狼狽外伝1 〜買い物〜
2004年8月28日 連載私はシャル。パーティーの為のドレスをケイスの許婚のエレンブラと買いに、街に来ているの。
「うわーーー♪賑やかだねぇ。シャルさん!」
「そうね♪凄く活気に溢れてて、皆の顔も活き活きしてる。」
街の人はみんな笑顔が溢れてて、私の心はとても温かい気持ちになった。ケイスって上手く取り締まってるんだ……。視線を右に左にと泳がせていると、エレンブラが肩を叩いてきた。
「ちょっと、シャルさん。ドレス屋過ぎてますよ!」
「え?ああ、ゴメン!ちょっと目移りし過ぎちゃったみたい。」
「無理もないよ。カルナムールは辺境地帯の中じゃかなり活気付いてる街なんだし。」
エレンブラが言うには、王都から離れれば離れるほど、活気は減ってくるらしいの。物資の調達や人の流通が少なくなるから、らしいんだけど……。
「よし、それじゃドレス仕立ててもらお♪」
「うん!」
エレンブラは慣れた様子でドレスの仕立てを頼むと、まだ若干の時間が掛かるらしい…。私達はその空き時間を利用して、カフェで話す事にした。
「ね、シャルさんって見た目はすっごい若く見えるんだけど、実際は何歳なの?」
「え?私は21歳だけど……。」
そっか、彼女はまだ私が異世界「ギエルハイム」から来たって知らないんだっけ……。容姿は都合が良い様に15,6歳の頃の私に変えてあるんだった……。
「えーーー!?ボクより2歳も若いんだぁ。ビックリ!!でも、ボクなんかよりも随分大人な雰囲気だよね。恋愛もなんか凄そうだし……何より、その容姿で21じゃ、もはや犯罪だよね♪」
犯罪??私何か悪いことでもしてるのかな?
「私、何か悪いことした?」
「え?!アハハ、違うよ。シャルさんの見た目が少女っぽいでしょ。少女は法律で不純な事はしちゃいけませんよって事になってるから、実年齢が21歳って事は別に不純な事でも出来る、でも見た目はやっちゃいけない年齢に見える……だから、犯罪♪」
そう、なんだ。コッチは少女が体を交えるのは犯罪なんだ……。
私は漸くエレンブラの言葉の意味を理解すると、残っていたコーヒーをグイっと飲み干した。
「そろそろ、かな?」
エレンブラが店の時計に目配せすると、残念そうに呟いた。
「あれ?何か残念そう……。」
「だって、ボクもっとシャルさんの恋愛話を聞きたかったのに。」
「フフフ、それなら何時でも出来るじゃない。ケイスのお屋敷に一緒に住んでるんだし。」
「そ、そうだよね!よ〜し♪ドレスを取りに行こう♪」
納得がいったのか、エレンブラは急に明るさを取り戻すと、私の腕を引っ張って、ドレス屋に仕立ててもらっているドレスを受け取りに向かった。でも、私の話をもっと聞きたい……か。フフ、嬉しいな……。
「おう!お嬢ちゃん達!!これ、どうだい?今なら安くしとくよ。なんたってお嬢ちゃん達は美人だもんな♪」
「フフン♪そんな当たり前の事言っても、ボク達は買いませんよ〜だ。」
街の商人とエレンブラの会話を聞いてると、自然に笑みが零れて来た。こんなにアウヴァニアってあったかいんだ……。このまま……ずっと過ごせたらいいなぁ……。
「シャルさん!!」
突然のエレンブラの緊迫した声に私は我に帰った。何やら怯えている様子のエレンブラが指差した方向を見て、私は背筋が凍った。
「え?!……うそ……人が、倒れてる……。」
20代と見受けられる若い男の人が、路地の脇でうつ伏せに倒れていた。腰に剣を挿している所からして…どうやら剣士みたい……。私は、咄嗟に駆け寄ると、倒れている男に声を掛けた。
「だ、大丈夫ですか!?」
私の行動に継いでエレンブラも駆け寄り、声を掛けた。
「ねえ!大丈夫?ボクの声、聞こえる?」
男に反応は無い……ふと、最悪の状況が脳裏を掠める……。
「エレンブラ……もしかして、もう手遅れなんじゃ……。」
「え、ええ?!それって……死んでるって……こと?」
急に背筋に冷や汗が流れた。手は震えて、腰は抜けてしまって動けない。どうしよう……必死で私は男の体を揺さぶった。すると、
「う、う〜ん……どうしたのだ?地震か?」
「!!!!」
男は目を擦りながら、ムクッと上体を起こして辺りをキョロキョロと見回した。
「ん?お嬢さん方、どうなされました?」
「え?だって、貴方が倒れていたから……。」
男は暫しポカンと口を開けていたが、思い出したのか深々と頭を下げてきた。
「そうだったのですか!これはかたじけない!!不肖ケイナスこのご恩は一生忘れませぬぞ!!」
「そ、そんな、一生だなんて、ねえ?エレンブラ。」
「そうだよ!ボク達はただ起こしただけだから。」
ケイナスと名乗った男はバッと立ち上がると、右手を胸に当て、軽くお辞儀をした。
「いや、あなた方は拙者が空腹で死に掛けていたのを救ってくださった。もしあのままだったら、拙者は恐らく……。」
「なんだ。お腹が空いてるんだ。ね?シャルさん。この人に何か食べさせてあげようよ。」
「そうね。それが良いと思う。」
こうして、私達はケイナスにご飯を奢ってあげた。
「いや、かたじけない!!助けてもらった上にこのような食事までさせて頂けるとは、ケイナス、感謝に耐えませぬ…。」
「アハハ、ケイナスって何か喋り方面白い♪ところで、これから何処行くの?」
すっかりエレンブラはケイナスが気に入ったみたい……。あれから三十分くらい話してるけど、ケイナスは別に悪い人じゃないって事は分かった。後、喋り方が面白いって事も……。
「拙者、シャル殿とエレンブラ殿を守り抜く所存です!」
え?それって私達について行くって事?どうしよ、変な事になってきたみたい。
「べ、別にそこまでしてもらわなくても、私達は見返りを求めて助けたわけでは無いですから……。」
「いえ、拙者の住んでいた所の教えで、命を救ってくれた者は、命を賭して守れとあるんです。拙者、武人の端くれ、この教えに背くと言う事は、死よりも辛いこと……。別にくっ付いて回るというのではありませぬ。シャル殿やエレンブラ殿が危険に晒されぬよう、またもし危険な目に晒された場合に、拙者が守るといっているだけです。」
といわれても……。はぁ……仕方ない…か。多分拒んでも付いて来るだろうし……。
「分かりました……。それじゃ、私達は屋敷に戻りますから、付いて来てください。」
「なんか友達が増えちゃったね。ま、いいか♪ケイスもきっと仲間は大勢に限るって言うだろうし。」
「おお!ありがたき幸せ!!」
「……………。」
「それじゃ、ケイスの屋敷に出発!!」
こうして、私達はケイナスと知り合ったのです。……なんか、違うような気がするんだけど………本人はもう覚悟決めてるみたいだし……どうこう言っても付いて来るんだろうなぁ……ま、これも何かの縁だと思うしかない、か……。
「シャルさん〜!遅れますよ〜!」
「シャル殿〜!!急がれよ!!」
「はぁ………。」
外伝おわり(^▽^)
「うわーーー♪賑やかだねぇ。シャルさん!」
「そうね♪凄く活気に溢れてて、皆の顔も活き活きしてる。」
街の人はみんな笑顔が溢れてて、私の心はとても温かい気持ちになった。ケイスって上手く取り締まってるんだ……。視線を右に左にと泳がせていると、エレンブラが肩を叩いてきた。
「ちょっと、シャルさん。ドレス屋過ぎてますよ!」
「え?ああ、ゴメン!ちょっと目移りし過ぎちゃったみたい。」
「無理もないよ。カルナムールは辺境地帯の中じゃかなり活気付いてる街なんだし。」
エレンブラが言うには、王都から離れれば離れるほど、活気は減ってくるらしいの。物資の調達や人の流通が少なくなるから、らしいんだけど……。
「よし、それじゃドレス仕立ててもらお♪」
「うん!」
エレンブラは慣れた様子でドレスの仕立てを頼むと、まだ若干の時間が掛かるらしい…。私達はその空き時間を利用して、カフェで話す事にした。
「ね、シャルさんって見た目はすっごい若く見えるんだけど、実際は何歳なの?」
「え?私は21歳だけど……。」
そっか、彼女はまだ私が異世界「ギエルハイム」から来たって知らないんだっけ……。容姿は都合が良い様に15,6歳の頃の私に変えてあるんだった……。
「えーーー!?ボクより2歳も若いんだぁ。ビックリ!!でも、ボクなんかよりも随分大人な雰囲気だよね。恋愛もなんか凄そうだし……何より、その容姿で21じゃ、もはや犯罪だよね♪」
犯罪??私何か悪いことでもしてるのかな?
「私、何か悪いことした?」
「え?!アハハ、違うよ。シャルさんの見た目が少女っぽいでしょ。少女は法律で不純な事はしちゃいけませんよって事になってるから、実年齢が21歳って事は別に不純な事でも出来る、でも見た目はやっちゃいけない年齢に見える……だから、犯罪♪」
そう、なんだ。コッチは少女が体を交えるのは犯罪なんだ……。
私は漸くエレンブラの言葉の意味を理解すると、残っていたコーヒーをグイっと飲み干した。
「そろそろ、かな?」
エレンブラが店の時計に目配せすると、残念そうに呟いた。
「あれ?何か残念そう……。」
「だって、ボクもっとシャルさんの恋愛話を聞きたかったのに。」
「フフフ、それなら何時でも出来るじゃない。ケイスのお屋敷に一緒に住んでるんだし。」
「そ、そうだよね!よ〜し♪ドレスを取りに行こう♪」
納得がいったのか、エレンブラは急に明るさを取り戻すと、私の腕を引っ張って、ドレス屋に仕立ててもらっているドレスを受け取りに向かった。でも、私の話をもっと聞きたい……か。フフ、嬉しいな……。
「おう!お嬢ちゃん達!!これ、どうだい?今なら安くしとくよ。なんたってお嬢ちゃん達は美人だもんな♪」
「フフン♪そんな当たり前の事言っても、ボク達は買いませんよ〜だ。」
街の商人とエレンブラの会話を聞いてると、自然に笑みが零れて来た。こんなにアウヴァニアってあったかいんだ……。このまま……ずっと過ごせたらいいなぁ……。
「シャルさん!!」
突然のエレンブラの緊迫した声に私は我に帰った。何やら怯えている様子のエレンブラが指差した方向を見て、私は背筋が凍った。
「え?!……うそ……人が、倒れてる……。」
20代と見受けられる若い男の人が、路地の脇でうつ伏せに倒れていた。腰に剣を挿している所からして…どうやら剣士みたい……。私は、咄嗟に駆け寄ると、倒れている男に声を掛けた。
「だ、大丈夫ですか!?」
私の行動に継いでエレンブラも駆け寄り、声を掛けた。
「ねえ!大丈夫?ボクの声、聞こえる?」
男に反応は無い……ふと、最悪の状況が脳裏を掠める……。
「エレンブラ……もしかして、もう手遅れなんじゃ……。」
「え、ええ?!それって……死んでるって……こと?」
急に背筋に冷や汗が流れた。手は震えて、腰は抜けてしまって動けない。どうしよう……必死で私は男の体を揺さぶった。すると、
「う、う〜ん……どうしたのだ?地震か?」
「!!!!」
男は目を擦りながら、ムクッと上体を起こして辺りをキョロキョロと見回した。
「ん?お嬢さん方、どうなされました?」
「え?だって、貴方が倒れていたから……。」
男は暫しポカンと口を開けていたが、思い出したのか深々と頭を下げてきた。
「そうだったのですか!これはかたじけない!!不肖ケイナスこのご恩は一生忘れませぬぞ!!」
「そ、そんな、一生だなんて、ねえ?エレンブラ。」
「そうだよ!ボク達はただ起こしただけだから。」
ケイナスと名乗った男はバッと立ち上がると、右手を胸に当て、軽くお辞儀をした。
「いや、あなた方は拙者が空腹で死に掛けていたのを救ってくださった。もしあのままだったら、拙者は恐らく……。」
「なんだ。お腹が空いてるんだ。ね?シャルさん。この人に何か食べさせてあげようよ。」
「そうね。それが良いと思う。」
こうして、私達はケイナスにご飯を奢ってあげた。
「いや、かたじけない!!助けてもらった上にこのような食事までさせて頂けるとは、ケイナス、感謝に耐えませぬ…。」
「アハハ、ケイナスって何か喋り方面白い♪ところで、これから何処行くの?」
すっかりエレンブラはケイナスが気に入ったみたい……。あれから三十分くらい話してるけど、ケイナスは別に悪い人じゃないって事は分かった。後、喋り方が面白いって事も……。
「拙者、シャル殿とエレンブラ殿を守り抜く所存です!」
え?それって私達について行くって事?どうしよ、変な事になってきたみたい。
「べ、別にそこまでしてもらわなくても、私達は見返りを求めて助けたわけでは無いですから……。」
「いえ、拙者の住んでいた所の教えで、命を救ってくれた者は、命を賭して守れとあるんです。拙者、武人の端くれ、この教えに背くと言う事は、死よりも辛いこと……。別にくっ付いて回るというのではありませぬ。シャル殿やエレンブラ殿が危険に晒されぬよう、またもし危険な目に晒された場合に、拙者が守るといっているだけです。」
といわれても……。はぁ……仕方ない…か。多分拒んでも付いて来るだろうし……。
「分かりました……。それじゃ、私達は屋敷に戻りますから、付いて来てください。」
「なんか友達が増えちゃったね。ま、いいか♪ケイスもきっと仲間は大勢に限るって言うだろうし。」
「おお!ありがたき幸せ!!」
「……………。」
「それじゃ、ケイスの屋敷に出発!!」
こうして、私達はケイナスと知り合ったのです。……なんか、違うような気がするんだけど………本人はもう覚悟決めてるみたいだし……どうこう言っても付いて来るんだろうなぁ……ま、これも何かの縁だと思うしかない、か……。
「シャルさん〜!遅れますよ〜!」
「シャル殿〜!!急がれよ!!」
「はぁ………。」
外伝おわり(^▽^)
「狼狽」〜第九章〜初対面【ケイナス】
2004年8月26日 連載足取りも軽くリビングに向かう私の耳に、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「ハハ、もう盛り上がってるみたいだな。」
私は自分でも気付かぬうちに早足になっていた。逸る鼓動を抑えて平静な顔をして扉をゆっくりと開いた。……あれ?
「お!遅かったじゃねえか!料理は粗方並べたぜ!」
「うんうん♪流石ボクの旦那さんだ!カッコいいよ♪」
「ケイス、早く、お料理冷めちゃうよ。」
ザイバックにエレンブラ……そしてシャル……。うん、確かに居るな……というか、もう一人程増えているのは気のせいだろうか?……私は暫し呆然と立ち尽くすと、目を凝らしてもう一度リビングに居る人間の数を数えた。
「ん?どうした?ケイス……。」
ザイバック……。
「ほら!早くボクの横に来てよ!」
エレンブラ……。
「乾杯、しようよ。」
シャル……。
「ほほう…これはまた何とも豪勢な……。」
…………誰?
