我が家の氏神さま!第二話−?「露点」
2005年3月4日 連載朝食を済ませ、朝の芸能情報に視線を向けながら、梛は物思いに耽っていた。
茜が自分を選んだその真意とは…。そもそも茜の目的は……。
思案した所で皆目検討が付くハズも無い事は分かっていたが、知りたいと思う好奇心もまた本心だった。食器を洗う綺麗な女の子……。梛の家に住まうその娘は神様である。つい数日前に通い慣れた神社で出会い、ロクな説明も無いままに自分は貴方に使える者だと半ば居候になった。名を茜と言い、純粋無垢でちょっと天然の入った美少女…。よくよく考えてみれば何故自分は茜を疑う事無く受け入れたのだろうかと、梛は思った。
「はぁ……考えても仕方ない!何度も言うように、これは俺の運命なんだ。」
ひとりごちて、梛はふと脳裏に不思議な感触を受けた。霊力の感応である…。梛は幼少時代から霊的、神的なものとのコミュニケーションが取れる特別な力を持っている。それは姉の悠良にも備わるもので、茜や紅丸との出会いもこの力があればこそだった。その霊力が霊的、神的なものに感応すると、脳裏に表現できない感覚を与えるのだ。梛はすぐさま隣の悠良を見た。案の定、悠良の方も梛を見返した。
「悠良姉……これって。」
「ああ、茜や紅丸以外のだね。こんな感覚は初めてだ。何だ…こう、嫌な感じなんだよな。」
梛は静かに頷いた。茜や紅丸とは違う重い感覚…。悠良が“嫌な”と表現するのも頷けた。
二人でアイコンタクトを交わすと、梛は茜と紅丸を呼んだ。
「ちょっと、二人とも来てくれ。」
呼ばれた茜と紅丸は怪訝そうに顔を見合わせると、梛の正面に集合した。
「あの……梛様?」
「一体どうしたのです?梛殿。」
「何か嫌な感覚がするんだ……。お前ら、何も感じないのか?」
梛の問いに二人は首を傾ぐばかりで何も感じてはいないらしい。梛は心なしか疑問が生まれた。……茜は神で、紅丸は式神なんだよな?何で何も感じない……。茜との出会いも、紅丸との出会いも、互いの霊力の感応による力の共鳴が引き合わせてくれた…。
「茜も紅丸も……霊的なものや神的なものを察知する事が出来るんじゃないのか?」
言って梛は益々強い感覚に襲われた。どうやら近づいている……そう直感で分かった。
「ええ、私も茜も同じ神や式神を察知する事は出来ますが……。」
「だったら、今何か感じないのか?」
言及する梛に、茜が心配そうに声を掛けた。
「梛様……何か感じているんですか?」
「ああ、悠良姉もな……。何かこう、頭にズンと圧し掛かってくるような…嫌な感じだ。」
「………まさか。」
梛が言い終わると時を違わずして、紅丸が何か思い当たる節がある様に声を紡いだ。
「茜……“暴走体”かもしれんぞ。」
「え………。」
何の事だ…。梛は重い頭を抱えながら紅丸の言葉に耳を傾けた。“暴走体”とは…。聞いた茜の反応も気に掛かった。
「紅丸……それは何だ?」
問う梛に少し曇りがちな表情を見せる紅丸…。どうやら良いモノじゃ無いらしいと梛は大よその検討を付けた。
「暴走体とは、我を失い無差別に害を成す“神”の成れの果てです……。」
「まさか、その暴走体って奴に感応してんのか?」
「分かりません……ですが、暴走体は我々の様に真っ当な神には感知出来ないんです…。」
「!!」
梛の背筋に粟立つものがあった。近づく感覚……。茜達では感知出来ない存在……。
暴走する神……。そして、暴走体を感知できる霊力者……。梛の中で何かが一つになった様な気がした。…茜との出会いも、まさかこの事に……。と、突然に悠良の声が響いた。
「見ろ!!天井が歪んでる……。」
直ぐさま上に視線を向けると、信じられない光景が現実に起こっていた。天井はグニャリと歪み、渦の様に回転している。何だこれは……。そう心で驚愕の声を上げると、梛は更なる驚きに遭遇する。
「マジかよ……。」
渦を巻く天井から何かが降りて来た。それは正にヒトのそれであったが、頭では処理できなかった。目の前で起きている事は紛れも無い事実だが、頭にある常識からは遥かに逸脱した光景……。そう、例えるならまさにゲームの世界の様な……。
「これは……もしかして、降臨(フォール)じゃない?」
突然に茜が梛の聞き慣れない言葉を発した。紅丸は理解を示したらしく頷いている。
梛は天井に視線を向けたまま茜に問うた。
「茜……その降臨(フォール)って何だ?」
「降臨(フォール) って言うのは、神が地上にやって来る時の現象です。神は空間や次元を無視して好きな場所に降り立つ事が出来るんです。」
「神?って事はここに今神様が降りてくるって事か?」
「はい……。」
