「我が家の氏神さま!」〜第一話-?『御主人?!』
2004年9月17日 連載蒼く爽涼とした空に浮かび漂う白雲の波…。出雲 梛(いずも なぎ)は窓の外に映える秋景色の安穏さに、意識も虚ろに視線だけを送っていた。
「いいよなぁ…こういうのを“風情”って言うんだろうな…。」
感慨深気に呟くと、梛は背後に雑念の元を感じた。
「なーにが“風情”だよ。柄にも無い事言っちゃって…。」
振り返った視線に入ったのは、幼少期より梛との交友関係にある
「夏谷木 修輔」(なつやぎ しゅうすけ)だった。修輔本人は、梛との関係を親友と自負していたが、梛は只の腐れ縁と言い切っている。
「なんだ、修輔か…。悪いがお前の駄弁には付き合わないからな!俺は今、癒されてんだから…。」
「つれない事言うなよ!良い知らせを持ってきたってのに…。」
“良い知らせ”…どうせロクでも無い事だろうと、半ば呆れ気味に梛は修輔を一瞥した。過去に“良い知らせ”と修輔から聞いて良かった試しは一度も無いからだ……。
「何だ?その顔は……。さては俺の事信用してないな!!」
梛の呆れ半分、眠気半分の表情に不服らしく、修輔は眉を吊り上げ怒り口調で梛に詰め寄った。
「当たり前だ…。お前の“良い知らせ”は今んとこ100%ハズれてるし……。」
一方の梛は修輔の不満など全く気にする様子も無く、さらりと言ってのけた。その表情には“自分の胸に手を当てて聞いてみろ”と示唆されていた……。暗黙の了解と言う奴である……。
「確かに……。」
暫く過去の“良い知らせ”を思い出していたのか、突然ポンと手を叩くと、修輔は大きく頷いた。自覚症状はあるらしく、苦笑いの浮かんだ顔で修輔は鼻の頭をポリポリと掻いた。
「でも、今日は本当だって!!…なんでも今日はもう学校終わりみたいなんだよ!」
腰に手を当て、自信満々に大仰とした態度を見せると、修輔はさっきまでとは打って変わってニヤっと野卑に笑った。
「これは先生に聞いたんだから、間違い無いぜ!!」
「分かった分かった……で、その理由は?」
「もちろん知ってるぜ!今日は都内の教育委員会の主催で、教職員の研修があるんだってさ。……ていうかさ、梛は嬉しく無いのか?学校が昼から休みになるってのに……。」
修輔は不思議そうに梛を見遣った。普通の生徒は大喜びで午後のスケジュールを計画、相談し合うところにも関わらず、梛は吉報を聞いても微動だにしていない……。
「早かろうが遅かろうが、何も変わんないだろ?早けりゃ特別に何か起こるワケでも無いしな……そうだろ?」
梛はフッと微笑すると、手をヒラヒラと力無く振った。
「そ、そりゃあ……そうかもしんねえけど……。」
梛の冷静かつ尤もな正論に、反論する術を失った修輔は、言葉を詰まらせたまま苦し紛れに、
「あ!そういや俺、今日バイトだった!!…じゃあな、梛!」
そう言いながら走り去って行った……。教室から逃げる様に走って行く腐れ縁の友の背中にチラと視線を向け、梛は満足そうに背伸びをした。修輔が教室を飛び出したのと時を違わずして、修輔の情報通り、下校となった…………。
―下校途中の何も変わらない常套(じょうとう)な景色…。
木々揺れは、秋風になびいて幾分か鮮やかさを衒っている…。
時刻はまだ二時を半時程過ぎたばかりで、秋の涼日とは言え、陽射しは意外にも強く、歩いているだけで、じわりと汗を掻く程であった…。そんな残暑の陽射しの下、梛はお決まりの下校コースを、お決まりの足取りで帰っていた。
「あ〜……。秋だって言うのに暑いなんて…。異常気象だな、確実に……。地球もヤバイんじゃないの?」