「うわーーー!!」
「ど、どうした?ケイス!」
「いや、ザイバック、そこの人は誰だ!?何でみんな平然としてるんだ?!」
「あ、ああ…そういや紹介してねえな。」
「これは、お初にお目に掛かります。拙者、【ケイナス】と申す者、剣士の端くれでございます。」
……ケイナス?……知り合いでは無いな…。私は未だ混乱している頭を抱えてソファに腰掛けた。すると、ケイナスは私を見て、感心した様に頷いた。
「うむ、やはりこの方、類稀なる素質をお持ちだ。」
ん?何の素質だろうか?私に見出される素質……掃除、洗濯、料理かな?……と、まだケイナスがここに居る理由が明らかになっていないじゃないか。
「あの……ケイナスさん?何故、私の屋敷に?」
なるべく丁寧な口調で尋ねると、何故かエレンブラが私に近付いて来た。
「それはね、ボクとシャルさんで買い物をしてたら、道端に倒れてたんだ。だから慌てて駆け寄ったらお腹が空いてたみたいで、ご飯を奢ったら、着いて来ちゃった♪」
着いて来ちゃったって……。はぁ……どうして私の周りにはこう、不自然な出会いが多いんだろう……。
「いや、恥ずかしい限り。エレンブラ殿、シャル殿、拙者、義によってこの恩は返しますぞ。」
「そんな、ボク達が勝手にやった事だから気にしなくていいって。」
「そ、そうですよ。私達は気にしてませんから。」
「そう言って頂けるとありがたい!」
「あの、ケイナスさん。見た所、この辺りでは見ない格好ですね。失礼ですがご出身は?」
ケイナスは私の質問に多少困惑の表情を浮かべた。聞いてはいけなかったかな?……。
「拙者、王都より4000km離れた大辺境【トウコク】から参りました。それが、何か?」
よ、4000km??!私の居るカルナムールから更に2000kmも離れた所から来たのか……。
「ふぅん…トウコクかぁ……ってことはケイナス、お前は“刀”が扱えるな?」
ザイバックが何やらニヤついて聞くと、ケイナスはニコッと微笑を返して応えた。
「ええ!拙者は幼少より“刀”ばかりを訓練していた故に、今では体の一部のようなものです。」
「刀??」
「何だ?ケイス、知らねえのか……。」
ザイバックの説明によれば、【刀】、それは剣の種類の一つで、切れ味は全ての剣の上をいくらしい。何でも銃弾や鉄の甲冑をも寸断するというのだ。武人ならば誰もが憧れる代物だが、扱うにはかなりの訓練が必要で、また値段もかなり張るという……。
刀は主に【トウコク】で鋳造され、またトウコクには【ガンテス】という伝説の刀鍛冶が居るらしく、【ガンテス】の打つ刀は城が丸ごと買えるほどの値打ちがあるというのだ。私は新しい知識が増えているのを楽しく思いながら話に聞き入っていた。武人では無い事もあって、武器や戦に関する知識を生憎持ち合わせていない。自分でも無意識のうちに顔が綻んでいた。と、そんな私の顔に気付いたのか。ケイナスが話を掛けてきた。
「どうですかな?刀に随分と興味がお有りのようですが。」
「え?あ、ああ…はい。私は見ての通り、武人とはかけ離れているので、武器の知識は持ち合わせていないんですよ。ですから、聞いていて知識として蓄えられると思うと、楽しいです。」
「そうですか。それは良かった。……しかし、ケイス殿、貴公をお見受けする限りでは、刀を扱う素質があるように思いますな。」
「え?私がですか?ハハハハ、ご冗談を。普通の剣すら扱えぬ私が、扱うまでに何年も掛かる刀を扱うなど……それに、私は体を鍛えてはおりませんし……。」
「いや、そんな事無いぜ。ケイス……刀ってのはそうだな……言い換えれば、馬だ。」
「う、馬?」
何を言い出すんだ?まだ酒も酌み交わしていない、それどころかパーティーすら始まっていないっていうのに……。
「そう、馬だ。馬ってのは、どんなに訓練したからって、必ず全ての馬を乗りこなせるとは限らねえ。相性ってモンがある。それと同じで、剣ってのも相性があんだよ。相性が良けりゃ、訓練なんて殆ど必要ねえんだよ。……それに、刀を体の一部の様に扱えるケイナスが言ってんだ。間違いねえな。」
うんうんと深く頷くとザイバックは私にキラキラと光る眼差しを送って来た。……どうやら、一緒にケイナスと私を指導したいと見える……。はぁ、どうするべきか……悩む私の脳裏にふと、レイヴァンの姿が浮かんできた。……そうだ、アイツを制御するには、私に力がいる…無力だったから、私があまりにも無力だったからエルバートは……。そうだ、迷ってなんて居られない。それに、私はシャルの事も守りたい。私は自然に迷いが消えていた。いや、選択肢など無かったのだ。
「分かったよ。刀の訓練、よろしく頼むよ。ザイバック、ケイナス。」
「え?拙者もですか?」
「何言ってんだよ!俺達はもう仲間だ。それに、お前がケイスを見込んだんだ。キッチリとお前の技術を伝授しろよ!俺は刀なんて扱えねえんだし。」
「じゃ、何でザイバックも私の訓練に付き合うんだ?」
「決まってんだろ!体力づくりと基礎的な戦術を叩き込むんだよ!王国騎士団の将軍としてな!」
「は、はあ。」
「ちょっと!さっきから勝手に盛り上がってるみたいだけど、ボクのケイスに何かあったらザイバックやケイナスと言えども承知しないからね!!」
エレンブラが物凄い形相でザイバックとケイナスを一瞥した。二人はその視線にたじろぐと、イソイソとグラスを取って黙ってしまった。……何とも賑やかになって来たな。ケイナスとは知り合ったばかりだけど、大体の事はザイバックやエレンブラが話してくれたみたいだし、まぁ悪い人には見えないからいいか。
「さて、長話もなんだから、パーティーを始めよう!エレンブラ、シャル、そしてケイナスの歓迎を祝して!」
「せ、拙者もよろしいのですか?」
「ああ、これから訓練でお世話になるしね。」
「か、かたじけない!」
「そんなに堅くなんなって!うっし!それじゃ、乾杯といこうぜ!!」
ザイバックの音頭に合わせて、私達はワインが注がれたグラスを持ち、高々と乾杯を交わした。
「乾杯!!」
………こうして、楽しい夜は更けていった。……ケイナス…か。……不思議な雰囲気を持った男だなぁ……礼儀正しいし……ま、いいかな。友は多いに越した事は無い。そう納得すると、私はエレンブラの隣で深い眠りに就いた…………。
「ハハ、もう盛り上がってるみたいだな。」
私は自分でも気付かぬうちに早足になっていた。逸る鼓動を抑えて平静な顔をして扉をゆっくりと開いた。……あれ?
「お!遅かったじゃねえか!料理は粗方並べたぜ!」
「うんうん♪流石ボクの旦那さんだ!カッコいいよ♪」
「ケイス、早く、お料理冷めちゃうよ。」
ザイバックにエレンブラ……そしてシャル……。うん、確かに居るな……というか、もう一人程増えているのは気のせいだろうか?……私は暫し呆然と立ち尽くすと、目を凝らしてもう一度リビングに居る人間の数を数えた。
「ん?どうした?ケイス……。」
ザイバック……。
「ほら!早くボクの横に来てよ!」
エレンブラ……。
「乾杯、しようよ。」
シャル……。
「ほほう…これはまた何とも豪勢な……。」
…………誰?
「うわーーー!!」
「ど、どうした?ケイス!」
「いや、ザイバック、そこの人は誰だ!?何でみんな平然としてるんだ?!」
「あ、ああ…そういや紹介してねえな。」
「これは、お初にお目に掛かります。拙者、【ケイナス】と申す者、剣士の端くれでございます。」
……ケイナス?……知り合いでは無いな…。私は未だ混乱している頭を抱えてソファに腰掛けた。すると、ケイナスは私を見て、感心した様に頷いた。
「うむ、やはりこの方、類稀なる素質をお持ちだ。」
ん?何の素質だろうか?私に見出される素質……掃除、洗濯、料理かな?……と、まだケイナスがここに居る理由が明らかになっていないじゃないか。
「あの……ケイナスさん?何故、私の屋敷に?」
なるべく丁寧な口調で尋ねると、何故かエレンブラが私に近付いて来た。
「それはね、ボクとシャルさんで買い物をしてたら、道端に倒れてたんだ。だから慌てて駆け寄ったらお腹が空いてたみたいで、ご飯を奢ったら、着いて来ちゃった♪」
着いて来ちゃったって……。はぁ……どうして私の周りにはこう、不自然な出会いが多いんだろう……。
「いや、恥ずかしい限り。エレンブラ殿、シャル殿、拙者、義によってこの恩は返しますぞ。」
「そんな、ボク達が勝手にやった事だから気にしなくていいって。」
「そ、そうですよ。私達は気にしてませんから。」
「そう言って頂けるとありがたい!」
「あの、ケイナスさん。見た所、この辺りでは見ない格好ですね。失礼ですがご出身は?」
ケイナスは私の質問に多少困惑の表情を浮かべた。聞いてはいけなかったかな?……。
「拙者、王都より4000km離れた大辺境【トウコク】から参りました。それが、何か?」
よ、4000km??!私の居るカルナムールから更に2000kmも離れた所から来たのか……。
「ふぅん…トウコクかぁ……ってことはケイナス、お前は“刀”が扱えるな?」
ザイバックが何やらニヤついて聞くと、ケイナスはニコッと微笑を返して応えた。
「ええ!拙者は幼少より“刀”ばかりを訓練していた故に、今では体の一部のようなものです。」
「刀??」
「何だ?ケイス、知らねえのか……。」
ザイバックの説明によれば、【刀】、それは剣の種類の一つで、切れ味は全ての剣の上をいくらしい。何でも銃弾や鉄の甲冑をも寸断するというのだ。武人ならば誰もが憧れる代物だが、扱うにはかなりの訓練が必要で、また値段もかなり張るという……。
刀は主に【トウコク】で鋳造され、またトウコクには【ガンテス】という伝説の刀鍛冶が居るらしく、【ガンテス】の打つ刀は城が丸ごと買えるほどの値打ちがあるというのだ。私は新しい知識が増えているのを楽しく思いながら話に聞き入っていた。武人では無い事もあって、武器や戦に関する知識を生憎持ち合わせていない。自分でも無意識のうちに顔が綻んでいた。と、そんな私の顔に気付いたのか。ケイナスが話を掛けてきた。
「どうですかな?刀に随分と興味がお有りのようですが。」
「え?あ、ああ…はい。私は見ての通り、武人とはかけ離れているので、武器の知識は持ち合わせていないんですよ。ですから、聞いていて知識として蓄えられると思うと、楽しいです。」
「そうですか。それは良かった。……しかし、ケイス殿、貴公をお見受けする限りでは、刀を扱う素質があるように思いますな。」
「え?私がですか?ハハハハ、ご冗談を。普通の剣すら扱えぬ私が、扱うまでに何年も掛かる刀を扱うなど……それに、私は体を鍛えてはおりませんし……。」
「いや、そんな事無いぜ。ケイス……刀ってのはそうだな……言い換えれば、馬だ。」
「う、馬?」
何を言い出すんだ?まだ酒も酌み交わしていない、それどころかパーティーすら始まっていないっていうのに……。
「そう、馬だ。馬ってのは、どんなに訓練したからって、必ず全ての馬を乗りこなせるとは限らねえ。相性ってモンがある。それと同じで、剣ってのも相性があんだよ。相性が良けりゃ、訓練なんて殆ど必要ねえんだよ。……それに、刀を体の一部の様に扱えるケイナスが言ってんだ。間違いねえな。」
うんうんと深く頷くとザイバックは私にキラキラと光る眼差しを送って来た。……どうやら、一緒にケイナスと私を指導したいと見える……。はぁ、どうするべきか……悩む私の脳裏にふと、レイヴァンの姿が浮かんできた。……そうだ、アイツを制御するには、私に力がいる…無力だったから、私があまりにも無力だったからエルバートは……。そうだ、迷ってなんて居られない。それに、私はシャルの事も守りたい。私は自然に迷いが消えていた。いや、選択肢など無かったのだ。
「分かったよ。刀の訓練、よろしく頼むよ。ザイバック、ケイナス。」
「え?拙者もですか?」
「何言ってんだよ!俺達はもう仲間だ。それに、お前がケイスを見込んだんだ。キッチリとお前の技術を伝授しろよ!俺は刀なんて扱えねえんだし。」
「じゃ、何でザイバックも私の訓練に付き合うんだ?」
「決まってんだろ!体力づくりと基礎的な戦術を叩き込むんだよ!王国騎士団の将軍としてな!」
「は、はあ。」
「ちょっと!さっきから勝手に盛り上がってるみたいだけど、ボクのケイスに何かあったらザイバックやケイナスと言えども承知しないからね!!」
エレンブラが物凄い形相でザイバックとケイナスを一瞥した。二人はその視線にたじろぐと、イソイソとグラスを取って黙ってしまった。……何とも賑やかになって来たな。ケイナスとは知り合ったばかりだけど、大体の事はザイバックやエレンブラが話してくれたみたいだし、まぁ悪い人には見えないからいいか。
「さて、長話もなんだから、パーティーを始めよう!エレンブラ、シャル、そしてケイナスの歓迎を祝して!」
「せ、拙者もよろしいのですか?」
「ああ、これから訓練でお世話になるしね。」
「か、かたじけない!」
「そんなに堅くなんなって!うっし!それじゃ、乾杯といこうぜ!!」
ザイバックの音頭に合わせて、私達はワインが注がれたグラスを持ち、高々と乾杯を交わした。
「乾杯!!」
………こうして、楽しい夜は更けていった。……ケイナス…か。……不思議な雰囲気を持った男だなぁ……礼儀正しいし……ま、いいかな。友は多いに越した事は無い。そう納得すると、私はエレンブラの隣で深い眠りに就いた…………。
「狼狽」〜第七章〜余韻
2004年8月25日 連載あれから一週間が過ぎた。私もシャルも漸く心を落ち着け、今までの様に平静に会話できるまでに精神的にも回復した。レイヴァンもあれから一度も覚醒することは無い……。私はレイヴァンを受け入れてしまった。その所為でエルバートは……。ブンブンと頭を振ると私は胸の苦しさを払った。
「ふぅ……気を紛らわせないと……そうだ。書類の山に目を通しておくか……。」
私は机の上に山積みになっている書類に軽く目を通し、余程の重要書類でないものにはサインをしていった。
「ケイス。入ってもいい?」
不意にドアの向こうからシャルの声が聞こえた。私は書類へサインをしながら素っ気無く応えた。
「ああ、どうぞ。」
「失礼します……。お仕事中…だったみたいだね…。」
何やら気まずそうに話し掛けてくるシャル。まぁ、無理も無いか……俺は、例えレイヴァンの意思が強かったにしても、エルバートを、シャルの仲間を殺めてしまった事に変わりは無いんだ。
それも、骨すら残らない塵にして……。私が一人で居た堪れない罪悪感に胸を詰まらせていると、それを察したのかシャルが笑顔で私に声を掛けた。
「ケイスは、気にしなくていいよ。………あれはレイヴァンがやったことなんだから……。それに、私ね、エルバートとはそんなに仲、良くなかったから……。逆に、軽蔑してたくらいだから……。私……ケイスが侮辱された時は本当に悔しかったし、エルバートが憎かった。私の友達に、下等動物なんて………。」
シャルの瞳に憎しみの色が浮かんだ。
「こんな…事、言うのは間違ってると思うんだけど……私、正直、レイヴァンに感謝してる……。」
「え?!」
私は思わず席を立った。シャルの言っている意味が一瞬飲み込めなかった。でも、彼女はエルバートが私に斬られている時、確かに悲鳴を上げたはず……いや、よそう。こんな事は忘れた方が良いんだ………。私は深呼吸をすると、席に着いた。
「止めよう、こんな話は…。過ぎた事を言っててもしょうがないよ。それよりも、今は先を考えなきゃ。」
「そう……だね。」
シャルの顔に再び笑顔が戻った。そう、それでいいんだ。私がエルバートを殺した事は紛れも無い事実だが、それに何時までも固執して自分を叱咤していても何の解決にもならない。私が、レイヴァンを制御する事が、二度と同じ様な過ちを繰り返さない事が、せめてもの罪償いになる……そう勝手に解釈してから、私はシャルに笑顔で応えた。
「さて、ザイバックが戻るまでには少なくともあと三日は掛かる。どうするかな?」
カルナムールから王都までは2000kmもの道のりがある。【高速艇】を使っても四日は掛かる。王に報告する手間隙を考慮すれば、まぁ往復で10日は掛かるな……。
「……イス!……ケイス!」
シャルの声にハッと物思いに耽っていた意識が戻ってくる。どうやら何度も呼ばれていたらしい。顔には明らかに不服そうな表情が浮かんでいる。
「あ、ああ……何だい?」
「何だい?じゃないよ!誰かお客さんが見えてるよ。」
ん?お客?……今日は別段、約束はしていないはず……私は怪訝に思いながら、扉の前に佇む人を見遣った。
「久し振りだね!ケイス!」
はて……?扉の前には、透き通る様な白い肌に艶やかに光沢を放つ漆黒の長髪。紅いルージュが引いてある唇は何とも色っぽく、顔もスタイルも抜群に良い……。私はこんな女性と知り合いだったかな?……記憶を辿ってみるも全く覚えが無い……。
「あのぉ……どちらさまで……?」
恐る恐る聞くと、その女性はプーっと頬をふくらませ、まるで子供の様に拗ねた。
「酷いなぁ……ボクの事、忘れたの?……。」
ん?ボク?……彼女の一人称にふと、懐かしさが蘇った。確か、子供の頃……。
「ま、まさか!!【エレンブラ】?!」
思い出した!!幼少時代に、仲が良かった男の子がいたんだ!自分の事をボクと呼んで、怒ると頬を膨らませて……ってあれ?エレンブラは男のハズ……。
「どうしたのさ?ケイス。随分ビックリしてるね。」
「い、いや、だって……何て格好してるんだ?!エレンブラ。」
「あ、ああ……これね。エヘ……自分でも恥ずかしいんだ。今まで男の子みたいに振舞ってたから、こういう女の格好なんてあんまししたこと無くて……。」
「へ?エレンブラって女だったのかい?……。」
何とも情けなく上擦った声で私は放心気味に言った。
「えー?!今まで気付かなかったの?ボク、ショックだな…。昔約束したじゃないか!ボクは君の許婚になるって……。」
顔が上気したエレンブラはモジモジと体を捩ってコチラを見ている。
「そ、それは……冗談かなにかだと………。」
「ヒッドーーーイ!ボクは本気だったんだよ?!」
またプーッと頬を膨らませてエレンブラは怒った。この顔だけは昔懐かしい顔だった。にしても、まさかエレンブラが女性だったとは……確かに綺麗な顔だとは思っていたけど……許婚…か……!!!!い、許婚??!
