「我が家の氏神さま!」〜第一話―?〜『新生活!』
2004年9月19日 連載―天上・元始の間―
「そうか……茜が器を発見したか…。」
「はい。しかし、元始開闢天神様…本当に茜に任せて良いのですか?あの娘は……恋愛感情を持っております。万が一、主に対し特別な感情を抱いてしまったら、如何がなさるおつもりで。」
「杞憂な事よ。あの剣は愛の力に強く反応する……。むしろ愛し合ってくれた方が好都合だ……。」
「は、はぁ。」
「もうよい……下がれ。」
「は!」
「………さて、茜……お前の氏神としての働きに期待しているぞ………。」
―出雲家・梛の部屋
朝陽が俄かに差し込み、梛の顔は朝日の陽光に照らされていた。
時刻は六時半……日曜日という事もあり梛はぐっすりと夢の世界を堪能していた。が、
「梛さまーーーー!!朝ですよぉ!」
突然に清涼感のある優しい声が梛を呼んだ。姉とは正反対の声色に違和感を覚えた梛は、ガバッと身を起こすと、何事かとパンツ一枚の格好で部屋を飛び出した。
「誰だ!?」
居間に駆け寄ると、そこには着流しを着た一人の美少女が食卓を丁寧に布巾で拭いていた。
「あ!そうか………そういや昨日から茜が居るんだ……。」
昨日の出来事が回想され、梛は自分に仕えると言った氏神の女の子を思い出した。目の前でせっせと食卓拭きに勤しんでいる少女………茜だ。
「あ!ようやく起床なさいまいたね。おはようございます!梛様。」
「あ、ああ……おはよう。」
明るく澄んだ挨拶なんて初めてと言っても良い梛は、恥ずかしさと戸惑いがあったが、なんだか嬉しかった。務めて明るく素っ気無く振舞うと、安堵が心に染み始め、再び眠気が蘇ってきた。
「ふあぁ〜……それじゃあ俺はもう少し寝るよ。」
「あ!梛様、折角起きたんですから……二度寝はいけま……。」
部屋に戻ろうとする梛を茜は慌てて引き止めようと梛の正面に立った。が、正面から梛の全身象を視界に入れた瞬間、茜は絶句した。
「二度寝は何?………ん?茜?」
「あ、あ、あの、梛様……その……ふ、ふ、服を……。」
「服?」
梛は自分の姿を確認した……トランクス一枚……後は裸……。
そして茜のあの慌て様……。
「うわーーー!!悪い!こんな格好で!!」
梛は慌てて何故か胸を隠した。咄嗟の事で思考回路が上手くリンクしていないのだ。一方の茜は顔を真っ赤にしてオロオロと涙目でうろたえている。この状況はマズイ。悠良にだけは目撃されてはならない……そう直感で悟った梛は一目散に部屋を目指そうと第一歩を踏み出したその時……。
「ふわぁ〜、何だよ?朝っぱらから……っておお!!梛!お前、いきなり人前で?!」
最も危惧していた事態が起こってしまった。悠良は目の前に佇む裸同然の弟とそれを艶っぽく染まった頬で見ている茜に対して目をキラキラとさせている。梛は頭を押さえ、その場に座り込んだ。
「幾ら悶々としてるからって、いきなり人前ってのは、無いんじゃない?」
嘲笑気味にニヤリと頬を緩ませ、悠良は梛の肩をポンと軽く叩いた。
「違うって!俺は何も茜にはしてねえよ!!」
「ハイハイ、分かった分かった!ったく冗談も通じないのかねぇ……姉さんは悲しいわよ!」
「わよとか使い慣れない言葉使うなよ!…はぁ…最悪の寝覚めだよ……。」
騒がしい一日が始まった………。
朝食を摂り終ると、茜はチャチャッと無駄の無い動作で片づけを始めた。悠良はテレビの芸能ニュースを見ながら一人でツッコミを入れていた……梛はそんな二人の対照的な姿を見て変な感心をすると、洗い物をしている茜の所に向かった。
「大変じゃないか?悠良姉は良く食うからなぁ……。なのにあんな体型を維持してんだ…。バケモノじゃないかなぁと俺は思うな。」