言って茜は黙ってしまった。一方の梛も大まかな理解が及ぶとそれ以上の言及はせず、再び天井に意識を集中させた。神が降りる……。神の降臨と聞き、その場には自然と緊張が走った。次第に降臨してきた神の姿が梛達の前に露になり、全てが渦から抜け出ると、天井は何事も無かったかの様に元の平面に戻った。降り立った神は、薄紫の長髪を後ろで束ね、顔立ちは端整だが、その纏う衣装は戦う者…武士(もののふ)のそれだった。呆然と見つめる梛に、神は静かに声を掛けた。
「お前が……“候補”か。」
問われた梛はキョトンとしたまま、返答に困窮した。問われている意味が理解できないのだ。神はその様子に表情を変えずに、踵を返すと今度は茜に問うた。
「茜……候補に何も説明していないのか?」
ビクリと体を竦ませ、茜は怯えた様に神を見上げた。
「すいません、翠様……。まだ、何も……。」
茜の返答に呆れた様に翠と呼ばれた神は嘆息した。梛はその様子に、翠が茜の上司、位が上の神であるとなんとなく分かった。
「仕方ない…。私が説明しよう。」
言って翠は踵を再び梛に返した。その瞳は美しい翡翠色をしており、吸い込まれる様な感覚を梛は覚えた。すると、悠良が翠と梛の間に割って入った。
「ちょっと!梛に“候補”とか、茜に偉そうに物言ってるけど、アンタは何なんだよ?」
相手が神であろうが、物怖じしないのが梛の姉、悠良の良い所であり、また同時に欠点でもあった。言い迫られた翠は、しかし表情を崩さずに
「これは申し訳ない。私は神々の住まう世界“天上界”の最高神であらせられる“元始開闢天神”様より遣わされた、軍事を司る神で、茜の教育係を務めている“翠”だ。そちらの青年の事を“候補”と呼ぶのは、彼に神々を越える力が備わっているかもしれないからだ。」
と、淡々と述べた。悠良はまだどこか納得いかないらしく、引き下がろうとはしなかった。それどころか、ますますの言及を翠に迫った。
「そもそも、一体何の為に茜は梛に仕え、アンタはここに来たんだよ?!」
「ちょ、悠良姉!あんまし強気に出ると……。」
「そうだな。それも説明せねばなるまい。」
梛の静止を遮り、翠は返答を許諾した。いずれは分かる事……時期は早いほうが良いだろう……神々の内実を露呈する事にはなろうが構いはすまい……そう心中で判断を付けると、翠は静かに口を開いた………。
茜が自分を選んだその真意とは…。そもそも茜の目的は……。
思案した所で皆目検討が付くハズも無い事は分かっていたが、知りたいと思う好奇心もまた本心だった。食器を洗う綺麗な女の子……。梛の家に住まうその娘は神様である。つい数日前に通い慣れた神社で出会い、ロクな説明も無いままに自分は貴方に使える者だと半ば居候になった。名を茜と言い、純粋無垢でちょっと天然の入った美少女…。よくよく考えてみれば何故自分は茜を疑う事無く受け入れたのだろうかと、梛は思った。
「はぁ……考えても仕方ない!何度も言うように、これは俺の運命なんだ。」
ひとりごちて、梛はふと脳裏に不思議な感触を受けた。霊力の感応である…。梛は幼少時代から霊的、神的なものとのコミュニケーションが取れる特別な力を持っている。それは姉の悠良にも備わるもので、茜や紅丸との出会いもこの力があればこそだった。その霊力が霊的、神的なものに感応すると、脳裏に表現できない感覚を与えるのだ。梛はすぐさま隣の悠良を見た。案の定、悠良の方も梛を見返した。
「悠良姉……これって。」
「ああ、茜や紅丸以外のだね。こんな感覚は初めてだ。何だ…こう、嫌な感じなんだよな。」
梛は静かに頷いた。茜や紅丸とは違う重い感覚…。悠良が“嫌な”と表現するのも頷けた。
二人でアイコンタクトを交わすと、梛は茜と紅丸を呼んだ。
「ちょっと、二人とも来てくれ。」
呼ばれた茜と紅丸は怪訝そうに顔を見合わせると、梛の正面に集合した。
「あの……梛様?」
「一体どうしたのです?梛殿。」
「何か嫌な感覚がするんだ……。お前ら、何も感じないのか?」
梛の問いに二人は首を傾ぐばかりで何も感じてはいないらしい。梛は心なしか疑問が生まれた。……茜は神で、紅丸は式神なんだよな?何で何も感じない……。茜との出会いも、紅丸との出会いも、互いの霊力の感応による力の共鳴が引き合わせてくれた…。
「茜も紅丸も……霊的なものや神的なものを察知する事が出来るんじゃないのか?」
言って梛は益々強い感覚に襲われた。どうやら近づいている……そう直感で分かった。
「ええ、私も茜も同じ神や式神を察知する事は出来ますが……。」
「だったら、今何か感じないのか?」
言及する梛に、茜が心配そうに声を掛けた。
「梛様……何か感じているんですか?」
