我が家の氏神さま! 第二話−?「紅丸の秘密」
2005年2月16日 連載秋の朝は肌寒く、紅丸は背中に触れるひんやりとした冷気に目を覚ました。窓からは微かに陽光が射し、部屋の埃がキラキラと宝石の様に光っている。
「う、う〜ん……ここは…?」
起きて直ぐの頭には十分な酸素が行き渡っておらず、ぼんやりとした中で紅丸は自分の居場所を模索した。
「……そうか、確か昨日、茜と会って…その主人の梛殿に会って私の主人になってくれて……。」
とつとつと昨日から今現在の状況を記憶の道を辿っていく内に、次第に紅丸の頭はスッキリと覚めて来た。
「そうだ、思い出した。それから梛殿の家に行き、悠良殿に会い、一緒に入浴し………それから…。」
ふと辺りを見回すと、そこにはすぐ傍で寝息を立てている悠良の姿があった。
「そうか……悠良殿にそのまま部屋に連れて行かれて、眠ってしまったのか。」
一つ大きく欠伸を吐くと、紅丸はフッと小さく笑みを零した。
「ハハ、今までずっと孤独に耐えながら生きてきた私が、よもやここまでしてもらえるとはな…。茜との再会といい、これは運命というものなのかもな……。」
独り言のように呟くと、紅丸は何気なく壁に立て掛けられた大きな鏡に視線を遣った。鏡には寝息を立て可愛らしい寝顔で眠っている悠良の姿と、灰色の髪に整った顔立ちの青年が映っていた。
「………ん?」
紅丸は怪訝そうに鏡に映る青年を見た。すると鏡越しの青年も同じように怪訝そうな顔をした。更に訝しく思った紅丸は左前足を振った。すると、鏡越しの青年の左手がユラユラと動いた。暫しの間沈黙し、紅丸はある一つの事に頭が行き着いた。
「はぁ…なんだ、昨日は満月だったのか。誰かと思ったら人間の姿の私じゃないか。」
ホッと安堵の溜息を吐くと、紅丸は深呼吸をした。そう、紅丸はただの式神では無いのだ。彼は普段は狛犬の様な姿をしているものの、満月の夜から三日間の間、人間の姿になってしまうのだ。落ち着いた様に髪を掻くと、紅丸は静かにベッドから離れ、部屋を後にしようと扉のノブに手を掛けた。
―この姿で悠良殿と寝ていたのでは大変だ。彼女はまだ狛犬の私しか知らないんだ。―
そう心中で呟くと、紅丸はノブを静かに回した。
―ガチャッ―
金属の擦れる音が静寂の部屋に響いた。紅丸は悠良の状況をつぶさに確認しながら慎重に扉を押した。
―と。
「あれ?どうしたの、紅丸?早いね。」
「うわっ!!茜!シーッ!声が大きいぞ。」
扉の隙間から突然に茜が声を張った。思わず身じろいだ紅丸は無意識に声色を強くしていた。茜は訝しそうに首を傾ぐと、流石に注意された後と言う事もあり、今度は声音を小さくして言った。
「どうしたの?何で悠良さんのお部屋に?」
「私も良く分からん。どうやら昨日悠良殿の部屋で散々弄ばれた挙句、疲れて寝入ってしまったようなのだ。」
「ふぅん……。で、何でこんな朝早くに起きてるの?」
「たまたま寒くて目が覚めたんだ。だが、鏡を見たらほら!この通り人間の姿になってる。」
「あ!本当だ。って事は昨日、満月だったんだね。」
「そうらしい。でだ、このまま悠良殿が目覚めるまで一緒に寝ていたんじゃ大変な事になる。」
「???大変な……事?」
茜は再び訝しげに首を傾いだ。純粋に分からないと言った風である。若干呆れた様に首を振ると、紅丸は続けた。
「そうだ!悠良殿は私のこの姿を知らん。しかも、梛殿に伺ったのだが、何でも悠良殿は今まで男性と交際した経験が無いそうなのだ。それなのに朝起きたら見知らぬ男が隣で寝ていたとなれば……。」