汗の滲む額を手で拭うと、梛は独り言に毒を含ませ、トボトボと見慣れた住宅街を抜けていった。淡々とした足取りで住宅街を抜けると、今度は人気の少ない、杉や檜の多く見られる細い路地に入った……。そこからは都内とは思えないほどの田舎溢れる景色が広がっており、梛は路地の途中にある脇道から続く神社を抜けて時間短縮をするのが日常だった。
「よし、時間短縮しとくか……。」
通り過ぎる顔見知りの老人達に軽く会釈をしながら、梛は神社へと向かった。帰宅時間が短縮出来るのが立ち寄る大きな理由なのだが、梛は霊力を子供の頃から備えており、その霊力が感知する神社の雰囲気に不思議な物を感じており、それが好きだという事も理由には挙げられた……。足取りも軽く、境内まで僅か数分で駆け上ると、梛は得意げに両手を挙げ、鷹揚とした声で叫んだ。
「おっしゃーー!!新記録達成!!」
殊の外早く着いたらしく、梛は達成感に顔を綻ばせていた。と、
不意に何かの気配が梛の霊感に触れた。それまでの笑顔はサッと消え、緊迫感が梛を襲った……。恐る恐る気配の方へと踵を返すと、そこには…………。
「お、女の子?!」
が居た…。それも容姿端麗で清廉潔白……艶やかな着流しを身に纏い佇むその光景は、梛を魅了した……。
「おーい、そんなトコで何やってんの?」
梛は思わず声を掛けてしまった。すると、その少女はクルリと梛の方へ踵を返すと、ニッコリと微笑むと、ゆっくりと梛の方へ近づいてきた。
「ちょ、ちょっと……君?」
近づいて来た少女は、スウッと白く細い手を伸ばし、次の瞬間には梛の手を握っていた…。突然の事に動揺を隠せない梛は、身動いだまま、ただ顔を紅潮させていた。が、
「ずっと、探していました……。」
その言葉が梛の耳に届いた瞬間、梛は動揺から疑問へとその感情を変えていた。
「ずっと……?俺は今日、初めて君と会うんだけど……。」
「はい!……初対面です。でも、私は貴方様をずっと探していました。」
「…………。」
「私の名前は【茜(せん)】です。本日より御主人様で在らせられます梛様に仕えさせて頂きます!」
屈託無く少女は満面の笑みを湛えて梛を見つめた。梛は全く事情が飲み込めずに、ただ呆然としていたが、先の茜の言葉を咀嚼すると、梛の顔は再び紅潮した。
「な、ななな、何だってーー?!何で?君が?俺に仕えるんだよ?……会ってまだ数分じゃないか……。」
「私は、氏神……古来より【出雲】の姓に宿りし神です。」
「へ?……今、何と……。」
「ですから、私は神様です!」
辺りに暫しの静寂が流れた…。梛はその頭をフル回転させ、事態把握に努めた…と、梛は自分の霊能力の事を思い出した。そう、自分には霊や神……つまり人ならざる存在とのコミュニケーションが出来る……。謎はすべて解けた……。強引ではあるが、梛には現在の状況を理性で理解するには、そう考えるしかなかった。
「で、何で俺なの?出雲なんて一杯居るだろうに……。」
「それは……出雲の中でも、梛様が一番強い能力をお持ちですので……。」
「そうなのか?……はぁ……で、仕えるって?」
「はい!今日からは梛様のご自宅に一緒に住んで、身の回りの事とか、色々させて頂きます!」
「同棲すんのか?!……マジかーーーー!?」
「はい!マジです♪」
元気よくお辞儀をすると、茜は再びニッコリと笑って見せた。
イマイチというか殆どが理解できない梛ではあったが、内心では美少女に仕えてもらうのも悪くは無いなという思いも俄かにはあった。暫く考え込むと、一つの結論に達した様子で、ポンと手を叩くと、梛は茜を見遣った。
「仕方ない…姉貴に見てもらうか……。」
「梛様?」