姉の日頃の鬱憤を晴らす様に小声で愚痴る梛を茜は微笑みながら見ていた。
「ええ、大丈夫です……それにしても梛様は余程お姉さんがすきなんですね♪」
悪戯っぽく笑う茜は何とも可愛らしかった。悠良も容姿で言えば非の打ち所が無いのだが、あの性格がそれを妨げおり、梛には茜の方が可愛く映った。
「茜って見る目ないな。俺と悠良姉の何処をどう見たら仲が良いって言えるんだよ?」
「さぁ、どこでしょうね♪」
何だか心が温まる会話……彼女がいたらこんな風に毎日を過ごすのだろうか……そんな事を考えながら、梛は茜との会話を堪能していた……と、不意にある事が想起された。彼女は人間じゃない……『氏神』と呼ばれる神様………自分との関係はあくまで主従関係……。梛は少しだけ心が痛くなった。茜は自分をただの仕えるべき主人としてのみ見ているんだろうか……。そんな不躾な質問を投げそうになったが、寸でのところで理性が蘇り、咽元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。窺う様な視線で茜の横顔を覗き込み、梛は憶測を振り払った。そう、茜は新しい家族なんだ。
出会いは奇異なものだが、これも縁(えにし)、楽しけりゃなんでもいい!……そう思い込む事にして、大きく深呼吸をした。
「どうないました?」
「何でもないよ!さてと、そう言えば今日は日曜だよな……。」
「そうですが、それが何か?」
訝しそうに首を捻る茜に素っ気無い相槌を打つと、梛は部屋に向かって歩みだした。
「それは後のお楽しみだ!ちょっと着替えてくっから、それまでに洗い物、終らせといてくれよ!」
「は、はい!」
事態を把握出来ずに少々困惑気味の茜に、それまで某有名歌手の泥沼離婚にツッコミを入れていた悠良がにじり寄って来た。
「茜、良かったね。アイツがああやって着替えに行くときってのは九割方、外出する気だよ!しかも茜に着替えが終るまでに洗い物終らせろって………デートに誘われたんだよ♪」
ニッコリと屈託の無い笑顔を茜に向け、悠良はウンウンと首を縦に振った。茜は数瞬、悠良の言葉を咀嚼すると、急激に顔が桜色に染まり始めた。
「え!?デ、デートですか?!」
「そ♪デート!」
混じり気の無い答えを返すと、悠良は再びソファーに腰掛け、芸能ニュースに目を光らせた。一人ポーっと上気した顔で茜は気も漫ろと言った様子で洗い物を片付けた。頭にはデートの三文字がグルグルと回り、心は無意識に高く跳ねた。すると、
「お!ちゃんと終ったじゃないか。それじゃ、今日は俺がこの町を案内すっから、付いて来な♪」
黒いシャツに手にはブレスレッド、首からは流行のネックレスが掛かり、裾が幾分か広い七分丈のカーゴパンツを穿いた梛が茜を呼んだ。元々容姿・スタイルの良い梛にはその格好が良く似合っており、モデルの様なその出で立ちに茜は思わずドキッとしてしまい、その姿に見惚れそうになっていた。
「なにボケーっとしてんだよ?ホラ、行くぞ!!」
咄嗟に我に返ると、茜は慌てて梛の後を追った。しかし焦りからか気持ちに体が付いてこず、派手に転倒してしまった。
「いったー………。」
「だ、大丈夫か?!」
「だ、大丈夫です……エヘ、エヘヘヘヘ……。」
恥ずかしそうに笑うその仕草と笑顔に、梛は思わず胸が高鳴った。
「アハハハハ、そんなに焦んなくたって、梛は逃げないよ!……あ!そうそう、梛!絶対に襲うんじゃないよ♪」
「当たり前だ!!」
「やっぱ冗談通じないねぇ……ま、頑張ってきなよ!しっかりと町案内してきな!」
「おう!任せろって!んじゃな、悠良姉!」
「期待しないでいるよ!」
嘲弄しながら見送る悠良を背にし、梛は茜を連れて町案内へと出かけた……。
