奴、君も一緒に入れる気みたいだ!!」
不意に届いたレムの声……シャルにはとても掛け替えの無い声に聞こえていた……。
「うん!直行くよ!!」
パンと頬を軽く叩き、嫌な暗い考えを吹き飛ばすと、シャルはニッコリと屈託の無い笑顔で、手招きするレムに向かって走って行った……これから訪れる運命の凄惨から逃れる様に……走り続け、辿り着く先に希望がある事を信じるかの様に……そして、レム達が、自分を信じてくれる仲間達が必ず奇跡を齎すと願いながら………。
「ハァハァハァ……やっと着いたぜ…荷物は確かこの辺に…あ!あった!」
一番乗りで繁華街に着いたアクイラは、噴水の傍らに置いてある見覚えのある荷物を見つけた。小躍りしながら荷物に駆け寄り、入念なチェックを行い始めた頃、残りの面々が疲労を浮かべ追い着いてきた。
「ゼェゼェ……ったく!何で荷物を置いてきちまったんだよ…。
お陰で余計な体力を消耗しちまったじゃねえか……。」
愚痴を零しながらザイバックは不機嫌そうに荷物に近づいた。
ケイナスも自分の荷物を手に取ると、中身を検査し始めた。
「ふぅ、拙者のは無事でした。」
安心した様に顔を綻ばせ、ケイナスはその場にペタリと腰を落ち着けた。
「ボクのは……うん!無事だったみたい♪」
エレンブラの荷物も無事だった様で、ニコニコと嬉しそうに、レムに荷物を見せている。
「巫女様の荷物は無事ですよ!もちろん、私のもね♪」
ニンマリとアクイラがOKサインを出した。シャルはその合図にクスっと笑うと、ホッとした様に力なく座り込んだ。
「さて、じゃあ俺のは……うん、何とも無い…。」
レムは自分の荷物に異常が無いと確認すると、シャルに素っ気無く質問をした。
「なぁ、シャル……アクイラが言っていたんだが、神通力って何だい?」
「神通力は、魔素を感知して頭痛や腹痛として教えてくれる力なの。魔素の濃度が高ければ高いほど、結果としては私は苦しむ事になる…かな?」
微笑んではいるが、レムにはそれが苦痛を誤魔化す為の笑いに見えた。これから先、彼女は苦しみ続けるのだろうか……そんな事が頭を過ぎる…。
「でも、心配しないで!それはこの姿だからなの……静寂の巫女は成人するまで、身を確実に護るために防御能力が突発的に高いのよ。だから…ゲートを開いて、ギエルハイムに戻って元の姿に戻れば神通力は無くなるわ……。」
「そうか……でも、辛かったら言うんだ。俺達が必ず助けるから。」
シャルの顔に歓喜が浮かんだ。ニッコリと満面に笑みを湛え、シャルは大きく背伸びをした。
「ありがとう!……。」
「お互い様だよ!」
二人はその場に寝転がり、空に向かって大きく笑った。
「うわ!ズルイよシャルさん!ボクも!」
嫉妬を露にしてエレンブラはレムの横に急いで寝そべって同じように笑った……。
「そいじゃ、コッチは男三人で笑いますか?」
アクイラが冗談めいた声色で座った。
「お!いいねぇ!おい、ケイナス!」
「い、いえ…拙者は遠慮させて頂きます。この様に人通りが行き交う場所で寝そべって笑うなどと……武士としてはいたし兼ねる……。」
「冗談だよ冗談♪そんな気持ちの悪い真似なんてしないって!」
本気で躊躇するケイナスを見て、アクイラは野卑に笑いながら言った。ケイナスはホッと胸を撫で下ろすと、
「では、拙者は今晩の宿を探してきます故、失礼…。」
イソイソと宿探しに向かった。ケイナスを見送ると、一同は和やかな雰囲気をキリッと変えて、今後の進路を模索し始めた……。
「さてと……こっからどうすんだ?」
ザイバックが腕を組んだまま空を見上げて呟いた。
「そうだよね……ボク達、旅するって言うのは良いけど、計画性に欠けてない?」
「そうかもね……私もそう思うな。」
女性陣の意見はピッタリだった。ザイバックは益々感慨を深めながらうんうんと唸っている。