「そ、それじゃあ、家に来てもらえるかな?」
「…はい!」
「いいよなぁ…こういうのを“風情”って言うんだろうな…。」
感慨深気に呟くと、梛は背後に雑念の元を感じた。
「なーにが“風情”だよ。柄にも無い事言っちゃって…。」
振り返った視線に入ったのは、幼少期より梛との交友関係にある
「夏谷木 修輔」(なつやぎ しゅうすけ)だった。修輔本人は、梛との関係を親友と自負していたが、梛は只の腐れ縁と言い切っている。
「なんだ、修輔か…。悪いがお前の駄弁には付き合わないからな!俺は今、癒されてんだから…。」
「つれない事言うなよ!良い知らせを持ってきたってのに…。」
“良い知らせ”…どうせロクでも無い事だろうと、半ば呆れ気味に梛は修輔を一瞥した。過去に“良い知らせ”と修輔から聞いて良かった試しは一度も無いからだ……。
「何だ?その顔は……。さては俺の事信用してないな!!」
梛の呆れ半分、眠気半分の表情に不服らしく、修輔は眉を吊り上げ怒り口調で梛に詰め寄った。
「当たり前だ…。お前の“良い知らせ”は今んとこ100%ハズれてるし……。」
一方の梛は修輔の不満など全く気にする様子も無く、さらりと言ってのけた。その表情には“自分の胸に手を当てて聞いてみろ”と示唆されていた……。暗黙の了解と言う奴である……。
「確かに……。」
暫く過去の“良い知らせ”を思い出していたのか、突然ポンと手を叩くと、修輔は大きく頷いた。自覚症状はあるらしく、苦笑いの浮かんだ顔で修輔は鼻の頭をポリポリと掻いた。
「でも、今日は本当だって!!…なんでも今日はもう学校終わりみたいなんだよ!」
腰に手を当て、自信満々に大仰とした態度を見せると、修輔はさっきまでとは打って変わってニヤっと野卑に笑った。
「これは先生に聞いたんだから、間違い無いぜ!!」
「分かった分かった……で、その理由は?」
「もちろん知ってるぜ!今日は都内の教育委員会の主催で、教職員の研修があるんだってさ。……ていうかさ、梛は嬉しく無いのか?学校が昼から休みになるってのに……。」
修輔は不思議そうに梛を見遣った。普通の生徒は大喜びで午後のスケジュールを計画、相談し合うところにも関わらず、梛は吉報を聞いても微動だにしていない……。
「早かろうが遅かろうが、何も変わんないだろ?早けりゃ特別に何か起こるワケでも無いしな……そうだろ?」
梛はフッと微笑すると、手をヒラヒラと力無く振った。
「そ、そりゃあ……そうかもしんねえけど……。」
梛の冷静かつ尤もな正論に、反論する術を失った修輔は、言葉を詰まらせたまま苦し紛れに、
「あ!そういや俺、今日バイトだった!!…じゃあな、梛!」
そう言いながら走り去って行った……。教室から逃げる様に走って行く腐れ縁の友の背中にチラと視線を向け、梛は満足そうに背伸びをした。修輔が教室を飛び出したのと時を違わずして、修輔の情報通り、下校となった…………。
―下校途中の何も変わらない常套(じょうとう)な景色…。
木々揺れは、秋風になびいて幾分か鮮やかさを衒っている…。
時刻はまだ二時を半時程過ぎたばかりで、秋の涼日とは言え、陽射しは意外にも強く、歩いているだけで、じわりと汗を掻く程であった…。そんな残暑の陽射しの下、梛はお決まりの下校コースを、お決まりの足取りで帰っていた。
「あ〜……。秋だって言うのに暑いなんて…。異常気象だな、確実に……。地球もヤバイんじゃないの?」
汗の滲む額を手で拭うと、梛は独り言に毒を含ませ、トボトボと見慣れた住宅街を抜けていった。淡々とした足取りで住宅街を抜けると、今度は人気の少ない、杉や檜の多く見られる細い路地に入った……。そこからは都内とは思えないほどの田舎溢れる景色が広がっており、梛は路地の途中にある脇道から続く神社を抜けて時間短縮をするのが日常だった。