「そうか……茜が器を発見したか…。」
「はい。しかし、元始開闢天神様…本当に茜に任せて良いのですか?あの娘は……恋愛感情を持っております。万が一、主に対し特別な感情を抱いてしまったら、如何がなさるおつもりで。」
「杞憂な事よ。あの剣は愛の力に強く反応する……。むしろ愛し合ってくれた方が好都合だ……。」
「は、はぁ。」
「もうよい……下がれ。」
「は!」
「………さて、茜……お前の氏神としての働きに期待しているぞ………。」
―出雲家・梛の部屋
朝陽が俄かに差し込み、梛の顔は朝日の陽光に照らされていた。
時刻は六時半……日曜日という事もあり梛はぐっすりと夢の世界を堪能していた。が、
「梛さまーーーー!!朝ですよぉ!」
突然に清涼感のある優しい声が梛を呼んだ。姉とは正反対の声色に違和感を覚えた梛は、ガバッと身を起こすと、何事かとパンツ一枚の格好で部屋を飛び出した。
「誰だ!?」
居間に駆け寄ると、そこには着流しを着た一人の美少女が食卓を丁寧に布巾で拭いていた。
「あ!そうか………そういや昨日から茜が居るんだ……。」
昨日の出来事が回想され、梛は自分に仕えると言った氏神の女の子を思い出した。目の前でせっせと食卓拭きに勤しんでいる少女………茜だ。
「あ!ようやく起床なさいまいたね。おはようございます!梛様。」
「あ、ああ……おはよう。」
明るく澄んだ挨拶なんて初めてと言っても良い梛は、恥ずかしさと戸惑いがあったが、なんだか嬉しかった。務めて明るく素っ気無く振舞うと、安堵が心に染み始め、再び眠気が蘇ってきた。
「ふあぁ〜……それじゃあ俺はもう少し寝るよ。」
「あ!梛様、折角起きたんですから……二度寝はいけま……。」
部屋に戻ろうとする梛を茜は慌てて引き止めようと梛の正面に立った。が、正面から梛の全身象を視界に入れた瞬間、茜は絶句した。
「二度寝は何?………ん?茜?」
「あ、あ、あの、梛様……その……ふ、ふ、服を……。」
「服?」
梛は自分の姿を確認した……トランクス一枚……後は裸……。
そして茜のあの慌て様……。
「うわーーー!!悪い!こんな格好で!!」
梛は慌てて何故か胸を隠した。咄嗟の事で思考回路が上手くリンクしていないのだ。一方の茜は顔を真っ赤にしてオロオロと涙目でうろたえている。この状況はマズイ。悠良にだけは目撃されてはならない……そう直感で悟った梛は一目散に部屋を目指そうと第一歩を踏み出したその時……。
「ふわぁ〜、何だよ?朝っぱらから……っておお!!梛!お前、いきなり人前で?!」
最も危惧していた事態が起こってしまった。悠良は目の前に佇む裸同然の弟とそれを艶っぽく染まった頬で見ている茜に対して目をキラキラとさせている。梛は頭を押さえ、その場に座り込んだ。
「幾ら悶々としてるからって、いきなり人前ってのは、無いんじゃない?」
嘲笑気味にニヤリと頬を緩ませ、悠良は梛の肩をポンと軽く叩いた。
「違うって!俺は何も茜にはしてねえよ!!」
「ハイハイ、分かった分かった!ったく冗談も通じないのかねぇ……姉さんは悲しいわよ!」
「わよとか使い慣れない言葉使うなよ!…はぁ…最悪の寝覚めだよ……。」
騒がしい一日が始まった………。
朝食を摂り終ると、茜はチャチャッと無駄の無い動作で片づけを始めた。悠良はテレビの芸能ニュースを見ながら一人でツッコミを入れていた……梛はそんな二人の対照的な姿を見て変な感心をすると、洗い物をしている茜の所に向かった。
「大変じゃないか?悠良姉は良く食うからなぁ……。なのにあんな体型を維持してんだ…。バケモノじゃないかなぁと俺は思うな。」
姉の日頃の鬱憤を晴らす様に小声で愚痴る梛を茜は微笑みながら見ていた。