「まさか、エレンブラ……君が来た目的って言うのは……。」
「そうだよ!ボクはケイスの妻になるんだから、一緒に居たいの!」
「お、おいおい……いきなりそんな事言われても……今まで友達だと思ってたから……。」
「うぅ〜ん!ケイスのイジワル〜!」
モジモジと体をくねらせて潤んだ瞳で哀願するようにコチラを見ているエレンブラに思わずドキっとしてしまった。……色っぽいな……エレンブラの胸元を見れば二つの大きな膨らみがある。やっぱり、エレンブラは女性なんだな……。漸く納得出来た私はドッと襲ってきた疲れに溜息を吐いた。
「分かったよ……エレンブラ。部屋は空いてる所を自由に使っていいから。」
「いやだ!!ボクはケイスのお嫁さんになるんだから、一緒の部屋がいい!」
「な!!?そんな……。」
思わず私は赤面してしまった。……いくら友達だったとはいえ、こんな綺麗で艶かしいエレンブラと一緒に寝たら……。私は妄想を必死に掻き消すと、平静を装って見せた。
「で、でも……。」
「いやだ!ボクは絶対ケイスと一緒に寝るんだ!!」
「あ、あの、それじゃ私…部屋に戻るね……。」
気まずそうに退席するシャルの後姿に助けを求めながらも、それを一向に気にする気配も無くエレンブラはそのたわわな胸を私の腕に摺り寄せて甘えてきた。
「ねえ、ケイス……。ちょっと散歩しようよ。ボク、ケイスとお話がしたいな。」
ニコッと微笑んだエレンブラはとても可愛らしくて、私は断りきれなかった。………コイツは本当に私の友だった人間なのか?……って私が勝手に男と勘違いしてただけなんだろうが……。はぁ、と大きく溜息を吐くと、私はエレンブラに腕を組まれて散歩へと連れて行かれた。迷惑な気もするが、何だかエレンブラを見ると、心が落ち着いた。あの事も忘れられた。それに、彼女は私を好いてくれている。多少強引な気もするが悪い気分ではない。そう自分を納得させて、私は沈み行く夕陽に微笑掛けていた………。
「ふぅ……気を紛らわせないと……そうだ。書類の山に目を通しておくか……。」
私は机の上に山積みになっている書類に軽く目を通し、余程の重要書類でないものにはサインをしていった。
「ケイス。入ってもいい?」
不意にドアの向こうからシャルの声が聞こえた。私は書類へサインをしながら素っ気無く応えた。
「ああ、どうぞ。」
「失礼します……。お仕事中…だったみたいだね…。」
何やら気まずそうに話し掛けてくるシャル。まぁ、無理も無いか……俺は、例えレイヴァンの意思が強かったにしても、エルバートを、シャルの仲間を殺めてしまった事に変わりは無いんだ。
それも、骨すら残らない塵にして……。私が一人で居た堪れない罪悪感に胸を詰まらせていると、それを察したのかシャルが笑顔で私に声を掛けた。
「ケイスは、気にしなくていいよ。………あれはレイヴァンがやったことなんだから……。それに、私ね、エルバートとはそんなに仲、良くなかったから……。逆に、軽蔑してたくらいだから……。私……ケイスが侮辱された時は本当に悔しかったし、エルバートが憎かった。私の友達に、下等動物なんて………。」
シャルの瞳に憎しみの色が浮かんだ。
「こんな…事、言うのは間違ってると思うんだけど……私、正直、レイヴァンに感謝してる……。」
「え?!」
私は思わず席を立った。シャルの言っている意味が一瞬飲み込めなかった。でも、彼女はエルバートが私に斬られている時、確かに悲鳴を上げたはず……いや、よそう。こんな事は忘れた方が良いんだ………。私は深呼吸をすると、席に着いた。
「止めよう、こんな話は…。過ぎた事を言っててもしょうがないよ。それよりも、今は先を考えなきゃ。」
「そう……だね。」
シャルの顔に再び笑顔が戻った。そう、それでいいんだ。私がエルバートを殺した事は紛れも無い事実だが、それに何時までも固執して自分を叱咤していても何の解決にもならない。私が、レイヴァンを制御する事が、二度と同じ様な過ちを繰り返さない事が、せめてもの罪償いになる……そう勝手に解釈してから、私はシャルに笑顔で応えた。
「さて、ザイバックが戻るまでには少なくともあと三日は掛かる。どうするかな?」
カルナムールから王都までは2000kmもの道のりがある。【高速艇】を使っても四日は掛かる。王に報告する手間隙を考慮すれば、まぁ往復で10日は掛かるな……。
「……イス!……ケイス!」
シャルの声にハッと物思いに耽っていた意識が戻ってくる。どうやら何度も呼ばれていたらしい。顔には明らかに不服そうな表情が浮かんでいる。
「あ、ああ……何だい?」
「何だい?じゃないよ!誰かお客さんが見えてるよ。」
ん?お客?……今日は別段、約束はしていないはず……私は怪訝に思いながら、扉の前に佇む人を見遣った。
「久し振りだね!ケイス!」
はて……?扉の前には、透き通る様な白い肌に艶やかに光沢を放つ漆黒の長髪。紅いルージュが引いてある唇は何とも色っぽく、顔もスタイルも抜群に良い……。私はこんな女性と知り合いだったかな?……記憶を辿ってみるも全く覚えが無い……。
「あのぉ……どちらさまで……?」
恐る恐る聞くと、その女性はプーっと頬をふくらませ、まるで子供の様に拗ねた。
「酷いなぁ……ボクの事、忘れたの?……。」
ん?ボク?……彼女の一人称にふと、懐かしさが蘇った。確か、子供の頃……。
「ま、まさか!!【エレンブラ】?!」
思い出した!!幼少時代に、仲が良かった男の子がいたんだ!自分の事をボクと呼んで、怒ると頬を膨らませて……ってあれ?エレンブラは男のハズ……。
「どうしたのさ?ケイス。随分ビックリしてるね。」
「い、いや、だって……何て格好してるんだ?!エレンブラ。」
「あ、ああ……これね。エヘ……自分でも恥ずかしいんだ。今まで男の子みたいに振舞ってたから、こういう女の格好なんてあんまししたこと無くて……。」
「へ?エレンブラって女だったのかい?……。」
何とも情けなく上擦った声で私は放心気味に言った。
「えー?!今まで気付かなかったの?ボク、ショックだな…。昔約束したじゃないか!ボクは君の許婚になるって……。」
顔が上気したエレンブラはモジモジと体を捩ってコチラを見ている。
「そ、それは……冗談かなにかだと………。」
「ヒッドーーーイ!ボクは本気だったんだよ?!」
またプーッと頬を膨らませてエレンブラは怒った。この顔だけは昔懐かしい顔だった。にしても、まさかエレンブラが女性だったとは……確かに綺麗な顔だとは思っていたけど……許婚…か……!!!!い、許婚??!
「まさか、エレンブラ……君が来た目的って言うのは……。」
「そうだよ!ボクはケイスの妻になるんだから、一緒に居たいの!」
「お、おいおい……いきなりそんな事言われても……今まで友達だと思ってたから……。」
「うぅ〜ん!ケイスのイジワル〜!」
モジモジと体をくねらせて潤んだ瞳で哀願するようにコチラを見ているエレンブラに思わずドキっとしてしまった。……色っぽいな……エレンブラの胸元を見れば二つの大きな膨らみがある。やっぱり、エレンブラは女性なんだな……。漸く納得出来た私はドッと襲ってきた疲れに溜息を吐いた。
「分かったよ……エレンブラ。部屋は空いてる所を自由に使っていいから。」
「いやだ!!ボクはケイスのお嫁さんになるんだから、一緒の部屋がいい!」
「な!!?そんな……。」
思わず私は赤面してしまった。……いくら友達だったとはいえ、こんな綺麗で艶かしいエレンブラと一緒に寝たら……。私は妄想を必死に掻き消すと、平静を装って見せた。
「で、でも……。」
「いやだ!ボクは絶対ケイスと一緒に寝るんだ!!」
「あ、あの、それじゃ私…部屋に戻るね……。」
気まずそうに退席するシャルの後姿に助けを求めながらも、それを一向に気にする気配も無くエレンブラはそのたわわな胸を私の腕に摺り寄せて甘えてきた。
「ねえ、ケイス……。ちょっと散歩しようよ。ボク、ケイスとお話がしたいな。」
ニコッと微笑んだエレンブラはとても可愛らしくて、私は断りきれなかった。………コイツは本当に私の友だった人間なのか?……って私が勝手に男と勘違いしてただけなんだろうが……。はぁ、と大きく溜息を吐くと、私はエレンブラに腕を組まれて散歩へと連れて行かれた。迷惑な気もするが、何だかエレンブラを見ると、心が落ち着いた。あの事も忘れられた。それに、彼女は私を好いてくれている。多少強引な気もするが悪い気分ではない。そう自分を納得させて、私は沈み行く夕陽に微笑掛けていた………。
「狼狽」〜第六章〜覚醒(レイヴァン)
2004年8月21日 連載「まさか!?ケイス……貴方がレイヴァンだったの?」
「無駄だ!!シャル!レイヴァンに覚醒しちまったら元の理性なんて働かねえんだよ!!……まさか、下等動物だと思ったが大間違いだったぜ……万事休す……か……。」
突然【エルバート】の声に諦めの色が浮かんだ。さっきまでの人を下等動物扱いしていた時とは違う……どこか物憂げに……。
「シャル……暫くこの場を離れてろ。今のコイツにゃお前が友達か何かなんて区別は出来ない。ただ目の前にある存在を破壊するだけだ。」
「そんな……お願い!!ケイス!!レイヴァン何かに屈しちゃ駄目よ!!」
「だから無駄だって言ってんだろ!!それに……レイヴァンを抑え込むなんて不可能なんだよ……例え俺達であっても……。」
何の事を言っているのだろうか……イヤ…カンケイナイ……オマエハ、オレヲ覚醒サセタ。……私が、お前の様な化け物を!?どういう事だ…?!私はお前なんか望んでいない!!……ウソダ……オマエハアノオトコヲ憎ンダ……ソノ黒イ憎シミニオマエノナカデ眠ッテイタオレハ覚醒シタンダ。……私の中で眠っていただと?!……まさか……シャルを引き取ると私に言わせたのも……お前…なのか?……ソウダ。アノムスメハオレガ守ラネバナラヌ……。……どういう…事だ?……私は途切れたハズの意識の中で【レイヴァン】と会話していた。……シャルハ、【静寂の巫女】……オレハ静寂ノ巫女ヲ守ル戦士……ソシテ、憎シミノ対象ヲ滅ボスモノ……。くっ!何の事を言っているんだ?……知リタイカ?ナラバオレヲ受ケ入レロ……オレノ意識ト融合スルンダ。ソウスレバオマエハ全テヲ知ルコトガ出来ル……ソウ今マデノ記憶にオレノ記憶ト意思が重ナリ新タナ新生ヲ行ウノダ!!………それは、私が私では無くなるという事か?……違ウナ……オマエノ意思ト記憶にオレノ意思ト記憶を共有スル……ツマリ、オレハオマエデアリ、オマエハオレデアル事ニナルノダ。
……私の心に躊躇いは無かった。そう、何故かシャルを守る戦士と聞いて私の心には不思議と喜びさえ生まれていた。それに、真実を知る事が出来る………。分かった、私はお前を受け入れるよ。……ソウカ!ヨクイッタ!デハ意識ノ融合を!!……。次の瞬間、私の目の前には白い閃光が縦横無尽に走り、頭の中にレイヴァンの意思が膨大な勢いで入ってきた。苦しみで意識が切れたかと思うと、私はシャルとエルバートの恐怖に竦む顔を見ていた。
「ん?ここは……?俺は一体?……。」
ん?俺?私は自分を俺と呼んだ事は無いハズ…そうか、これはレイヴァンの意思か……。だが本体は私の様だ。……融合とはこういう事か……。私には力が生まれたんだ。レイヴァンの……。そしてレイヴァンの意思と記憶は私の心に語りかけてくる。そう、私がレイヴァンでありケイスなんだ。
「エルバート……お前はケイスを下等動物と罵り嘲った。そして静寂の巫女への無礼な態度。断じて許すまじ……。」
「な…何を言ってんだよ?!【静寂の巫女】だぁ?」
「フッ…知らぬならそれで良い。お前は此処で果てる身だ。」
「ね、ねえケイス!目を覚ましてよ!!」
「シャル…俺は目をとっくに覚ましているさ。ただ、レイヴァンを受け入れたからエルバートを許すわけにはいかないんだ。君を守る為にも……。」
「!!!!−っ!」
シャルに明らかな驚愕が浮かんだ。やはり意識の融合はまずかったか?……。
「クックソォォォォォォォォ!!!!」
突然エルバートが巨大な剣を構えて突進してきた。どうやらヤケクソの様だな。どうする?レイヴァン?……そうか、分かった。
「遅いな。」
私は軽く状態を反らして半身でかわすと、纏った業火を手に収束させた。
「燃えろ。【バーニング・ヴォルケイトス】!!」
言葉を発した直後、私の掌に収束し、渦となっていた業火は巨大な火柱となってエルバートを飲み込んだ。
「グッグアァァァァァァァァァ!!!!」
エルバートの苦痛の叫びが木霊した。だが、何故だろうか……私にはそれが恍惚の調べの様に聞こえる。私は尚も業火を手に収束し始めた。
「やめてぇぇぇ!!!お願い……やめ……て。」
シャルの泣きそうに震えた声が聞こえたが、今はそれすら私の心には何の感傷も生まなかった。収束した業火は今度は剣になった。
「エルバート……お前は友を裏切り、巫女を嘲り、俺を罵った。今更の命乞いなぞ聞く耳は無い。覚悟しろ。」
「グ、グアッ!!……た…助けてくれ……シャル!!」
悲痛で凄惨な程恐怖と痛みに悶絶するエルバートの声にシャルはただ、ただ狼狽し、涙を流して震えているだけだった。
「シャルを苦しめるな……滅びよ……【エンシェント・ノヴァ】!!」
剣を逆手に握り、一瞬にしてエルバートに詰め寄ると、時間にして2秒程だろうか……私は十数回、エルバートを斬り裂いていた。
「ギャァァァァァァァァ……!!!!」
「イヤァァァァァァァアァアァァ!!!!」
エルバートの断末魔が木霊した。エルバートの斬り口からは赤い鮮血に混じり業火が噴出し、体内からエルバートを焼き尽くした。暫くするとエルバートは灰になって息絶えた。
「―っ!!?」
不意に目の前が眩んだ。身を覆っていた業火は消え、目の光も治まった。すると、急にケイスの意思が強くなり、部屋中に漂う人間の焼けた匂いに思わず吐いてしまった。
「グッ……グェッ……。」
クソ……何でだ、何でこんな事をするんだ?!……私は涙が溢れてその場に崩れた。シャルはそんな私を見て私に近づいてくると、私の体をそっと抱き寄せてくれた。…こんな人殺しの私に……。
「ケイス……ケイスなんだよね……今私の前にいるのは…。」
「すまない……私は…レイヴァンを受け入れた……その所為で……君の仲間は……ウゥッ…ウワァァァァァッ!!」
私は堪えきれずにシャルの腕の中で泣き崩れた。
「違うよ……レイヴァンが悪いんだよ……ケイスは悪く無い……。」
シャルも泣いている……私たちは暫く泣いていた………。
「気分は落ち着いた?」
「ああ……今はレイヴァンの声も聞こえないよ……。」
エルバートを斬った後、レイヴァンの声が聞こえなくなった。
そして私の意思が……。でも今は分かる……。レイヴァンという存在も、【静寂の巫女】も、ゲートも……。」