「私はここの地理はさっぱりだから、何とも言い様が無いんだよねぇ…。」
アクイラがヒラヒラと降参のポーズを取る。
「そうだな……。」
レムの頭には二つのルートが浮かんでいた。先ずは一度王都へ戻り、事の全てを報告し、王の助力を懇願するルート……もう一つは王へは全てを秘密裏にし、ここから西の山間部を抜けて取り敢えずの町を目指すルート……。結局一人では決め兼ねたレムは、この二つのルートを提案してみた。すると、
「俺は王都へ行くルートに賛成だな!上手く行きゃ王国の船を使えるかもしれねえ…資金援助だって受けられっかもしれねえし。」
「ボクは山間部を抜ける方に賛成かな。シャルさん達が別世界の住人だなんて言っても、信じるとは限らないし、下手をしたらボク達は危険思想者だって思われて牢獄行きだよ!」
異見は真っ二つに分かれた。どちらも確かに納得のいく理由がある…。王都ルートは先ず信じてもらえるかが大きな焦点だし、山間部ルートは時間が掛かり過ぎる……。
「シャルやアクイラはどっちがいい?」
「私は……王都ルートかな……確かに危険ではあるけど、山間部を一々抜けているようなゆとりは無いと思うの。」
「アクイラも同じく!!ギエルハイムにゃ時間が無いんだよなぁ……なるべく時間が掛からずに済む方に懸けたいんだよ!」
「そうだな……巫女本人が王都行きを選んだんだから、一度王都へ帰って、全てを国王様に話そう。」
行き先は決まった。………王都への帰還……。そして全ての報告……。危険を孕んではいるが、シャルの使命達成への一番の近道と成り得るのも、このルートであった。
「そうと決まったら、明日にでも王都に行こうぜ!!」
「あれ?でもどうやって?」
「エレンブラ、心配は要らないよ。ここから数十キロ東に行けば、王都へ向かう船が来る港町に着く。そこで船を借りて王都へ行くんだ。」
「あ!なーるほど。」
「んじゃ、行き先も決まった事だし、今日はもう休むか!」
アクイラはスックと立ち上がり大きく欠伸をした。一同の体も大分疲労している……と、
「いやぁお待たせしてしまって申し訳ない!宿を見つけましたぞ!!」
ケイナスが両手を振りながら明るい声で叫んでいた。ザイバックやアクイラはそれに倍以上の声で返事をすると、ケイナスと共に宿に入っていった。
「そいじゃ、ボク達も行こうよ!」
エレンブラがシャルとレムの腕を掴んで歩き出した。
「やれやれ、エレンブラは元気だな。」
レムが皮肉っぽく笑った。それにつられる様にしてシャルもクスッと噴き出した。
「あーー!二人してボクを笑ったなぁ!レム!!今日こそはボクと一緒にお風呂に入って貰うからね!!」
エレンブラはムスっとしてそう吐き捨てると宿に一人足早に駆けて行った。
「いっ?!混浴だけは勘弁してくれよ!!おい、ちょっとエレンブラ!!」
レムは顔を赤らめながら慌ててエレンブラの後を追った。それを見送りながら、シャルは一人笑った。
「これが……温かいって言う事なのかな?……ずうっと……こんな生活が続けばいいのに……。」
沈み往く淡く錆朱色をした夕空を独り見上げながら、シャルはふと沈んだ表情に切な願いを抱いていた……。
「おーい!シャルも急いで!エレンブラの奴、君も一緒に入れる気みたいだ!!」
不意に届いたレムの声……シャルにはとても掛け替えの無い声に聞こえていた……。
「うん!直行くよ!!」
パンと頬を軽く叩き、嫌な暗い考えを吹き飛ばすと、シャルはニッコリと屈託の無い笑顔で、手招きするレムに向かって走って行った……これから訪れる運命の凄惨から逃れる様に……走り続け、辿り着く先に希望がある事を信じるかの様に……そして、レム達が、自分を信じてくれる仲間達が必ず奇跡を齎すと願いながら………。
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