「ええ、大丈夫です……それにしても梛様は余程お姉さんがすきなんですね♪」
悪戯っぽく笑う茜は何とも可愛らしかった。悠良も容姿で言えば非の打ち所が無いのだが、あの性格がそれを妨げおり、梛には茜の方が可愛く映った。
「茜って見る目ないな。俺と悠良姉の何処をどう見たら仲が良いって言えるんだよ?」
「さぁ、どこでしょうね♪」
何だか心が温まる会話……彼女がいたらこんな風に毎日を過ごすのだろうか……そんな事を考えながら、梛は茜との会話を堪能していた……と、不意にある事が想起された。彼女は人間じゃない……『氏神』と呼ばれる神様………自分との関係はあくまで主従関係……。梛は少しだけ心が痛くなった。茜は自分をただの仕えるべき主人としてのみ見ているんだろうか……。そんな不躾な質問を投げそうになったが、寸でのところで理性が蘇り、咽元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。窺う様な視線で茜の横顔を覗き込み、梛は憶測を振り払った。そう、茜は新しい家族なんだ。
出会いは奇異なものだが、これも縁(えにし)、楽しけりゃなんでもいい!……そう思い込む事にして、大きく深呼吸をした。
「どうないました?」
「何でもないよ!さてと、そう言えば今日は日曜だよな……。」
「そうですが、それが何か?」
訝しそうに首を捻る茜に素っ気無い相槌を打つと、梛は部屋に向かって歩みだした。
「それは後のお楽しみだ!ちょっと着替えてくっから、それまでに洗い物、終らせといてくれよ!」
「は、はい!」
事態を把握出来ずに少々困惑気味の茜に、それまで某有名歌手の泥沼離婚にツッコミを入れていた悠良がにじり寄って来た。
「茜、良かったね。アイツがああやって着替えに行くときってのは九割方、外出する気だよ!しかも茜に着替えが終るまでに洗い物終らせろって………デートに誘われたんだよ♪」
ニッコリと屈託の無い笑顔を茜に向け、悠良はウンウンと首を縦に振った。茜は数瞬、悠良の言葉を咀嚼すると、急激に顔が桜色に染まり始めた。
「え!?デ、デートですか?!」
「そ♪デート!」
混じり気の無い答えを返すと、悠良は再びソファーに腰掛け、芸能ニュースに目を光らせた。一人ポーっと上気した顔で茜は気も漫ろと言った様子で洗い物を片付けた。頭にはデートの三文字がグルグルと回り、心は無意識に高く跳ねた。すると、
「お!ちゃんと終ったじゃないか。それじゃ、今日は俺がこの町を案内すっから、付いて来な♪」
黒いシャツに手にはブレスレッド、首からは流行のネックレスが掛かり、裾が幾分か広い七分丈のカーゴパンツを穿いた梛が茜を呼んだ。元々容姿・スタイルの良い梛にはその格好が良く似合っており、モデルの様なその出で立ちに茜は思わずドキッとしてしまい、その姿に見惚れそうになっていた。
「なにボケーっとしてんだよ?ホラ、行くぞ!!」
咄嗟に我に返ると、茜は慌てて梛の後を追った。しかし焦りからか気持ちに体が付いてこず、派手に転倒してしまった。
「いったー………。」
「だ、大丈夫か?!」
「だ、大丈夫です……エヘ、エヘヘヘヘ……。」
恥ずかしそうに笑うその仕草と笑顔に、梛は思わず胸が高鳴った。
「アハハハハ、そんなに焦んなくたって、梛は逃げないよ!……あ!そうそう、梛!絶対に襲うんじゃないよ♪」
「当たり前だ!!」
「やっぱ冗談通じないねぇ……ま、頑張ってきなよ!しっかりと町案内してきな!」
「おう!任せろって!んじゃな、悠良姉!」
「期待しないでいるよ!」
嘲弄しながら見送る悠良を背にし、梛は茜を連れて町案内へと出かけた……。
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