「なぁ…シャル……君は【静寂の巫女】なんだろ?」
その言葉にシャルは悲しそうな表情になる。
「レイヴァンが言っていたのね……。」
「ああ。というより、レイヴァンを受け入れた時に彼の記憶や意思や知識が全部私にリンクしたんだ。それで、私は知ったんだよ。」
「そう……確かに私は【静寂の巫女】よ。」
「静寂の巫女」それはレイヴァンの記憶によれば、【ギエルハイム】を治める力を持った人間の事で、いわゆる王と言うに相応しい者の事である。ギエルハイムには怪物(モンスター)と呼ばれる闇や混沌を糧とする者が居る。その混沌の力を抑え込むのが静寂の巫女の力である。レイヴァンはその巫女を守る戦士で、モンスターと人間の間に誕生したハーフであるというのだ。
「ならば、君はギエルハイムには必要不可欠だろう?何でスパイなんかを……。」
「ゲートよ……前にも言った通り、ゲートが閉じていては。」
そうか…ゲートは二つの世界を繋ぐだけでなく、コチラの平和の力をギエルハイムに送る事で怪物の力を抑えていたのだ。しかし事は容易では無くなった。私も、シャルも…一体どうなるのだろうか……。
「無駄だ!!シャル!レイヴァンに覚醒しちまったら元の理性なんて働かねえんだよ!!……まさか、下等動物だと思ったが大間違いだったぜ……万事休す……か……。」
突然【エルバート】の声に諦めの色が浮かんだ。さっきまでの人を下等動物扱いしていた時とは違う……どこか物憂げに……。
「シャル……暫くこの場を離れてろ。今のコイツにゃお前が友達か何かなんて区別は出来ない。ただ目の前にある存在を破壊するだけだ。」
「そんな……お願い!!ケイス!!レイヴァン何かに屈しちゃ駄目よ!!」
「だから無駄だって言ってんだろ!!それに……レイヴァンを抑え込むなんて不可能なんだよ……例え俺達であっても……。」
何の事を言っているのだろうか……イヤ…カンケイナイ……オマエハ、オレヲ覚醒サセタ。……私が、お前の様な化け物を!?どういう事だ…?!私はお前なんか望んでいない!!……ウソダ……オマエハアノオトコヲ憎ンダ……ソノ黒イ憎シミニオマエノナカデ眠ッテイタオレハ覚醒シタンダ。……私の中で眠っていただと?!……まさか……シャルを引き取ると私に言わせたのも……お前…なのか?……ソウダ。アノムスメハオレガ守ラネバナラヌ……。……どういう…事だ?……私は途切れたハズの意識の中で【レイヴァン】と会話していた。……シャルハ、【静寂の巫女】……オレハ静寂ノ巫女ヲ守ル戦士……ソシテ、憎シミノ対象ヲ滅ボスモノ……。くっ!何の事を言っているんだ?……知リタイカ?ナラバオレヲ受ケ入レロ……オレノ意識ト融合スルンダ。ソウスレバオマエハ全テヲ知ルコトガ出来ル……ソウ今マデノ記憶にオレノ記憶ト意思が重ナリ新タナ新生ヲ行ウノダ!!………それは、私が私では無くなるという事か?……違ウナ……オマエノ意思ト記憶にオレノ意思ト記憶を共有スル……ツマリ、オレハオマエデアリ、オマエハオレデアル事ニナルノダ。
……私の心に躊躇いは無かった。そう、何故かシャルを守る戦士と聞いて私の心には不思議と喜びさえ生まれていた。それに、真実を知る事が出来る………。分かった、私はお前を受け入れるよ。……ソウカ!ヨクイッタ!デハ意識ノ融合を!!……。次の瞬間、私の目の前には白い閃光が縦横無尽に走り、頭の中にレイヴァンの意思が膨大な勢いで入ってきた。苦しみで意識が切れたかと思うと、私はシャルとエルバートの恐怖に竦む顔を見ていた。
「ん?ここは……?俺は一体?……。」
ん?俺?私は自分を俺と呼んだ事は無いハズ…そうか、これはレイヴァンの意思か……。だが本体は私の様だ。……融合とはこういう事か……。私には力が生まれたんだ。レイヴァンの……。そしてレイヴァンの意思と記憶は私の心に語りかけてくる。そう、私がレイヴァンでありケイスなんだ。
「エルバート……お前はケイスを下等動物と罵り嘲った。そして静寂の巫女への無礼な態度。断じて許すまじ……。」
「な…何を言ってんだよ?!【静寂の巫女】だぁ?」
「フッ…知らぬならそれで良い。お前は此処で果てる身だ。」
「ね、ねえケイス!目を覚ましてよ!!」
「シャル…俺は目をとっくに覚ましているさ。ただ、レイヴァンを受け入れたからエルバートを許すわけにはいかないんだ。君を守る為にも……。」
「!!!!−っ!」
シャルに明らかな驚愕が浮かんだ。やはり意識の融合はまずかったか?……。
「クックソォォォォォォォォ!!!!」
突然エルバートが巨大な剣を構えて突進してきた。どうやらヤケクソの様だな。どうする?レイヴァン?……そうか、分かった。
「遅いな。」
私は軽く状態を反らして半身でかわすと、纏った業火を手に収束させた。
「燃えろ。【バーニング・ヴォルケイトス】!!」
言葉を発した直後、私の掌に収束し、渦となっていた業火は巨大な火柱となってエルバートを飲み込んだ。
「グッグアァァァァァァァァァ!!!!」
エルバートの苦痛の叫びが木霊した。だが、何故だろうか……私にはそれが恍惚の調べの様に聞こえる。私は尚も業火を手に収束し始めた。
「やめてぇぇぇ!!!お願い……やめ……て。」
シャルの泣きそうに震えた声が聞こえたが、今はそれすら私の心には何の感傷も生まなかった。収束した業火は今度は剣になった。
「エルバート……お前は友を裏切り、巫女を嘲り、俺を罵った。今更の命乞いなぞ聞く耳は無い。覚悟しろ。」
「グ、グアッ!!……た…助けてくれ……シャル!!」
悲痛で凄惨な程恐怖と痛みに悶絶するエルバートの声にシャルはただ、ただ狼狽し、涙を流して震えているだけだった。
「シャルを苦しめるな……滅びよ……【エンシェント・ノヴァ】!!」
剣を逆手に握り、一瞬にしてエルバートに詰め寄ると、時間にして2秒程だろうか……私は十数回、エルバートを斬り裂いていた。
「ギャァァァァァァァァ……!!!!」
「イヤァァァァァァァアァアァァ!!!!」
エルバートの断末魔が木霊した。エルバートの斬り口からは赤い鮮血に混じり業火が噴出し、体内からエルバートを焼き尽くした。暫くするとエルバートは灰になって息絶えた。
「―っ!!?」
不意に目の前が眩んだ。身を覆っていた業火は消え、目の光も治まった。すると、急にケイスの意思が強くなり、部屋中に漂う人間の焼けた匂いに思わず吐いてしまった。
「グッ……グェッ……。」
クソ……何でだ、何でこんな事をするんだ?!……私は涙が溢れてその場に崩れた。シャルはそんな私を見て私に近づいてくると、私の体をそっと抱き寄せてくれた。…こんな人殺しの私に……。
「ケイス……ケイスなんだよね……今私の前にいるのは…。」
「すまない……私は…レイヴァンを受け入れた……その所為で……君の仲間は……ウゥッ…ウワァァァァァッ!!」
私は堪えきれずにシャルの腕の中で泣き崩れた。
「違うよ……レイヴァンが悪いんだよ……ケイスは悪く無い……。」
シャルも泣いている……私たちは暫く泣いていた………。
「気分は落ち着いた?」
「ああ……今はレイヴァンの声も聞こえないよ……。」
エルバートを斬った後、レイヴァンの声が聞こえなくなった。
そして私の意思が……。でも今は分かる……。レイヴァンという存在も、【静寂の巫女】も、ゲートも……。」
「なぁ…シャル……君は【静寂の巫女】なんだろ?」
その言葉にシャルは悲しそうな表情になる。
「レイヴァンが言っていたのね……。」
「ああ。というより、レイヴァンを受け入れた時に彼の記憶や意思や知識が全部私にリンクしたんだ。それで、私は知ったんだよ。」
「そう……確かに私は【静寂の巫女】よ。」
「静寂の巫女」それはレイヴァンの記憶によれば、【ギエルハイム】を治める力を持った人間の事で、いわゆる王と言うに相応しい者の事である。ギエルハイムには怪物(モンスター)と呼ばれる闇や混沌を糧とする者が居る。その混沌の力を抑え込むのが静寂の巫女の力である。レイヴァンはその巫女を守る戦士で、モンスターと人間の間に誕生したハーフであるというのだ。
「ならば、君はギエルハイムには必要不可欠だろう?何でスパイなんかを……。」
「ゲートよ……前にも言った通り、ゲートが閉じていては。」
そうか…ゲートは二つの世界を繋ぐだけでなく、コチラの平和の力をギエルハイムに送る事で怪物の力を抑えていたのだ。しかし事は容易では無くなった。私も、シャルも…一体どうなるのだろうか……。
「狼狽」〜第五章〜異界人(イルアネオ)
2004年8月20日 連載「ん?」
何だ……今のは……。犬にしては大き過ぎるな。だけど馬にしては動き方が変だ…。
「どうかしたの………?」
シャルの声に私は苦笑を浮かべた。
「いや……何か今影が屋敷の庭を掠めたから、何だろうと思ってさ。」
ふーんと言った特別興味も無さそうな様子でシャルは部屋を一瞥した。
「造りは中々みたいね……木の温もりがあってイイわ……。」
シャルはそう独り言を呟きながら初めて笑顔を見せた。私が視界に入っていない所為もあるだろうが、何にしても彼女が始めて見せてくれた笑顔だ。こんな嬉しい事は無い……。
「なに……笑ってるの……。」
思わず頬が緩んだ私に視線が行ったらしく、怪訝そうに私を見てシャルは低く言った。
「い、いや……ハハ、君が始めて笑顔を見せてくれたからね。保護者を買って出た私には進展があって嬉しいんだよ。」
「バ…!……バッカじゃないの?!……何で歳も近い貴方なんかに………。」
そうか……彼女は、シャルは21歳なんだっけ。私が23だから……確かに、保護者はあんまりだな……。にしても照れて焦るシャルは正直可愛かった。
「すまない。君は本当は大人だったね。」
「………でも……。」
突然シャルがモジモジとしだした。どうしたんだろうか?
「でも…なんだい?」
「悪い気はしない…わね。コッチの世界じゃどうせ行く場所なんて……無いんだし……。」
何と言うか……彼女の事を私は誤解していた様だ。冷たいんじゃ無くて、本当の心を隠していたんだ。確かにそれは当然と言えば当然だろうな。彼女は自分以外の誰も一切知らない別世界の人間なわけだから……。警戒もするだろうし、何よりもスパイなら私的な感情は邪魔だと教え込まれているハズだ。
「君さえ良ければ、この屋敷は自由に使ってくれて構わないよ。
私も君の保護者ではなく、一友人として手助けするよ。」
「友……達になってくれるの……?」
切なそうにシャルは俯いて、消え入りそうな声で呟いた。
「ああ!私も、ザイバックも君の友達だ。」
シャルの顔がパァーっと明るさを帯びていったのが分かった。
そう……彼女は寂しかったのと不安だったのとで感情を押し殺して振舞っていたに違いない。そう思って一人で納得していると、今まで冷静沈着だったクールなシャルは見る影も無くなっていた。
「ホント!?友達になってくれるんだ♪うわー、嬉しいなぁ!こんな別世界に来て友人が二人も出来るなんて♪」
「あのぉ……シャ……シャル???」
「なぁに?ケイス♪アタシの部屋って自由に空いてるトコ使っちゃっていいよね?」
「あ、ああ……そ、そうだね……自由に使っていいよ…ハハ……。」
何なんだ!?一体……この娘は……あんなに冷たく冷静に私をあしらっていたのに…急にケイス♪だと……。あー頭が痛い……私が記憶を失いたいよ…。ってシャルは記憶喪失じゃ無かったか。
「シャルはホントはそんなに活発なのかい?」
「ええ♪でも、心を許せるって思える人じゃないと冷たい態度をとっちゃうんだ。アッチの世界でも良く言われた!お前って二重人格か?って♪」
……確かに適切な表現かもしれない。あの変わり様は……。
ま、いいか。つまりシャルは私に心を許してくれたわけだし。これで気まずい生活は送らずにすむんだ。
「ね、ケイス……こっちの世界は確か「アウヴァニア」って言うのよね?」
いきなり質問を振られて一瞬うろたえてしまった。いかん、落ち着けケイス……。悪癖の物思いは止めろ……。
「そうだけど……それがどうかしたのかい?」
「ウン……ちょっとね♪」
「そっか……そういえば、シャルの世界は何て言うんだ?」
「【ギエルハイム】。」
「ギエルハイム……!!?まさか、本当かい!?」
私はギエルハイムという言葉にかなりの驚きを覚えた。ギエルハイムはこっちの世界、つまり「アウヴァニア」では伝説に言い伝えられし神々の国として絵本などに書かれていて、アウヴァニアに生きる人間は殆どが知っている有名な名前なのだ。やはりシャルは嘘なんか言っていないのだろう。これでひとつ、証拠と呼ぶにはあまりに稚拙だが、かなりの有力情報を手に入れた事になる。私はすぐさまこの事をシャルに告げた。
「それ……ホントなの!?……そう、やっぱりアウヴァニアは自らゲートを閉じたんだわ……原因はやっぱり【ムーゲルト】かしら…。」
何やらトーンダウンしながらブツブツと何かを言っている。だが私にはどれも聞き覚えの無い単語ばかりで意味はさっぱり不明だった。苦笑いしながらシャルに視線を泳がせていると、突然部屋の一角が大きく歪み、巨大な体躯の男が入ってきた。
「なっ!!!!????」
私はあまりに不可解な出来事に脳が数秒止まってしまった。
「これは……タイムゲート!?まさか……。」
シャルにも明らかに動揺の色が見えるが、私のとは違う動揺だった。そう……知り合いの突然の訪問に驚くみたいに……。
「久し振りだな。シャル……。」
巨漢は歪んだ壁を片手で触り元に戻すと、シャルに懐かしむような声を投げた。
「そうね……【エルバート】……貴方みたいな上級職の人間が何故こんな“現場”に居るの?」
シャルも知っている様だ。【エルバート】……それが巨漢の名らしい。だが、シャルの表情には再会を懐かしむ様な色は微塵も無い。むしろ……皮肉めいた言い方に聞こえる……。
「昔同じ釜の飯を食った仲じゃねえか。今更他人面しなくていいんだぜ。俺はお前と階級は違えど、同じ仲間だと思ってんだからよ……。」
「ふん!……よく言うわよ、【ディル】を裏切ってあんな事しといて今の階級までのし上がっといて。良くそんな口が聞けたわね!!」
シャルの顔に明らかな憤怒の色が見える。……【ディル】??昔の仲間の事か??……裏切った……。なるほど、どうやら【エルバート】は自分の出世に友を利用したんだな。そして利用された友が同時にシャルの友人であったと……。私が憶測していると、エルバートの視線がコチラを向いていた。
「ほぅ……早速サンプルが手に入ったか。中々やるなシャル!」
「違うわ!!その人は!!……友……達………よ。」
「何!?……悪い冗談は止めろよシャル♪こんな下等動物がお前の友達??グァーッハハハハハハ!!!こりゃイイや♪」
な……何だ?“下等動物”?“サンプル”?私の事なのか??