「よし、時間短縮しとくか……。」
通り過ぎる顔見知りの老人達に軽く会釈をしながら、梛は神社へと向かった。帰宅時間が短縮出来るのが立ち寄る大きな理由なのだが、梛は霊力を子供の頃から備えており、その霊力が感知する神社の雰囲気に不思議な物を感じており、それが好きだという事も理由には挙げられた……。足取りも軽く、境内まで僅か数分で駆け上ると、梛は得意げに両手を挙げ、鷹揚とした声で叫んだ。
「おっしゃーー!!新記録達成!!」
殊の外早く着いたらしく、梛は達成感に顔を綻ばせていた。と、
不意に何かの気配が梛の霊感に触れた。それまでの笑顔はサッと消え、緊迫感が梛を襲った……。恐る恐る気配の方へと踵を返すと、そこには…………。
「お、女の子?!」
が居た…。それも容姿端麗で清廉潔白……艶やかな着流しを身に纏い佇むその光景は、梛を魅了した……。
「おーい、そんなトコで何やってんの?」
梛は思わず声を掛けてしまった。すると、その少女はクルリと梛の方へ踵を返すと、ニッコリと微笑むと、ゆっくりと梛の方へ近づいてきた。
「ちょ、ちょっと……君?」
近づいて来た少女は、スウッと白く細い手を伸ばし、次の瞬間には梛の手を握っていた…。突然の事に動揺を隠せない梛は、身動いだまま、ただ顔を紅潮させていた。が、
「ずっと、探していました……。」
その言葉が梛の耳に届いた瞬間、梛は動揺から疑問へとその感情を変えていた。
「ずっと……?俺は今日、初めて君と会うんだけど……。」
「はい!……初対面です。でも、私は貴方様をずっと探していました。」
「…………。」
「私の名前は【茜(せん)】です。本日より御主人様で在らせられます梛様に仕えさせて頂きます!」
屈託無く少女は満面の笑みを湛えて梛を見つめた。梛は全く事情が飲み込めずに、ただ呆然としていたが、先の茜の言葉を咀嚼すると、梛の顔は再び紅潮した。
「な、ななな、何だってーー?!何で?君が?俺に仕えるんだよ?……会ってまだ数分じゃないか……。」
「私は、氏神……古来より【出雲】の姓に宿りし神です。」
「へ?……今、何と……。」
「ですから、私は神様です!」
辺りに暫しの静寂が流れた…。梛はその頭をフル回転させ、事態把握に努めた…と、梛は自分の霊能力の事を思い出した。そう、自分には霊や神……つまり人ならざる存在とのコミュニケーションが出来る……。謎はすべて解けた……。強引ではあるが、梛には現在の状況を理性で理解するには、そう考えるしかなかった。
「で、何で俺なの?出雲なんて一杯居るだろうに……。」
「それは……出雲の中でも、梛様が一番強い能力をお持ちですので……。」
「そうなのか?……はぁ……で、仕えるって?」
「はい!今日からは梛様のご自宅に一緒に住んで、身の回りの事とか、色々させて頂きます!」
「同棲すんのか?!……マジかーーーー!?」
「はい!マジです♪」
元気よくお辞儀をすると、茜は再びニッコリと笑って見せた。
イマイチというか殆どが理解できない梛ではあったが、内心では美少女に仕えてもらうのも悪くは無いなという思いも俄かにはあった。暫く考え込むと、一つの結論に達した様子で、ポンと手を叩くと、梛は茜を見遣った。
「仕方ない…姉貴に見てもらうか……。」
「梛様?」
「そ、それじゃあ、家に来てもらえるかな?」
「…はい!」
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