短編の作品です。

クリスマスの日は優衣と付き合って三ヶ月目の大事な日…。
俺は心を弾ませて街中を包むクリスマスムードに顔を綻ばせていた。
「秋斗!何ニヤついてんの?」
突然に後ろから声を掛けられ思わず飛び退いてしまった。

「うわっ!ビックリしたぁ…。なんだ、優衣か…脅かすなよ。」
優衣はキラキラと光る笑顔で俺を見つめている。その表情は純真無垢な子供の様だ。

「そうだ!もうすぐクリスマスだね。私達の三ヶ月記念だね。」
楽しそうに縁石に乗り、俺の手を握りながらバランスを取る優衣……幸せそうな顔がすぐ隣で輝いている。暫く歩いていくと、
俺達はショッピングモールに入った。店内は正にクリスマス一色で、BGMは勿論クリスマスソングに彩られ、装飾や果ては店員までもそれに準じた格好で客を持て成している。

「うわー!こういう雰囲気ってイイよね!秋斗。」
「ん?あ、ああ…そうだな。」
俺はチラと優衣を見ると、素っ気無くして答えた。

「あー!あれあれ!あれってサンタさんじゃない?!」
ふと優衣の指差すほうへ目を遣ると、そこには子供達に握手やプレゼントをせがまれながらあくせくしているサンタの“着ぐるみ”おじさんがいた。

「しっかし大変そうだよな?給料いくらくらい出んのかね?」
「んもう!そういう夢のない事言っちゃヤダよ。」
ぷっくりと頬を膨らませて優衣はプンプンという擬音がピッタリと当てはまる怒りかたをした。なんて可愛いヤツなんだろう。

「ハハ、わりぃわりぃ……。サンタさんは、喜んで子供達にああやって接してるんだよな。」
「そうそう!分かれば宜しい。」
俺の陳謝に満足気に胸をツンと突き出し、腰に手をあてがい優衣は言った。俺にとっては優衣の喜怒哀楽を見てるだけで満足だな……。
 買い物を済ませ、俺達は帰りの道をゆっくりと歩いていた。
街はクリスマス色に綺麗に化粧をして、行き交う人の心にささやかな幸福ってやつを感じさせてくれる。並木道の木達も、色取り取りにおめかしして、カップル達を祝福してくれている。俺や優衣も、それに漏れること無く、一本のクリスマスツリーの前で
足を止めた。

「綺麗……こんなにクリスマスツリーって綺麗なんだね。」
「はぁ?何言ってんだよ。クリスマスツリーなんて今までにも見てきただろ?」

「秋斗って“カンジン”なトコで気分を壊すよね。」
「うっ……スマン。」
「フフ。」
「ん?今笑ったな!」
「ぜーんぜん!笑ってなんかないですよー。」

こんな会話の何が面白いのか……今までの俺ならきっとそうやって客観的に、冷静に切り捨てたかもしれない。でも、優衣とこういう他愛もない話が出来る事がこの上なく幸せだと、今の俺はそう思う……。一人じゃ決して見つけられなかった大切な“心”ってモノが、きっと俺をそう変えたんだ。

「ね、秋斗……。」
「ん?なんだ優衣?」
「ちょっと……目つむってよ。」
「おいおい……そんな古典的なキスシーンなんか恥ずかしいだろ。」
「いいから!」
「………分かったよ。ホラ。」
言って俺の視界は闇に落ちた。心臓の鼓動の音がやけに大きく響いているのが分かる。
「いくよ。」
ふと優衣の声が耳に触れた瞬間、身体がふんわりとした何かに包まれた。温かくって、イイ香りで……。
「目、開けていいよ。」
優衣に促されるままに俺は瞳をそっと開けた。と、次の瞬間視界に飛び込んできたのは、俺をギュッと抱き締めている優衣の笑顔だった。俺より10cm以上も小さくて、華奢なのに、何故だろう……とても大きなものに包み込まれているかの様に温かくって心地良い……。
「どう?私のハグ……。」
「あったかい。」
「秋斗…。」
優衣の声が不意に恍惚を帯びたかと思ったその時、俺の唇と優衣の唇は一つになった。優衣の顔がとても近くて、髪からはシャンプーの甘い香りが漂ってくる。俺は優衣への愛おしさを堪えきれずに、優衣の、その小さくて華奢な身体を力いっぱい抱き締めた………。

「メリークリスマス。秋斗。」

「ばか、まだ少し早いよ……。」

再び俺達は抱き合い、キスをした……。

ほんの少しだけ……時が止まったような気がした……。

                    Fin……

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