この男は一体……!!まさか……コイツ等はこっちの世界の人間を動物のように扱っているのか??でなければあんな悪辣な言葉は発する事なんてしないはずだ……。クソ!!もうワケが分からない……!シャルはゲートを調べるだけだと言った。だが目の前の巨漢は私を実験動物を見る様な目で嘲っている……。
「シャル…君は……私を最初からこの男に……。」
「ち、違うわ!!ケイス!」
「ハハ、ハーッハハハハハハ!!下等動物とシャルが対等に喋ってやがる♪」
「!!!!」
私の中で何かが弾けた……。この男だけは許さない…人間を一体何だと思っているんだ……コノ男だけは…コノオトコダケハ……ユルサナイ!!!
―っ!!!私の体が見る見るうちに熱くなって来た。燃えそうだ……。マグマの様に中心が熱い……。次の瞬間、私の体は業火を纏い、瞳は緑色に光りを放っていた……。
「お、おい……シャル…コイツ……【レイヴァン】だぞ!!」
モウナニモキコエナイ……コノオトコヲ“ハカイ”スル……。
私の意識はそこで途切れた……。
何だ……今のは……。犬にしては大き過ぎるな。だけど馬にしては動き方が変だ…。
「どうかしたの………?」
シャルの声に私は苦笑を浮かべた。
「いや……何か今影が屋敷の庭を掠めたから、何だろうと思ってさ。」
ふーんと言った特別興味も無さそうな様子でシャルは部屋を一瞥した。
「造りは中々みたいね……木の温もりがあってイイわ……。」
シャルはそう独り言を呟きながら初めて笑顔を見せた。私が視界に入っていない所為もあるだろうが、何にしても彼女が始めて見せてくれた笑顔だ。こんな嬉しい事は無い……。
「なに……笑ってるの……。」
思わず頬が緩んだ私に視線が行ったらしく、怪訝そうに私を見てシャルは低く言った。
「い、いや……ハハ、君が始めて笑顔を見せてくれたからね。保護者を買って出た私には進展があって嬉しいんだよ。」
「バ…!……バッカじゃないの?!……何で歳も近い貴方なんかに………。」
そうか……彼女は、シャルは21歳なんだっけ。私が23だから……確かに、保護者はあんまりだな……。にしても照れて焦るシャルは正直可愛かった。
「すまない。君は本当は大人だったね。」
「………でも……。」
突然シャルがモジモジとしだした。どうしたんだろうか?
「でも…なんだい?」
「悪い気はしない…わね。コッチの世界じゃどうせ行く場所なんて……無いんだし……。」
何と言うか……彼女の事を私は誤解していた様だ。冷たいんじゃ無くて、本当の心を隠していたんだ。確かにそれは当然と言えば当然だろうな。彼女は自分以外の誰も一切知らない別世界の人間なわけだから……。警戒もするだろうし、何よりもスパイなら私的な感情は邪魔だと教え込まれているハズだ。
「君さえ良ければ、この屋敷は自由に使ってくれて構わないよ。
私も君の保護者ではなく、一友人として手助けするよ。」
「友……達になってくれるの……?」
切なそうにシャルは俯いて、消え入りそうな声で呟いた。
「ああ!私も、ザイバックも君の友達だ。」
シャルの顔がパァーっと明るさを帯びていったのが分かった。
そう……彼女は寂しかったのと不安だったのとで感情を押し殺して振舞っていたに違いない。そう思って一人で納得していると、今まで冷静沈着だったクールなシャルは見る影も無くなっていた。
「ホント!?友達になってくれるんだ♪うわー、嬉しいなぁ!こんな別世界に来て友人が二人も出来るなんて♪」
「あのぉ……シャ……シャル???」
「なぁに?ケイス♪アタシの部屋って自由に空いてるトコ使っちゃっていいよね?」
「あ、ああ……そ、そうだね……自由に使っていいよ…ハハ……。」
何なんだ!?一体……この娘は……あんなに冷たく冷静に私をあしらっていたのに…急にケイス♪だと……。あー頭が痛い……私が記憶を失いたいよ…。ってシャルは記憶喪失じゃ無かったか。
「シャルはホントはそんなに活発なのかい?」
「ええ♪でも、心を許せるって思える人じゃないと冷たい態度をとっちゃうんだ。アッチの世界でも良く言われた!お前って二重人格か?って♪」
……確かに適切な表現かもしれない。あの変わり様は……。
ま、いいか。つまりシャルは私に心を許してくれたわけだし。これで気まずい生活は送らずにすむんだ。
「ね、ケイス……こっちの世界は確か「アウヴァニア」って言うのよね?」
いきなり質問を振られて一瞬うろたえてしまった。いかん、落ち着けケイス……。悪癖の物思いは止めろ……。
「そうだけど……それがどうかしたのかい?」
「ウン……ちょっとね♪」
「そっか……そういえば、シャルの世界は何て言うんだ?」
「【ギエルハイム】。」
「ギエルハイム……!!?まさか、本当かい!?」
私はギエルハイムという言葉にかなりの驚きを覚えた。ギエルハイムはこっちの世界、つまり「アウヴァニア」では伝説に言い伝えられし神々の国として絵本などに書かれていて、アウヴァニアに生きる人間は殆どが知っている有名な名前なのだ。やはりシャルは嘘なんか言っていないのだろう。これでひとつ、証拠と呼ぶにはあまりに稚拙だが、かなりの有力情報を手に入れた事になる。私はすぐさまこの事をシャルに告げた。
「それ……ホントなの!?……そう、やっぱりアウヴァニアは自らゲートを閉じたんだわ……原因はやっぱり【ムーゲルト】かしら…。」
何やらトーンダウンしながらブツブツと何かを言っている。だが私にはどれも聞き覚えの無い単語ばかりで意味はさっぱり不明だった。苦笑いしながらシャルに視線を泳がせていると、突然部屋の一角が大きく歪み、巨大な体躯の男が入ってきた。
「なっ!!!!????」
私はあまりに不可解な出来事に脳が数秒止まってしまった。
「これは……タイムゲート!?まさか……。」
シャルにも明らかに動揺の色が見えるが、私のとは違う動揺だった。そう……知り合いの突然の訪問に驚くみたいに……。
「久し振りだな。シャル……。」
巨漢は歪んだ壁を片手で触り元に戻すと、シャルに懐かしむような声を投げた。
「そうね……【エルバート】……貴方みたいな上級職の人間が何故こんな“現場”に居るの?」
シャルも知っている様だ。【エルバート】……それが巨漢の名らしい。だが、シャルの表情には再会を懐かしむ様な色は微塵も無い。むしろ……皮肉めいた言い方に聞こえる……。
「昔同じ釜の飯を食った仲じゃねえか。今更他人面しなくていいんだぜ。俺はお前と階級は違えど、同じ仲間だと思ってんだからよ……。」
「ふん!……よく言うわよ、【ディル】を裏切ってあんな事しといて今の階級までのし上がっといて。良くそんな口が聞けたわね!!」
シャルの顔に明らかな憤怒の色が見える。……【ディル】??昔の仲間の事か??……裏切った……。なるほど、どうやら【エルバート】は自分の出世に友を利用したんだな。そして利用された友が同時にシャルの友人であったと……。私が憶測していると、エルバートの視線がコチラを向いていた。
「ほぅ……早速サンプルが手に入ったか。中々やるなシャル!」
「違うわ!!その人は!!……友……達………よ。」
「何!?……悪い冗談は止めろよシャル♪こんな下等動物がお前の友達??グァーッハハハハハハ!!!こりゃイイや♪」
な……何だ?“下等動物”?“サンプル”?私の事なのか??
この男は一体……!!まさか……コイツ等はこっちの世界の人間を動物のように扱っているのか??でなければあんな悪辣な言葉は発する事なんてしないはずだ……。クソ!!もうワケが分からない……!シャルはゲートを調べるだけだと言った。だが目の前の巨漢は私を実験動物を見る様な目で嘲っている……。
「シャル…君は……私を最初からこの男に……。」
「ち、違うわ!!ケイス!」
「ハハ、ハーッハハハハハハ!!下等動物とシャルが対等に喋ってやがる♪」
「!!!!」
私の中で何かが弾けた……。この男だけは許さない…人間を一体何だと思っているんだ……コノ男だけは…コノオトコダケハ……ユルサナイ!!!
―っ!!!私の体が見る見るうちに熱くなって来た。燃えそうだ……。マグマの様に中心が熱い……。次の瞬間、私の体は業火を纏い、瞳は緑色に光りを放っていた……。
「お、おい……シャル…コイツ……【レイヴァン】だぞ!!」
モウナニモキコエナイ……コノオトコヲ“ハカイ”スル……。
私の意識はそこで途切れた……。
「狼狽」〜第四章〜異世界
2004年8月19日 連載それにしても何て早いんだ……。確かに私は体力に自信は無いが、それにしたって少女よりも遅いはずが……。
「おい!ちょっとシャル……待ってくれ!私が悪かった。真実を確かめもせずに鼻から虚偽だと決め付けてしまって。君の話を今度はキチンと真面目に受け止めようと思う……。だから止まってくれ。」
「…………。」
シャルから応答は無かったが、彼女の足が止まった事からして、私の言葉に応じる気はあるらしい。
「ありがとう、走りながら喋っていたんでは体が持たないからね……。」
私は冗談を言ったが、シャルは相変わらず表情が崩れる事は無かった。ま、仕方ないか……こればっかりは時間を掛けて彼女の心のドアを抉じ開けていくしかなさそうだしな……。
「さ、執務室に戻ろう。今度は疑ったりしないから。」
「気にしてないわ……別世界なんて信じるとは思ってなかったから……。」
「……。」
どうもシャルの言葉には棘がある……。なんかこう、人を鼻から寄せ付けない雰囲気だ。執務室に戻ると、ザイバックが欠伸をしながら頭をポリポリ掻いていた。
「やぁ、何とか交渉成立したよ。」
「お!!やっと戻って来たか……。」
退屈から解放されたようにザイバックは大きく背伸びをして首をゴキゴキと鳴らした。
「で、お前はホントに別世界から来たのか?記憶喪失ってのは嘘なのか?」
私が質問しようとしていた事があっという間に持っていかれた。シャルは少し不満そうな顔に移ろうと
「さぁ……少なくとも私が生まれた世界はこんな長閑じゃなかった……でもそれが本当に現実かはよく分からないの……。記憶喪失っていうのは強ち間違いじゃ無い……だって、今の私にはそれくらいしか分からないから……。」
スラスラとそう言ってのけた。ホントに少女なのだろうか?
「なぁ……君は年はいくつだい?」
「……21よ……。」
「なるほど……。」
どう見たって14〜5歳の可愛い少女にしか見えない……。一体何がどうなってるんだ?
「なら、何でそんなガキみたいな容姿なんだよ?」
ザイバックは何の躊躇も無く質問した。まぁ、私も聞きたかったが……。
「さぁ…なんでかしらね……この世界で都合がいい様に【コルツェク】がしてくれたのかしら……。」
……ん?今何かとても重要な事を言ったような……。
「コルツェクって……シャル!何か思い出してるのか!?」
「あれ……?何でだろう……急に頭に浮かんできた……。」
どうやらシャルは本当に別世界の人間らしい……。恐らくその【コルツェク】という人物がシャルがこの世界にいる事と関係がありそうだ……。にしても都合がいいとはどういう事だろうか?別に21の姿でも彼女なら今目の前にいる容姿を見ても美しいハズだが……。
「都合がいい……それってどういう事なんだい?」
「……思い出した。確か……コルツェクは私にこの世界の調査をするよう命じたんだ……。その際に少女の姿なら多少の無礼も許されるだろうから……そう言ってたような……。」
「!!!!」
驚くべき事実だ!!つまり、彼女は、シャルは諜報部員…つまり「スパイ」って事か!!?にしても話の展開が急すぎる……何故こうも立て続けに記憶が蘇ってるんだ??
「するってぇと……お前はこの世界の何をスパイするよう指示を受けたんだ?」
ザイバックは余計な事を考えない分、ありのままの現実を受け止める癖がある……普段なら忠告するところだが、今はそっちのほうが話を進められそうだ……。
「……ゲート……。」
「ゲー……ト???」
二人で同時に考え込んだ。何だ?ゲートって……あの、橋を通る時にくぐる門兵が立っているトンネルみたいなものか??でも、そんな物を調べる意味がどこにあるんだ??
「貴方達…何か勘違いをしていない?ゲートって言うのはこの世界と私が生まれた世界を繋ぐ門の事よ……。」
「そんなものがあったのかい!?」
「初耳だぜ……。」
「それはそうでしょうね……この世界は自らがゲートを閉ざしてしまったんですもの……。」
「あの…シャル……君、記憶が戻ったみたいだな……。」
「ええ、そうみたい……貴方達の質問攻めのお陰で。」
それは良かったと言いたい所だがそういうワケにもいかない。
これでハッキリと別世界の存在を認識出来たワケだが、今度はその事を国王に報告しなければならないからだ……。スパイだと言う事がバレたらシャルは今度こそ死刑かもしれない……。それに、まだまだ謎が多すぎる。昨日今日で別世界があって私はそこからやってきたスパイなんです。世界同士を繋ぐゲートの調査に来ました。なんて言われても全く、現実味が沸かないし、内心まだ俄かには信じられない……。この目で確かめない限りは。
「ザイバック……国王への報告は【ようやくまともに会話が出来るようになった】とだけ伝えてくれないか?君だって別世界の事を国王に平然と報告できないだろう……。」
「まぁ……俺もこの目で見てみない事にはな……。」
「そういうことだ……報告を済ませたらすまないが、また戻ってきてくれ。」
「あいよ!それじゃ、行って来る!」
ザイバックはヒラヒラと手のひらを振りながら屋敷を後にした。
残ったのは私とシャルだけ……。
「いいの?虚偽を働いて……。」
「いいんだよ……君が本当に別世界の人間だって証拠を手に入れるまでは口外したくないんだ……。」
「変わってるわね……別世界のスパイをかばうなんて……。」
「お人よしなんだ……許してくれ。」
「そうね……でなかったらただの馬鹿でしかないわ……。」
「……こりゃ随分と手厳しいな………。」
「普通よ………。」
「…………。」
こうして新たな事実が次々と浮かび上がってきたが、未だ確固たる証拠も無い……。これは厄介事に巻き込まれたようだ……。
私が頭を抱えながら沈みかけた夕陽に視線を遣った時……巨大な影が屋敷を掠めた………。
「おい!ちょっとシャル……待ってくれ!私が悪かった。真実を確かめもせずに鼻から虚偽だと決め付けてしまって。君の話を今度はキチンと真面目に受け止めようと思う……。だから止まってくれ。」
「…………。」
シャルから応答は無かったが、彼女の足が止まった事からして、私の言葉に応じる気はあるらしい。
「ありがとう、走りながら喋っていたんでは体が持たないからね……。」
私は冗談を言ったが、シャルは相変わらず表情が崩れる事は無かった。ま、仕方ないか……こればっかりは時間を掛けて彼女の心のドアを抉じ開けていくしかなさそうだしな……。
「さ、執務室に戻ろう。今度は疑ったりしないから。」
「気にしてないわ……別世界なんて信じるとは思ってなかったから……。」
「……。」
どうもシャルの言葉には棘がある……。なんかこう、人を鼻から寄せ付けない雰囲気だ。執務室に戻ると、ザイバックが欠伸をしながら頭をポリポリ掻いていた。
「やぁ、何とか交渉成立したよ。」
「お!!やっと戻って来たか……。」
退屈から解放されたようにザイバックは大きく背伸びをして首をゴキゴキと鳴らした。
「で、お前はホントに別世界から来たのか?記憶喪失ってのは嘘なのか?」
私が質問しようとしていた事があっという間に持っていかれた。シャルは少し不満そうな顔に移ろうと
「さぁ……少なくとも私が生まれた世界はこんな長閑じゃなかった……でもそれが本当に現実かはよく分からないの……。記憶喪失っていうのは強ち間違いじゃ無い……だって、今の私にはそれくらいしか分からないから……。」
スラスラとそう言ってのけた。ホントに少女なのだろうか?