ここまで話し、漸く悟ったように目を見開くと、茜はこくりと頷いた。
「そっか……。それはまずいよね。だったら早く出なきゃ。」
「だから、こうしてるんじゃないか。茜、すまないがどいてくれ。出られない。」
「あ……ごめん。」
慌てて茜は体を退かそうと後退した。すると、綺麗に自分が磨き上げた床で思いっきり滑ってしまい、それこそ地震の様に大きな音が家に木霊した。
「イタタタタタ……。」
「ん〜…何だ?こんな朝からドタバタうるさいなぁ……。」
「!!」
流石の悠良もとうとう目覚めてしまった。当の紅丸はと言えば、未だドアノブに手を掛けたまま半開きのドアに片足だけを踏み出した状態で硬直していた。
「ん〜……茜、なのか?それとも梛の馬鹿かぁ?」
寝ぼけ眼を摩りながら半ば夢現と言った様子で悠良はフラフラとその艶かしい肢体を起こした。
「―ッ!!」
悠良がベッドから起きた瞬間に紅丸の視線は硬直した。悠良は下にパジャマなどを履かず、
ランジェリー姿のままなのだ。ただでさえスタイルが良い悠良だが、下着姿だと余計にその体は強調され色っぽく見えた。
「ん……そこに立ってるの……茜なのか?」
紅丸の姿をぼんやりとした目付きで窺いながら、悠良は次第に近づいて来た。
「茜!茜!早くどいてくれ!悠良殿が来てるんだ。」
いよいよもって動揺した紅丸は思わず大声で叫んでしまった。と……。
「ん?何だよその声は……。梛のでも無いしましてや茜のワケがない……そこにいんのは誰だっ!?」
案の定、紅丸の声に違和感を感じた悠良が、すっかり目覚めてしまい、物凄い剣幕で紅丸に詰め寄って来た。一方、扉の向こうでしたたかに尻餅をついた茜は、痛むお尻を擦りながら紅丸の言葉など届いていないかの様にゆっくりと立ち上がると、尻餅をついた床を恨めしそうに見下ろした。
「イタタ……何で私ってこんなに磨き過ぎちゃうんだろ?…これじゃ梛様や悠良さんが怪我しちゃうかも……。」
「おーい!茜!早くどいてくれって!!直ぐそこまで悠良殿がぁー!」
「あー!これフローリング用のだったんだ……。確か梛様がフローリングは居間だけだって……。だからこんなに滑りやすくなったのね…。」
「茜!茜!」
紅丸の呼び掛けに全く気付かずに、茜は床の拭き直しを始めていた……。
「よくもアタシの部屋にノコノコと入ってきたもんだね……。覚悟は出来てるんだろうな?」
茜が拭き掃除のやり直しを始めた頃、紅丸はいよいよ窮地を迎えていた。悠良は既に戦闘態勢に入った様に指をポキポキと鳴らして迫ってくる。
「ちょっ…ちょっと待ってください!悠良殿!!」
「アンタみたいな侵入者に“殿”呼ばわりされる筋合いなんかないね!!」
全く聞く耳を持たず、悠良は紅丸に迫って来た。
「悠良殿、この声に聞き覚えはありませぬか?」
「何ぃ?聞き覚えだぁ?そんなもん………あれ?」
咄嗟に出した質問に悠良は意外にも反応を示した。歩みがピタリと止まり、何やら思案気に首を傾げている。
「う〜ん…言われてみれば何か聞き覚えがある様な……。」
「そうです!聞き覚えがあるハズです!ほら、昨日悠良殿は何かと一緒に寝ませんでしたか?」
「………あ。紅丸!そうだ、アタシ昨日紅丸と……って…何?まさか、アンタ…。」
「そうです!!私は紅丸ですよ!ワケあって満月の夜から三日間だけ人間の姿になってしまうんです!」
―このままいけば何とか分かってくれそうだ!―