「ああ、悠良姉もな……。何かこう、頭にズンと圧し掛かってくるような…嫌な感じだ。」
「………まさか。」
梛が言い終わると時を違わずして、紅丸が何か思い当たる節がある様に声を紡いだ。
「茜……“暴走体”かもしれんぞ。」
「え………。」
何の事だ…。梛は重い頭を抱えながら紅丸の言葉に耳を傾けた。“暴走体”とは…。聞いた茜の反応も気に掛かった。
「紅丸……それは何だ?」
問う梛に少し曇りがちな表情を見せる紅丸…。どうやら良いモノじゃ無いらしいと梛は大よその検討を付けた。
「暴走体とは、我を失い無差別に害を成す“神”の成れの果てです……。」
「まさか、その暴走体って奴に感応してんのか?」
「分かりません……ですが、暴走体は我々の様に真っ当な神には感知出来ないんです…。」
「!!」
梛の背筋に粟立つものがあった。近づく感覚……。茜達では感知出来ない存在……。
暴走する神……。そして、暴走体を感知できる霊力者……。梛の中で何かが一つになった様な気がした。…茜との出会いも、まさかこの事に……。と、突然に悠良の声が響いた。
「見ろ!!天井が歪んでる……。」
直ぐさま上に視線を向けると、信じられない光景が現実に起こっていた。天井はグニャリと歪み、渦の様に回転している。何だこれは……。そう心で驚愕の声を上げると、梛は更なる驚きに遭遇する。
「マジかよ……。」
渦を巻く天井から何かが降りて来た。それは正にヒトのそれであったが、頭では処理できなかった。目の前で起きている事は紛れも無い事実だが、頭にある常識からは遥かに逸脱した光景……。そう、例えるならまさにゲームの世界の様な……。
「これは……もしかして、降臨(フォール)じゃない?」
突然に茜が梛の聞き慣れない言葉を発した。紅丸は理解を示したらしく頷いている。
梛は天井に視線を向けたまま茜に問うた。
「茜……その降臨(フォール)って何だ?」
「降臨(フォール) って言うのは、神が地上にやって来る時の現象です。神は空間や次元を無視して好きな場所に降り立つ事が出来るんです。」
「神?って事はここに今神様が降りてくるって事か?」
「はい……。」
言って茜は黙ってしまった。一方の梛も大まかな理解が及ぶとそれ以上の言及はせず、再び天井に意識を集中させた。神が降りる……。神の降臨と聞き、その場には自然と緊張が走った。次第に降臨してきた神の姿が梛達の前に露になり、全てが渦から抜け出ると、天井は何事も無かったかの様に元の平面に戻った。降り立った神は、薄紫の長髪を後ろで束ね、顔立ちは端整だが、その纏う衣装は戦う者…武士(もののふ)のそれだった。呆然と見つめる梛に、神は静かに声を掛けた。
「お前が……“候補”か。」
問われた梛はキョトンとしたまま、返答に困窮した。問われている意味が理解できないのだ。神はその様子に表情を変えずに、踵を返すと今度は茜に問うた。
「茜……候補に何も説明していないのか?」
ビクリと体を竦ませ、茜は怯えた様に神を見上げた。
「すいません、翠様……。まだ、何も……。」
茜の返答に呆れた様に翠と呼ばれた神は嘆息した。梛はその様子に、翠が茜の上司、位が上の神であるとなんとなく分かった。
「仕方ない…。私が説明しよう。」
言って翠は踵を再び梛に返した。その瞳は美しい翡翠色をしており、吸い込まれる様な感覚を梛は覚えた。すると、悠良が翠と梛の間に割って入った。
「ちょっと!梛に“候補”とか、茜に偉そうに物言ってるけど、アンタは何なんだよ?」
相手が神であろうが、物怖じしないのが梛の姉、悠良の良い所であり、また同時に欠点でもあった。言い迫られた翠は、しかし表情を崩さずに
「これは申し訳ない。私は神々の住まう世界“天上界”の最高神であらせられる“元始開闢天神”様より遣わされた、軍事を司る神で、茜の教育係を務めている“翠”だ。そちらの青年の事を“候補”と呼ぶのは、彼に神々を越える力が備わっているかもしれないからだ。」
と、淡々と述べた。悠良はまだどこか納得いかないらしく、引き下がろうとはしなかった。それどころか、ますますの言及を翠に迫った。
「そもそも、一体何の為に茜は梛に仕え、アンタはここに来たんだよ?!」
「ちょ、悠良姉!あんまし強気に出ると……。」
「そうだな。それも説明せねばなるまい。」
梛の静止を遮り、翠は返答を許諾した。いずれは分かる事……時期は早いほうが良いだろう……神々の内実を露呈する事にはなろうが構いはすまい……そう心中で判断を付けると、翠は静かに口を開いた………。
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