「なぁ……君は年はいくつだい?」
「……21よ……。」
「なるほど……。」
どう見たって14〜5歳の可愛い少女にしか見えない……。一体何がどうなってるんだ?
「なら、何でそんなガキみたいな容姿なんだよ?」
ザイバックは何の躊躇も無く質問した。まぁ、私も聞きたかったが……。
「さぁ…なんでかしらね……この世界で都合がいい様に【コルツェク】がしてくれたのかしら……。」
……ん?今何かとても重要な事を言ったような……。
「コルツェクって……シャル!何か思い出してるのか!?」
「あれ……?何でだろう……急に頭に浮かんできた……。」
どうやらシャルは本当に別世界の人間らしい……。恐らくその【コルツェク】という人物がシャルがこの世界にいる事と関係がありそうだ……。にしても都合がいいとはどういう事だろうか?別に21の姿でも彼女なら今目の前にいる容姿を見ても美しいハズだが……。
「都合がいい……それってどういう事なんだい?」
「……思い出した。確か……コルツェクは私にこの世界の調査をするよう命じたんだ……。その際に少女の姿なら多少の無礼も許されるだろうから……そう言ってたような……。」
「!!!!」
驚くべき事実だ!!つまり、彼女は、シャルは諜報部員…つまり「スパイ」って事か!!?にしても話の展開が急すぎる……何故こうも立て続けに記憶が蘇ってるんだ??
「するってぇと……お前はこの世界の何をスパイするよう指示を受けたんだ?」
ザイバックは余計な事を考えない分、ありのままの現実を受け止める癖がある……普段なら忠告するところだが、今はそっちのほうが話を進められそうだ……。
「……ゲート……。」
「ゲー……ト???」
二人で同時に考え込んだ。何だ?ゲートって……あの、橋を通る時にくぐる門兵が立っているトンネルみたいなものか??でも、そんな物を調べる意味がどこにあるんだ??
「貴方達…何か勘違いをしていない?ゲートって言うのはこの世界と私が生まれた世界を繋ぐ門の事よ……。」
「そんなものがあったのかい!?」
「初耳だぜ……。」
「それはそうでしょうね……この世界は自らがゲートを閉ざしてしまったんですもの……。」
「あの…シャル……君、記憶が戻ったみたいだな……。」
「ええ、そうみたい……貴方達の質問攻めのお陰で。」
それは良かったと言いたい所だがそういうワケにもいかない。
これでハッキリと別世界の存在を認識出来たワケだが、今度はその事を国王に報告しなければならないからだ……。スパイだと言う事がバレたらシャルは今度こそ死刑かもしれない……。それに、まだまだ謎が多すぎる。昨日今日で別世界があって私はそこからやってきたスパイなんです。世界同士を繋ぐゲートの調査に来ました。なんて言われても全く、現実味が沸かないし、内心まだ俄かには信じられない……。この目で確かめない限りは。
「ザイバック……国王への報告は【ようやくまともに会話が出来るようになった】とだけ伝えてくれないか?君だって別世界の事を国王に平然と報告できないだろう……。」
「まぁ……俺もこの目で見てみない事にはな……。」
「そういうことだ……報告を済ませたらすまないが、また戻ってきてくれ。」
「あいよ!それじゃ、行って来る!」
ザイバックはヒラヒラと手のひらを振りながら屋敷を後にした。
残ったのは私とシャルだけ……。
「いいの?虚偽を働いて……。」
「いいんだよ……君が本当に別世界の人間だって証拠を手に入れるまでは口外したくないんだ……。」
「変わってるわね……別世界のスパイをかばうなんて……。」
「お人よしなんだ……許してくれ。」
「そうね……でなかったらただの馬鹿でしかないわ……。」
「……こりゃ随分と手厳しいな………。」
「普通よ………。」
「…………。」
こうして新たな事実が次々と浮かび上がってきたが、未だ確固たる証拠も無い……。これは厄介事に巻き込まれたようだ……。
私が頭を抱えながら沈みかけた夕陽に視線を遣った時……巨大な影が屋敷を掠めた………。
「狼狽」〜第三章〜心の扉
2004年8月18日 連載とまぁ、シャルとの出会いはそんなところだ。私の無意識に発した言葉による……はぁ、何故私はあんな事を……。また物思いに耽っている私を“親友”は一喝した。
「こら!さっきから何ブツブツ言ってんだ……それよりも、ちゃんと上手いことやってんのか?」
……痛い……やっと互いの名前を教え合ったくらいの進展など、報告するだけ無駄の様な……。
「いや、それがさっき名前をお互いに教えあっただけだよ。その他は一切進展していない。」
「おいおい…それじゃ報告出来ねえなぁ……。自己紹介の一番基本しか出来てないんじゃぁな……。」
やはり報告は出来ないらしい。ま、それもそうだな……。名前だけ報告しても何の情報にもなるはずがない。なんせこの子は記憶自体が無いのだから……。名前なんかよりも重要な記憶がこの無愛想な少女の頭の片隅で埃を被ってるんだから……。
「なぁ…シャル、君はこの世界を知ってるかい?」
「お、おい……いくらなんでもそんくらいは記憶喪失だからって分かるだろ?ケイス…お前……神経質だなぁ……。」
ザイバックの嘲笑をキッと私は睨みつけて黙らせた。初めて会った時から私にはこの少女に違和感があった……そう、何か無機質な……この世界に存在する人間の雰囲気とはどこか違うような…
「……分からない……何も覚えていないの……。」
「嘘だろ……マジでこの世界の事すら忘れちまってるのかよ……こりゃ冗談きついぜ……。」
明らかな狼狽を浮かべてザイバックは頭を抱え込んだ。無理も無いか……この世界を知らないって事は、人間が哺乳類だって事を知らないと言ってる様なもんだからな……。
「そっか……でも、何か感じないのかい?この世界にいた様な気がするとか……。」
「ごめんなさい……何も分からないわ……でも…。」
「でも…何だい?」
「一つだけ言える事があるわ……私はこんな世界で生まれてない……。」
「え!?」
あまりに突拍子な応えに私は自分でも恥ずかしいくらいの上擦った声を上げてしまった。ザイバックも目が点といった様子である……この世界で生まれたんじゃない……???……一体どういう事だ?!じゃあこの目の前にいる寡黙で無愛想な少女は別世界の住人って事か?……ハッ、馬鹿馬鹿しい……この世界以外に世界なんて存在してるハズ無いじゃないか……。きっと頭が混乱してるんだろう……。私は一、二度頭を叩くとシャルに向かってこう質問した。
「すまない……私の質問がマズかったかな……うんと、そうだな……君は、どっから来たのか覚えてるかい?」
「……だから、この世界で生まれたんじゃないの……だから…私にこの世界での居場所なんてない……全然分からないの……。」
「おい!ケイス……どうするよ?……コイツ、別世界から来たんだろ?」
「何を言ってるんだよザイバック……ハハ、そんなハズ無いだろう?世界が二つも存在してるなんて本気で思っているのか?だったら、もっと古くからこういう事が起きてて当然だろう?」
「あっ!!そうか……。」
「信じてくれないならそれでもいい……私も貴方達みたいな人達とこれ以上話す口なんて持っていないから……。」
そう言うとシャルはそそくさと私の執務室を退席した。……あれ?シャルってあんな大人な雰囲気だったか?ついさっきまでは記憶喪失に見舞われた悲劇の少女の様だったと思うが……。ん?待てよ……。まさか……彼女の言っている事は本当なのか!?……彼女は別世界からコッチの世界に何らかの間違いでやって来てしまった……だから何を質問されても分からない……。記憶喪失じゃなく、元々ここの世界じゃない別の世界で育ったから情報が無い……だから国王の部屋に平気で忍び込めた……。国王の地位や偉大さなんてコッチの世界での話で、シャルの世界では王の地位は存在しない……。確かにそれなら説明が着く。だが、そんな事誰が信じる?そんな報告をしようものなら気違いか何かと思われるに違いない……。私は気付くとシャルを追っていた……。
「お、おい!!追っかけんのか?俺も手伝うぞ!!」
「いや、私一人で充分だ……。君はそこにいてくれ。」
ザイバックの心遣いは嬉しかったが、今はどうしても確かめねばならない事が出来てしまった……。そう…彼女は…シャルは……本当に別世界の住人なのか……記憶喪失ではないのか……。そして、何故だかは分からないがその問いの答えを知られてはならない様な気がするからだ………。私は動揺に激しく拍動する心臓を抑えながらシャルの後を追った……。
「こら!さっきから何ブツブツ言ってんだ……それよりも、ちゃんと上手いことやってんのか?」
……痛い……やっと互いの名前を教え合ったくらいの進展など、報告するだけ無駄の様な……。
「いや、それがさっき名前をお互いに教えあっただけだよ。その他は一切進展していない。」
「おいおい…それじゃ報告出来ねえなぁ……。自己紹介の一番基本しか出来てないんじゃぁな……。」
やはり報告は出来ないらしい。ま、それもそうだな……。名前だけ報告しても何の情報にもなるはずがない。なんせこの子は記憶自体が無いのだから……。名前なんかよりも重要な記憶がこの無愛想な少女の頭の片隅で埃を被ってるんだから……。
「なぁ…シャル、君はこの世界を知ってるかい?」
「お、おい……いくらなんでもそんくらいは記憶喪失だからって分かるだろ?ケイス…お前……神経質だなぁ……。」
ザイバックの嘲笑をキッと私は睨みつけて黙らせた。初めて会った時から私にはこの少女に違和感があった……そう、何か無機質な……この世界に存在する人間の雰囲気とはどこか違うような…
「……分からない……何も覚えていないの……。」
「嘘だろ……マジでこの世界の事すら忘れちまってるのかよ……こりゃ冗談きついぜ……。」
明らかな狼狽を浮かべてザイバックは頭を抱え込んだ。無理も無いか……この世界を知らないって事は、人間が哺乳類だって事を知らないと言ってる様なもんだからな……。
「そっか……でも、何か感じないのかい?この世界にいた様な気がするとか……。」
「ごめんなさい……何も分からないわ……でも…。」
「でも…何だい?」
「一つだけ言える事があるわ……私はこんな世界で生まれてない……。」
「え!?」
あまりに突拍子な応えに私は自分でも恥ずかしいくらいの上擦った声を上げてしまった。ザイバックも目が点といった様子である……この世界で生まれたんじゃない……???……一体どういう事だ?!じゃあこの目の前にいる寡黙で無愛想な少女は別世界の住人って事か?……ハッ、馬鹿馬鹿しい……この世界以外に世界なんて存在してるハズ無いじゃないか……。きっと頭が混乱してるんだろう……。私は一、二度頭を叩くとシャルに向かってこう質問した。
「すまない……私の質問がマズかったかな……うんと、そうだな……君は、どっから来たのか覚えてるかい?」
「……だから、この世界で生まれたんじゃないの……だから…私にこの世界での居場所なんてない……全然分からないの……。」
「おい!ケイス……どうするよ?……コイツ、別世界から来たんだろ?」
「何を言ってるんだよザイバック……ハハ、そんなハズ無いだろう?世界が二つも存在してるなんて本気で思っているのか?だったら、もっと古くからこういう事が起きてて当然だろう?」
「あっ!!そうか……。」
「信じてくれないならそれでもいい……私も貴方達みたいな人達とこれ以上話す口なんて持っていないから……。」
そう言うとシャルはそそくさと私の執務室を退席した。……あれ?シャルってあんな大人な雰囲気だったか?ついさっきまでは記憶喪失に見舞われた悲劇の少女の様だったと思うが……。ん?待てよ……。まさか……彼女の言っている事は本当なのか!?……彼女は別世界からコッチの世界に何らかの間違いでやって来てしまった……だから何を質問されても分からない……。記憶喪失じゃなく、元々ここの世界じゃない別の世界で育ったから情報が無い……だから国王の部屋に平気で忍び込めた……。国王の地位や偉大さなんてコッチの世界での話で、シャルの世界では王の地位は存在しない……。確かにそれなら説明が着く。だが、そんな事誰が信じる?そんな報告をしようものなら気違いか何かと思われるに違いない……。私は気付くとシャルを追っていた……。
「お、おい!!追っかけんのか?俺も手伝うぞ!!」
「いや、私一人で充分だ……。君はそこにいてくれ。」
ザイバックの心遣いは嬉しかったが、今はどうしても確かめねばならない事が出来てしまった……。そう…彼女は…シャルは……本当に別世界の住人なのか……記憶喪失ではないのか……。そして、何故だかは分からないがその問いの答えを知られてはならない様な気がするからだ………。私は動揺に激しく拍動する心臓を抑えながらシャルの後を追った……。
【十六夜夜業】(いざよいやぎょう)
〜十六夜の剣を巡って行われる争いのことで、起こりは、安倍晴明と斉藤道三との戦いが最初で、以来1000年以上もの間続いている。殺し合いという訳ではなく、どちらかが戦闘不能になれば自然に闘いは終わる。戦い終わった後は互いが健闘を称えるなど、不思議な争いでもある。しかしそれは全てが偽りであり、本来の目的ではないらしい……十六夜夜業の本当の目的を知るものは極わずかしかいない……
【力の解放】(ちからのかいほう)
〜【十六夜の剣】の秘められた力を開放する儀式で、誄の切り札。反動でかなりの体力を消耗するため、一度の戦闘につき一回しか使えない。だが、力を解放した時の強さは通常の20倍以上にもなる上に治癒力も骨折くらいなら僅か30秒で治る程。
【五劉葬】(ごりゅうそう)
〜【劉魔】と呼ばれる悪魔を倒すために造られた五つの武器の事で、【十六夜の剣】、【七星】、【百鬼の剣】、【燈龍の強弓】、【破邪真槍】の五つである。何れも相当の修練を積まなければ扱うことは出来ない代物で、その中でも【十六夜の剣】は脅威の力を持っているために争いの火種となり【十六夜夜業】が誕生したことになる。
【十六夜の剣】(いざよいのつるぎ) 造り:黒塗り太刀拵え・乱れ刃・大業物 五劉葬
〜十六夜夜業の全ての元となる剣で、代々「神楽家」の党首が守ってきた不思議な力を持つ刀。一度手にすれば「常人離れした治癒力」「人智を越えた力」を手にするとされており、神楽の党首もその力を利用できる。だがこの刀を扱うには並大抵の修行では振り上げる事すらできない代物で、誄も6歳から11年間もの間、血の滲む様な修行を続け、ようやく自在に使えるようになった。制作者は【三代目 子鉄】と言われている。
【百鬼の剣】(ひゃっきのつるぎ) 造り:白塗り太刀拵え・直刃・大業物 五劉葬の一つ
〜【十六夜の剣】と時を同じくして造られた剣で百匹の鬼の魂を封印してある事から、【百鬼の剣】という名が付けられた。【十六夜夜業】とは直接は関係がないが、1000年以上も前に起きた最初の【十六夜夜業】で【斉藤 道三】が使用し、【安陪 晴明】と戦ったと言われている。【十六夜の剣】よりも扱いが難しく、ましてや女性には扱うことの出来ない代物だといわれていたが、叉和が女性で、しかも斉藤道三以外で初めて【百鬼の剣】の使用者となった。陰陽の力を使えば、封印してある鬼を呼び出すことも出来るが、呼び出したら制御できるとは限らない・・・
【七星】(ななつぼし) 五劉葬の一つ
〜【群雲家】に伝わるもので形としてはネックレス。厳しい修練を越えた者だけが使うことが出来、【七星】の力を増幅させる【七星の篭手】の装着で更なる力を発揮する。具体的には、あらゆる物に姿や力を変換する力で、例えば、雷になることも出来る。
【燈龍の強弓】(ひりゅうのごうきゅう) 五劉葬の一つ