確かな手応えを感じた紅丸は、この状況を打破するべくより詳しく話しを続けた……。
「う、う〜ん……ここは…?」
起きて直ぐの頭には十分な酸素が行き渡っておらず、ぼんやりとした中で紅丸は自分の居場所を模索した。
「……そうか、確か昨日、茜と会って…その主人の梛殿に会って私の主人になってくれて……。」
とつとつと昨日から今現在の状況を記憶の道を辿っていく内に、次第に紅丸の頭はスッキリと覚めて来た。
「そうだ、思い出した。それから梛殿の家に行き、悠良殿に会い、一緒に入浴し………それから…。」
ふと辺りを見回すと、そこにはすぐ傍で寝息を立てている悠良の姿があった。
「そうか……悠良殿にそのまま部屋に連れて行かれて、眠ってしまったのか。」
一つ大きく欠伸を吐くと、紅丸はフッと小さく笑みを零した。
「ハハ、今までずっと孤独に耐えながら生きてきた私が、よもやここまでしてもらえるとはな…。茜との再会といい、これは運命というものなのかもな……。」
独り言のように呟くと、紅丸は何気なく壁に立て掛けられた大きな鏡に視線を遣った。鏡には寝息を立て可愛らしい寝顔で眠っている悠良の姿と、灰色の髪に整った顔立ちの青年が映っていた。
「………ん?」
紅丸は怪訝そうに鏡に映る青年を見た。すると鏡越しの青年も同じように怪訝そうな顔をした。更に訝しく思った紅丸は左前足を振った。すると、鏡越しの青年の左手がユラユラと動いた。暫しの間沈黙し、紅丸はある一つの事に頭が行き着いた。
「はぁ…なんだ、昨日は満月だったのか。誰かと思ったら人間の姿の私じゃないか。」
ホッと安堵の溜息を吐くと、紅丸は深呼吸をした。そう、紅丸はただの式神では無いのだ。彼は普段は狛犬の様な姿をしているものの、満月の夜から三日間の間、人間の姿になってしまうのだ。落ち着いた様に髪を掻くと、紅丸は静かにベッドから離れ、部屋を後にしようと扉のノブに手を掛けた。
―この姿で悠良殿と寝ていたのでは大変だ。彼女はまだ狛犬の私しか知らないんだ。―
そう心中で呟くと、紅丸はノブを静かに回した。
―ガチャッ―
金属の擦れる音が静寂の部屋に響いた。紅丸は悠良の状況をつぶさに確認しながら慎重に扉を押した。
―と。
「あれ?どうしたの、紅丸?早いね。」
「うわっ!!茜!シーッ!声が大きいぞ。」
扉の隙間から突然に茜が声を張った。思わず身じろいだ紅丸は無意識に声色を強くしていた。茜は訝しそうに首を傾ぐと、流石に注意された後と言う事もあり、今度は声音を小さくして言った。
「どうしたの?何で悠良さんのお部屋に?」
「私も良く分からん。どうやら昨日悠良殿の部屋で散々弄ばれた挙句、疲れて寝入ってしまったようなのだ。」
「ふぅん……。で、何でこんな朝早くに起きてるの?」
「たまたま寒くて目が覚めたんだ。だが、鏡を見たらほら!この通り人間の姿になってる。」
「あ!本当だ。って事は昨日、満月だったんだね。」
「そうらしい。でだ、このまま悠良殿が目覚めるまで一緒に寝ていたんじゃ大変な事になる。」
「???大変な……事?」
茜は再び訝しげに首を傾いだ。純粋に分からないと言った風である。若干呆れた様に首を振ると、紅丸は続けた。
「そうだ!悠良殿は私のこの姿を知らん。しかも、梛殿に伺ったのだが、何でも悠良殿は今まで男性と交際した経験が無いそうなのだ。それなのに朝起きたら見知らぬ男が隣で寝ていたとなれば……。」
ここまで話し、漸く悟ったように目を見開くと、茜はこくりと頷いた。
「そっか……。それはまずいよね。だったら早く出なきゃ。」