〜【陸奥】の家系を組む者が代々伝えてきた弓。弦を引くまでに3年は修練が必要とされており、カナタも厳しい修練に耐え抜き今では、一流の弓使いとなっている。その貫通力は最強クラスで、分厚い鉄壁も楽々と貫通する。
【破邪真槍】(はじゃしんそう) 五劉葬の一つ
〜名前の通り、邪悪を破り、真の正義を貫く槍で使用者は不明。五劉葬の中でも一番重く、持つだけで2年もの修練を必要とする。槍を龍に変えたり、地面に突き立てる事で地割れを起こすなど荒業が多い。あの十二神将の一人が造ったとされる。
〜十六夜の剣を巡って行われる争いのことで、起こりは、安倍晴明と斉藤道三との戦いが最初で、以来1000年以上もの間続いている。殺し合いという訳ではなく、どちらかが戦闘不能になれば自然に闘いは終わる。戦い終わった後は互いが健闘を称えるなど、不思議な争いでもある。しかしそれは全てが偽りであり、本来の目的ではないらしい……十六夜夜業の本当の目的を知るものは極わずかしかいない……
【力の解放】(ちからのかいほう)
〜【十六夜の剣】の秘められた力を開放する儀式で、誄の切り札。反動でかなりの体力を消耗するため、一度の戦闘につき一回しか使えない。だが、力を解放した時の強さは通常の20倍以上にもなる上に治癒力も骨折くらいなら僅か30秒で治る程。
【五劉葬】(ごりゅうそう)
〜【劉魔】と呼ばれる悪魔を倒すために造られた五つの武器の事で、【十六夜の剣】、【七星】、【百鬼の剣】、【燈龍の強弓】、【破邪真槍】の五つである。何れも相当の修練を積まなければ扱うことは出来ない代物で、その中でも【十六夜の剣】は脅威の力を持っているために争いの火種となり【十六夜夜業】が誕生したことになる。
【十六夜の剣】(いざよいのつるぎ) 造り:黒塗り太刀拵え・乱れ刃・大業物 五劉葬
〜十六夜夜業の全ての元となる剣で、代々「神楽家」の党首が守ってきた不思議な力を持つ刀。一度手にすれば「常人離れした治癒力」「人智を越えた力」を手にするとされており、神楽の党首もその力を利用できる。だがこの刀を扱うには並大抵の修行では振り上げる事すらできない代物で、誄も6歳から11年間もの間、血の滲む様な修行を続け、ようやく自在に使えるようになった。制作者は【三代目 子鉄】と言われている。
【百鬼の剣】(ひゃっきのつるぎ) 造り:白塗り太刀拵え・直刃・大業物 五劉葬の一つ
〜【十六夜の剣】と時を同じくして造られた剣で百匹の鬼の魂を封印してある事から、【百鬼の剣】という名が付けられた。【十六夜夜業】とは直接は関係がないが、1000年以上も前に起きた最初の【十六夜夜業】で【斉藤 道三】が使用し、【安陪 晴明】と戦ったと言われている。【十六夜の剣】よりも扱いが難しく、ましてや女性には扱うことの出来ない代物だといわれていたが、叉和が女性で、しかも斉藤道三以外で初めて【百鬼の剣】の使用者となった。陰陽の力を使えば、封印してある鬼を呼び出すことも出来るが、呼び出したら制御できるとは限らない・・・
【七星】(ななつぼし) 五劉葬の一つ
〜【群雲家】に伝わるもので形としてはネックレス。厳しい修練を越えた者だけが使うことが出来、【七星】の力を増幅させる【七星の篭手】の装着で更なる力を発揮する。具体的には、あらゆる物に姿や力を変換する力で、例えば、雷になることも出来る。
【燈龍の強弓】(ひりゅうのごうきゅう) 五劉葬の一つ
〜【陸奥】の家系を組む者が代々伝えてきた弓。弦を引くまでに3年は修練が必要とされており、カナタも厳しい修練に耐え抜き今では、一流の弓使いとなっている。その貫通力は最強クラスで、分厚い鉄壁も楽々と貫通する。
【破邪真槍】(はじゃしんそう) 五劉葬の一つ
〜名前の通り、邪悪を破り、真の正義を貫く槍で使用者は不明。五劉葬の中でも一番重く、持つだけで2年もの修練を必要とする。槍を龍に変えたり、地面に突き立てる事で地割れを起こすなど荒業が多い。あの十二神将の一人が造ったとされる。
十六夜草子設定資料集
〜いざよいぞうし〜
【登場人物資料】
主人公:【神楽 誄】(かぐら るい) 年齢:17歳 性別:男
〜冷静沈着で頭脳明晰、更にはスポーツ万能の超人的な男。幼少時に両親を“事故”で失いそれからは、神楽との繋がりが深い【群雲家】で育てられるようになった。そして彼に
は秘密があった、父親である「神楽 修也」が残した剣【十六夜の剣】、そしてその剣を巡る戦い【十六夜夜業】「いざよいやぎょう」・・・彼はその戦いで狙われている者・・・・
そしてそのために幼少より厳しい修行を受けた一流の剣士でもある。ちなみに、彼の剣の流派は【天然理心流】で、若くして免許皆伝の腕前である。
ヒロイン:【群雲 鈴音】(むらくも すずね) 年齢:17歳 性別:女
〜誄が6歳から育てられた群雲家の次女で、誄の幼馴染。誄とは正反対の明るく破天荒な性格で、時々とんでもない事を言い出す事もある。彼女自身、群雲家に伝わる【七星】の力を持っており、十六夜夜業の参加者でもある。参加動機は幼い頃に失った母親との記憶を取り戻すためである。誄に仄かな恋心を抱いている。
【群雲 庵樹】(むらくも あんじゅ) 年齢:20歳 性別:女
〜群雲家の長女で、鈴音の姉。性格は静かで大人しめだがしっかりと自分の意思を持っており、意思にそぐわない事には決して手を出さない。彼女も鈴音同様【七星】の力を持ってはいるものの、体が弱いために十六夜夜業には参加していない。誄を本当の弟の様に可愛がっている。
【御堂 津羽根】(みどう つばね) 年齢:17歳 性別:女
〜誄のクラスメイトで、式神を従える力【闇暁】「あんぎょう」の使い手。誄の力をクラスメイトで唯一知っており何度か誄と手合わせをするが全て誄に負けてしまい、そのときに
誄が手を差し伸べてくれた事で誄に恋をしてしまう。恋とは無縁だと思っていただけに恋する苦しさに悩む事に・・・
【弥栄 秀彦】(やさか ひでひこ) 年齢:19歳 性別:男
〜【飛天降壇】(ひてんこうだん)という特殊な力を持つ男で十六夜夜業の参加者。性格は優しいのだが戦闘に関しては一切の妥協を認めず、情けを掛けはしない。十六夜夜業の真の目的を知る人物の一人でもある。好きなものは「豆乳プリン」で嫌いなものは「百足」。
【榊 京津】(さかき けいしん) 年齢:25歳 性別:男
〜生前の神楽 修也を知る男で【十六夜の剣】の造られた目的と【十六夜夜業】の真の意味を知る。彼自身【幻術】の使い手でまた、十六夜夜業にも参加している。知識豊富で様々な事を誄に教えてくれるがその度に戦う事に・・・趣味は【絵画を鑑賞する事】らしい。
【月詠】(つくよみ) 年齢:??? 性別:女
〜とても美しい女性で全ての鍵を握る。過去に十六夜夜業を勝ち抜き、その最後までを知っているが一切を話そうとはしない。そもそも【月詠】という名前自体、本名かどうかも定かではない。しっかりしている様でどこか抜けてて憎めない可愛らしさもある。
【夕凪 御影】(ゆうなぎ みかげ) 年齢:18歳 性別:女
〜誄の隣町の高校「月の宮女学校」に通うアイドル的な女の子で性格は優しく、学校にファンクラブまである。だが、彼女は実は十六夜夜業の参加者で、夕凪家に伝わる「観音掌」という武器の使い手であり、戦闘時には性格が一変する。彼女自身が十六夜夜業に参加する意図は、代々「観音掌」の受け継ぎには先代の使用者の魂を宿す必要があり、御影の父親も受け継ぎの際に同じく魂を宿して他界した。故にその父親を生き返らせるべく参加した。
【獅子丸】 年齢:500歳 性別:♂ 駒系上級式神
〜津羽根を幼少より世話してきた、津羽根の父親が残した式神。津羽根の両親も式神使いであり、獅子丸は元々は父親の式神であったが、津羽根が4歳の時に起きた式神の暴走を食い止めるべく、命を捧げる封印「魂の契約」を行うために父親が「異界」と「現実」を結ぶ獅子丸の「呪印」を消して獅子丸に津羽根を託した事で津羽根の式神になる。性格は堂々としていて威厳たっぷりだが、骨に目がなく骨を目の前にちらつかせられると無邪気な犬の様になってしまう。
【クリステル・ブラッドマン】(くりすてる・ぶらっどまん) 年齢:17歳 性別:女
〜5歳のころに来日したアメリカンだが、日本での生活が長い事もあり、日本語を普通にしゃべっている。性格はどこかミステリアスで謎が多く、何故か十六夜夜業の参加者でもある。それもそのはず、彼女は人の生き血を体に浴びる事で飢えを凌ぐ【クリーチャー】と呼ばれる半妖なのだから。彼女はただ、己の飢えを満たすためだけに十六夜夜業へと赴いているだけなのだ…
【安倍 愁弦】(あべのしゅうげん) 年齢:30歳 性別:男
〜彼の有名な大陰陽師【安倍晴明】の末裔で【十六夜夜業】とは深い関わりがある男。
既に十六夜夜業からは身を引いてはいるが、誄の元に突然現れその力を試すなど、まだ
戦いを忘れられない所もあるようだ。性格は荘厳で落ち着きがあり、自分が神主を務める神社【九十九神社】には【十六夜の剣】と相反する剣【百鬼の剣】がある。
【水無月 叉和】(みなづき さわ) 年齢:16歳 性別:女
〜【九十九神社】で巫女をしている女の子で、愁弦に力があると言われ十六夜夜業に参加する事に……性格はおっとりしていて争い事を好まず、正直、十六夜夜業には参加したくないらしい…ちなみに彼女は一度も男と付き合った事はない。【十六夜の剣】と相反する存在の【百鬼の剣】に選ばれし者である。
【劉魔 道三】(りゅうま どうさん) 年齢:1000歳以上 性別:劉魔
〜1000年以上前に安陪晴明と戦い、封印された「斉藤 道三」が邪悪な力を借りて現世に蘇った姿。人だった頃の感情は無く、ただ闘争本能と欲望のままに血を食らう悪魔と化している。再び力を手にするために、叉和の持つ【百鬼の剣】を取り戻そうとしている。どうやって封印を解いたのかは不明だがその胸には【五行解印】の呪印が刻まれている。
【陸奥 カナタ】(むつ かなた) 年齢:19歳 性別:男
〜東北の深い山間の村で育ち、【劉魔】を倒す【五劉葬】の一つ【燈龍の強弓】の使い手。また、【劉魔】の存在を知る数少ない人間でもあり、そのことを知ってもらうべく、力を持つ者達の争い【十六夜夜業】に参加し、伝えようとしている。ちなみに彼は叉和に恋をしてしまう。
【雷獣 宗吾】(らいじゅう そうご) 年齢:480歳 愁弦の式 駒系上級式神
〜安倍愁弦の式で津羽根の式である獅子丸とは因果関係がある。性格は雷獣だけあって激しく、愁弦にも暴言を吐く始末。だが叉和に怒られるとおとなしくなる。乾電池を好む。
【劉魔】(りゅうま)
〜邪悪な怨念と憎悪が人ならざる者の姿に具現化した魔物。人の負、いわゆる心の闇を好物としており、それらを喰らい、取り込むことで更なる力と禍々しい姿を手にすることが出来る。真の十六夜夜業に深い繋がりがある。〜
【闇黄泉】(やみよみ) 年齢:???歳 性別:男
〜月詠と相反する存在として十六夜夜業で死闘を繰り広げた男。最後は月詠に力を解放され、寸での所で異界へと送られた。だが、彼は異界で人の憎悪と怨念を目の当たりにし、その力の強大さに魅かれ、劉魔を生み出す呪印を完成させ、現代世界へ送り込み、更なる憎悪と怨念を収集し、最終的にはその力を自分へ解放させ、月詠を葬ろうと目論んでいる。
〜いざよいぞうし〜
【登場人物資料】
主人公:【神楽 誄】(かぐら るい) 年齢:17歳 性別:男
〜冷静沈着で頭脳明晰、更にはスポーツ万能の超人的な男。幼少時に両親を“事故”で失いそれからは、神楽との繋がりが深い【群雲家】で育てられるようになった。そして彼に
は秘密があった、父親である「神楽 修也」が残した剣【十六夜の剣】、そしてその剣を巡る戦い【十六夜夜業】「いざよいやぎょう」・・・彼はその戦いで狙われている者・・・・
そしてそのために幼少より厳しい修行を受けた一流の剣士でもある。ちなみに、彼の剣の流派は【天然理心流】で、若くして免許皆伝の腕前である。
ヒロイン:【群雲 鈴音】(むらくも すずね) 年齢:17歳 性別:女
〜誄が6歳から育てられた群雲家の次女で、誄の幼馴染。誄とは正反対の明るく破天荒な性格で、時々とんでもない事を言い出す事もある。彼女自身、群雲家に伝わる【七星】の力を持っており、十六夜夜業の参加者でもある。参加動機は幼い頃に失った母親との記憶を取り戻すためである。誄に仄かな恋心を抱いている。
【群雲 庵樹】(むらくも あんじゅ) 年齢:20歳 性別:女
〜群雲家の長女で、鈴音の姉。性格は静かで大人しめだがしっかりと自分の意思を持っており、意思にそぐわない事には決して手を出さない。彼女も鈴音同様【七星】の力を持ってはいるものの、体が弱いために十六夜夜業には参加していない。誄を本当の弟の様に可愛がっている。
【御堂 津羽根】(みどう つばね) 年齢:17歳 性別:女
〜誄のクラスメイトで、式神を従える力【闇暁】「あんぎょう」の使い手。誄の力をクラスメイトで唯一知っており何度か誄と手合わせをするが全て誄に負けてしまい、そのときに
誄が手を差し伸べてくれた事で誄に恋をしてしまう。恋とは無縁だと思っていただけに恋する苦しさに悩む事に・・・
【弥栄 秀彦】(やさか ひでひこ) 年齢:19歳 性別:男
〜【飛天降壇】(ひてんこうだん)という特殊な力を持つ男で十六夜夜業の参加者。性格は優しいのだが戦闘に関しては一切の妥協を認めず、情けを掛けはしない。十六夜夜業の真の目的を知る人物の一人でもある。好きなものは「豆乳プリン」で嫌いなものは「百足」。
【榊 京津】(さかき けいしん) 年齢:25歳 性別:男
〜生前の神楽 修也を知る男で【十六夜の剣】の造られた目的と【十六夜夜業】の真の意味を知る。彼自身【幻術】の使い手でまた、十六夜夜業にも参加している。知識豊富で様々な事を誄に教えてくれるがその度に戦う事に・・・趣味は【絵画を鑑賞する事】らしい。
【月詠】(つくよみ) 年齢:??? 性別:女
〜とても美しい女性で全ての鍵を握る。過去に十六夜夜業を勝ち抜き、その最後までを知っているが一切を話そうとはしない。そもそも【月詠】という名前自体、本名かどうかも定かではない。しっかりしている様でどこか抜けてて憎めない可愛らしさもある。
【夕凪 御影】(ゆうなぎ みかげ) 年齢:18歳 性別:女
〜誄の隣町の高校「月の宮女学校」に通うアイドル的な女の子で性格は優しく、学校にファンクラブまである。だが、彼女は実は十六夜夜業の参加者で、夕凪家に伝わる「観音掌」という武器の使い手であり、戦闘時には性格が一変する。彼女自身が十六夜夜業に参加する意図は、代々「観音掌」の受け継ぎには先代の使用者の魂を宿す必要があり、御影の父親も受け継ぎの際に同じく魂を宿して他界した。故にその父親を生き返らせるべく参加した。
【獅子丸】 年齢:500歳 性別:♂ 駒系上級式神
〜津羽根を幼少より世話してきた、津羽根の父親が残した式神。津羽根の両親も式神使いであり、獅子丸は元々は父親の式神であったが、津羽根が4歳の時に起きた式神の暴走を食い止めるべく、命を捧げる封印「魂の契約」を行うために父親が「異界」と「現実」を結ぶ獅子丸の「呪印」を消して獅子丸に津羽根を託した事で津羽根の式神になる。性格は堂々としていて威厳たっぷりだが、骨に目がなく骨を目の前にちらつかせられると無邪気な犬の様になってしまう。
【クリステル・ブラッドマン】(くりすてる・ぶらっどまん) 年齢:17歳 性別:女
〜5歳のころに来日したアメリカンだが、日本での生活が長い事もあり、日本語を普通にしゃべっている。性格はどこかミステリアスで謎が多く、何故か十六夜夜業の参加者でもある。それもそのはず、彼女は人の生き血を体に浴びる事で飢えを凌ぐ【クリーチャー】と呼ばれる半妖なのだから。彼女はただ、己の飢えを満たすためだけに十六夜夜業へと赴いているだけなのだ…