「だから、こうしてるんじゃないか。茜、すまないがどいてくれ。出られない。」
「あ……ごめん。」
慌てて茜は体を退かそうと後退した。すると、綺麗に自分が磨き上げた床で思いっきり滑ってしまい、それこそ地震の様に大きな音が家に木霊した。
「イタタタタタ……。」
「ん〜…何だ?こんな朝からドタバタうるさいなぁ……。」
「!!」
流石の悠良もとうとう目覚めてしまった。当の紅丸はと言えば、未だドアノブに手を掛けたまま半開きのドアに片足だけを踏み出した状態で硬直していた。
「ん〜……茜、なのか?それとも梛の馬鹿かぁ?」
寝ぼけ眼を摩りながら半ば夢現と言った様子で悠良はフラフラとその艶かしい肢体を起こした。
「―ッ!!」
悠良がベッドから起きた瞬間に紅丸の視線は硬直した。悠良は下にパジャマなどを履かず、
ランジェリー姿のままなのだ。ただでさえスタイルが良い悠良だが、下着姿だと余計にその体は強調され色っぽく見えた。
「ん……そこに立ってるの……茜なのか?」
紅丸の姿をぼんやりとした目付きで窺いながら、悠良は次第に近づいて来た。
「茜!茜!早くどいてくれ!悠良殿が来てるんだ。」
いよいよもって動揺した紅丸は思わず大声で叫んでしまった。と……。
「ん?何だよその声は……。梛のでも無いしましてや茜のワケがない……そこにいんのは誰だっ!?」
案の定、紅丸の声に違和感を感じた悠良が、すっかり目覚めてしまい、物凄い剣幕で紅丸に詰め寄って来た。一方、扉の向こうでしたたかに尻餅をついた茜は、痛むお尻を擦りながら紅丸の言葉など届いていないかの様にゆっくりと立ち上がると、尻餅をついた床を恨めしそうに見下ろした。
「イタタ……何で私ってこんなに磨き過ぎちゃうんだろ?…これじゃ梛様や悠良さんが怪我しちゃうかも……。」
「おーい!茜!早くどいてくれって!!直ぐそこまで悠良殿がぁー!」
「あー!これフローリング用のだったんだ……。確か梛様がフローリングは居間だけだって……。だからこんなに滑りやすくなったのね…。」
「茜!茜!」
紅丸の呼び掛けに全く気付かずに、茜は床の拭き直しを始めていた……。
「よくもアタシの部屋にノコノコと入ってきたもんだね……。覚悟は出来てるんだろうな?」
茜が拭き掃除のやり直しを始めた頃、紅丸はいよいよ窮地を迎えていた。悠良は既に戦闘態勢に入った様に指をポキポキと鳴らして迫ってくる。
「ちょっ…ちょっと待ってください!悠良殿!!」
「アンタみたいな侵入者に“殿”呼ばわりされる筋合いなんかないね!!」
全く聞く耳を持たず、悠良は紅丸に迫って来た。
「悠良殿、この声に聞き覚えはありませぬか?」
「何ぃ?聞き覚えだぁ?そんなもん………あれ?」
咄嗟に出した質問に悠良は意外にも反応を示した。歩みがピタリと止まり、何やら思案気に首を傾げている。
「う〜ん…言われてみれば何か聞き覚えがある様な……。」
「そうです!聞き覚えがあるハズです!ほら、昨日悠良殿は何かと一緒に寝ませんでしたか?」
「………あ。紅丸!そうだ、アタシ昨日紅丸と……って…何?まさか、アンタ…。」
「そうです!!私は紅丸ですよ!ワケあって満月の夜から三日間だけ人間の姿になってしまうんです!」
―このままいけば何とか分かってくれそうだ!―
確かな手応えを感じた紅丸は、この状況を打破するべくより詳しく話しを続けた……。
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