【安倍 愁弦】(あべのしゅうげん) 年齢:30歳 性別:男
〜彼の有名な大陰陽師【安倍晴明】の末裔で【十六夜夜業】とは深い関わりがある男。
既に十六夜夜業からは身を引いてはいるが、誄の元に突然現れその力を試すなど、まだ
戦いを忘れられない所もあるようだ。性格は荘厳で落ち着きがあり、自分が神主を務める神社【九十九神社】には【十六夜の剣】と相反する剣【百鬼の剣】がある。
【水無月 叉和】(みなづき さわ) 年齢:16歳 性別:女
〜【九十九神社】で巫女をしている女の子で、愁弦に力があると言われ十六夜夜業に参加する事に……性格はおっとりしていて争い事を好まず、正直、十六夜夜業には参加したくないらしい…ちなみに彼女は一度も男と付き合った事はない。【十六夜の剣】と相反する存在の【百鬼の剣】に選ばれし者である。
【劉魔 道三】(りゅうま どうさん) 年齢:1000歳以上 性別:劉魔
〜1000年以上前に安陪晴明と戦い、封印された「斉藤 道三」が邪悪な力を借りて現世に蘇った姿。人だった頃の感情は無く、ただ闘争本能と欲望のままに血を食らう悪魔と化している。再び力を手にするために、叉和の持つ【百鬼の剣】を取り戻そうとしている。どうやって封印を解いたのかは不明だがその胸には【五行解印】の呪印が刻まれている。
【陸奥 カナタ】(むつ かなた) 年齢:19歳 性別:男
〜東北の深い山間の村で育ち、【劉魔】を倒す【五劉葬】の一つ【燈龍の強弓】の使い手。また、【劉魔】の存在を知る数少ない人間でもあり、そのことを知ってもらうべく、力を持つ者達の争い【十六夜夜業】に参加し、伝えようとしている。ちなみに彼は叉和に恋をしてしまう。
【雷獣 宗吾】(らいじゅう そうご) 年齢:480歳 愁弦の式 駒系上級式神
〜安倍愁弦の式で津羽根の式である獅子丸とは因果関係がある。性格は雷獣だけあって激しく、愁弦にも暴言を吐く始末。だが叉和に怒られるとおとなしくなる。乾電池を好む。
【劉魔】(りゅうま)
〜邪悪な怨念と憎悪が人ならざる者の姿に具現化した魔物。人の負、いわゆる心の闇を好物としており、それらを喰らい、取り込むことで更なる力と禍々しい姿を手にすることが出来る。真の十六夜夜業に深い繋がりがある。〜
【闇黄泉】(やみよみ) 年齢:???歳 性別:男
〜月詠と相反する存在として十六夜夜業で死闘を繰り広げた男。最後は月詠に力を解放され、寸での所で異界へと送られた。だが、彼は異界で人の憎悪と怨念を目の当たりにし、その力の強大さに魅かれ、劉魔を生み出す呪印を完成させ、現代世界へ送り込み、更なる憎悪と怨念を収集し、最終的にはその力を自分へ解放させ、月詠を葬ろうと目論んでいる。
小説「狼狽」第二章〜出会い
2004年8月15日 連載〜一ヶ月前「ケイネラス王国」………
私は王国の政務を担当していた。連日、他国との政治の交錯に外交のゴタゴタが度重なり、私自身の疲労や心労も限界を迎えていた。
「よう!どうだ?政務って奴の仕事は?」
ザイバックが冗談交じりに言ったが、私はまともな応対が出来ない程だった。
「……駄目だな…私には荷が勝ちすぎる……。」
「おいおい、何弱気になってんだよ?お前らしくもねぇ。」
ザイバックの励ましも虚しく、私は既に机に顔を伏せたまま意識を失っていた…………。
「…い……おい……おい!」
ザイバックの声に漸く意識を取り戻した私は、王宮看護院のベッドにいた。
「………一体……私は……?」
「いやぁ、ビックリしたぜ。書類が山積みになってる机に顔を埋めて気絶してんだからよ!」
「そうか……気絶してたのか………ハハ、情けないな。」
「よっぽど政務って仕事は疲れんだな……。」
眉根をよせて感慨深くザイバックは言った。
「何言ってるんだ。君の方が大変だろう?何たって命懸けなんだからな!」
私が言うや否やザイバックはニヒヒと笑い、自信に満ちた表情で厚い胸板をドンと叩いた。
「心配無いぜ!!俺は戦闘が好きなんだよ♪なんつうか、こう、自分の力を確かめられんだよな……。」
ムフフと品の無い含み笑いが聞こえてきそうな顔でザイバックは言った。この男とは昔からの腐れ縁だが、いつまで経っても私はその感覚に頷けなかった。まぁ、私が兵士でも何でも無いからだろうが………。そんなやり取りをしていると、突然、国王の側近が大慌てで駆け込んで来た。顔は険しく、余程の大事だと暗に言っているようだった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「そんな怖い顔して…分かった!国王が不倫したとかか?」
「ザイバック!!慎め……。」
「………あい……。」
「…大変です!!国王様の寝室に、侵入者が!!」
その言葉に私は自分の血の気が引いたのを感じた。ザイバックは側近が言い終るのと時を違わずして風の様に走り去った。
私も、こんな一大事に寝ているわけにもいかず、ふらつく足元を壁で支えながら必死に国王の寝室まで向かった。
「何てことだ……他国の暗殺者か?!……。」
ふと思いつく国王殺害という最悪の状況を掻き消しながら、ザイバックから遅れること20分……私は国王の寝室に、ザイバック達に取り押さえられている一人の少女を見つけた。
「おい!どうやってここに入った!?理由によっちゃガキと言えど死刑だぞ!」
ザイバックの怒号にも全く動じずにその少女は黙して語ろうとしなかった……。その時、私は自分でも無意識の内にザイバックの手を払っていた。
「……おい、どうしたんだよ?ケイス……。」
あまりに意外な私の行動に少々困惑気味なザイバックの声に我に返った。
「え!?……。」
「え!?じゃねぇよ……何で俺の手を払うんだよ?」
「……いや、それはだな……。」
自分でもよく分からないままにした事だからこれと言った理由も無い。返答に困窮していると、不意に私の背から低く落ち着きを構えた声が聞こえた。
「私の寝室に侵入した者とはその娘か?」
一瞬、脳が混乱して声の主を特定出来なかったが、間もなくしてそれが国王であると気付いた。
「こ、国王様!?一体何故このような場所に?」
「何を言うケイス政務卿…ここは私の寝室だ…出向くのも道理であろう……それに、私はそこの侵入者に恨みを買われているかもしれんのだ……。でなければ一国の王の寝室に忍び込もうなどと考える愚か者はおるまい……故に何か意見したくば聴いてやろうと思ってな……。」
どっしりと威厳に満ちた顔で「ケイネラス王国」国王「リーゼンバート・ケイネラス」は言った。彼は世界の中枢であるこの王国を完璧なまでに治め、国民からも絶大な人気を誇っている。そんな今まで恨みの“う”の字も無かった彼にとって、今回の件はあまりに意外であったのだろう……一般常識で考えても、自分の命を狙っていたかもしれない侵入者の前にワザワザ身を晒す真似はしないハズだ。まぁ、例えどんな腕利きの暗殺者でも、ザイバックの警護から逃げられるワケは無いだろうが……。
「どうだ?娘よ……何か私に意見する事があるのか?」
あくまで優しく少女に接する王の姿に偉大さを感じていると、その少女は突然にザイバックの腕からスルリと抜け出し、王を突き飛ばして寝室から逃げ出そうとした。
「この!……待ちやがれ!!」
ザイバックの体の方が格段に速く寝室の扉に着いた。少女は再び取り押さえれ、身動きが取れなくなった。
「大丈夫ですか?国王……。」
私は倒れた国王の体を起こすと、再び無意識に言葉を発していた。
「国王様……その少女、もしや記憶を失っているのでは?」
「何?……それはまことか?……ザイバックよ、その少女の身元を尋ねてみよ。」
「はぁ……おい!お前、どっから来た?」
ぶっきら棒に聞いたザイバックの顔をキッと睨みつける様に少女は、
「………分からない………ここがどこかも……何にも…分からない……。」
そう吐き捨てた。ザイバックはボリボリと頭を掻きながら王に視線を向けた。
「……だそうですよ……。」
「ふむ、嘘をついている目には見えん……どうやらケイス政務卿の言う通りその少女は記憶喪失の様だ。恐らく自分の家かなにかの記憶と混同してここに来てしまったのだろう……。」
憶測を立てる国王に私は尚も無意識に言葉を投げ掛けていた。
「……私がその少女の身柄を引き受けます……。」
そう言い終ると、私はハッと我に返っていた。ザイバックと国王の驚愕に満ちた顔が私に一斉に向けられている……。何て事を言ってしまったんだ……。
「おいおい!ケイス!いきなり何言い出すんだよ!?マジで言ってんのか?」
ここまで言ってしまったら引っ込みはつくまい……私も男だ!自分の言葉には例え無意識の言葉であっても責任を持たなくては!そう腹を括り、ザイバックに頷くと、国王の声が私を呼んだ。
「ケイス政務卿よ。先の少女の記憶喪失を見抜いた事といい、身柄を引き受けると名乗り出たのといい……何か隠しているんではないか?……その少女に関して何らかの関係があるんでは?」
とんでもない事になった……私に疑いと懸念が懸けられている。
「……いえ、決してそのような事は……。」
「分かった……貴公の申し出を受諾しよう……しかし!貴公への疑が解けたわけではない!よって、この王国での身柄引き受けは了承出来ん……貴公には政務卿の職から外れて、辺境の街カルナムールの取り締まりの任を命ずる。そこでその少女の身柄を引き受けるが良い。」
………こうして……私は少女の身柄を引き受けたのと同時に、辺境に左遷されてしまった…………。何とも数奇的な出会いである……。
私は王国の政務を担当していた。連日、他国との政治の交錯に外交のゴタゴタが度重なり、私自身の疲労や心労も限界を迎えていた。
「よう!どうだ?政務って奴の仕事は?」
ザイバックが冗談交じりに言ったが、私はまともな応対が出来ない程だった。
「……駄目だな…私には荷が勝ちすぎる……。」
「おいおい、何弱気になってんだよ?お前らしくもねぇ。」
ザイバックの励ましも虚しく、私は既に机に顔を伏せたまま意識を失っていた…………。
「…い……おい……おい!」
ザイバックの声に漸く意識を取り戻した私は、王宮看護院のベッドにいた。
「………一体……私は……?」
「いやぁ、ビックリしたぜ。書類が山積みになってる机に顔を埋めて気絶してんだからよ!」
「そうか……気絶してたのか………ハハ、情けないな。」
「よっぽど政務って仕事は疲れんだな……。」
眉根をよせて感慨深くザイバックは言った。
「何言ってるんだ。君の方が大変だろう?何たって命懸けなんだからな!」
私が言うや否やザイバックはニヒヒと笑い、自信に満ちた表情で厚い胸板をドンと叩いた。
「心配無いぜ!!俺は戦闘が好きなんだよ♪なんつうか、こう、自分の力を確かめられんだよな……。」
ムフフと品の無い含み笑いが聞こえてきそうな顔でザイバックは言った。この男とは昔からの腐れ縁だが、いつまで経っても私はその感覚に頷けなかった。まぁ、私が兵士でも何でも無いからだろうが………。そんなやり取りをしていると、突然、国王の側近が大慌てで駆け込んで来た。顔は険しく、余程の大事だと暗に言っているようだった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「そんな怖い顔して…分かった!国王が不倫したとかか?」
「ザイバック!!慎め……。」
「………あい……。」
「…大変です!!国王様の寝室に、侵入者が!!」
その言葉に私は自分の血の気が引いたのを感じた。ザイバックは側近が言い終るのと時を違わずして風の様に走り去った。
私も、こんな一大事に寝ているわけにもいかず、ふらつく足元を壁で支えながら必死に国王の寝室まで向かった。
「何てことだ……他国の暗殺者か?!……。」
ふと思いつく国王殺害という最悪の状況を掻き消しながら、ザイバックから遅れること20分……私は国王の寝室に、ザイバック達に取り押さえられている一人の少女を見つけた。
「おい!どうやってここに入った!?理由によっちゃガキと言えど死刑だぞ!」
ザイバックの怒号にも全く動じずにその少女は黙して語ろうとしなかった……。その時、私は自分でも無意識の内にザイバックの手を払っていた。
「……おい、どうしたんだよ?ケイス……。」
あまりに意外な私の行動に少々困惑気味なザイバックの声に我に返った。
「え!?……。」
「え!?じゃねぇよ……何で俺の手を払うんだよ?」
「……いや、それはだな……。」
自分でもよく分からないままにした事だからこれと言った理由も無い。返答に困窮していると、不意に私の背から低く落ち着きを構えた声が聞こえた。
「私の寝室に侵入した者とはその娘か?」
一瞬、脳が混乱して声の主を特定出来なかったが、間もなくしてそれが国王であると気付いた。
「こ、国王様!?一体何故このような場所に?」
「何を言うケイス政務卿…ここは私の寝室だ…出向くのも道理であろう……それに、私はそこの侵入者に恨みを買われているかもしれんのだ……。でなければ一国の王の寝室に忍び込もうなどと考える愚か者はおるまい……故に何か意見したくば聴いてやろうと思ってな……。」
どっしりと威厳に満ちた顔で「ケイネラス王国」国王「リーゼンバート・ケイネラス」は言った。彼は世界の中枢であるこの王国を完璧なまでに治め、国民からも絶大な人気を誇っている。そんな今まで恨みの“う”の字も無かった彼にとって、今回の件はあまりに意外であったのだろう……一般常識で考えても、自分の命を狙っていたかもしれない侵入者の前にワザワザ身を晒す真似はしないハズだ。まぁ、例えどんな腕利きの暗殺者でも、ザイバックの警護から逃げられるワケは無いだろうが……。
「どうだ?娘よ……何か私に意見する事があるのか?」
あくまで優しく少女に接する王の姿に偉大さを感じていると、その少女は突然にザイバックの腕からスルリと抜け出し、王を突き飛ばして寝室から逃げ出そうとした。
「この!……待ちやがれ!!」
ザイバックの体の方が格段に速く寝室の扉に着いた。少女は再び取り押さえれ、身動きが取れなくなった。
「大丈夫ですか?国王……。」
私は倒れた国王の体を起こすと、再び無意識に言葉を発していた。
「国王様……その少女、もしや記憶を失っているのでは?」
「何?……それはまことか?……ザイバックよ、その少女の身元を尋ねてみよ。」
「はぁ……おい!お前、どっから来た?」
ぶっきら棒に聞いたザイバックの顔をキッと睨みつける様に少女は、
「………分からない………ここがどこかも……何にも…分からない……。」
そう吐き捨てた。ザイバックはボリボリと頭を掻きながら王に視線を向けた。
「……だそうですよ……。」
「ふむ、嘘をついている目には見えん……どうやらケイス政務卿の言う通りその少女は記憶喪失の様だ。恐らく自分の家かなにかの記憶と混同してここに来てしまったのだろう……。」
憶測を立てる国王に私は尚も無意識に言葉を投げ掛けていた。
「……私がその少女の身柄を引き受けます……。」
そう言い終ると、私はハッと我に返っていた。ザイバックと国王の驚愕に満ちた顔が私に一斉に向けられている……。何て事を言ってしまったんだ……。
「おいおい!ケイス!いきなり何言い出すんだよ!?マジで言ってんのか?」
ここまで言ってしまったら引っ込みはつくまい……私も男だ!自分の言葉には例え無意識の言葉であっても責任を持たなくては!そう腹を括り、ザイバックに頷くと、国王の声が私を呼んだ。
「ケイス政務卿よ。先の少女の記憶喪失を見抜いた事といい、身柄を引き受けると名乗り出たのといい……何か隠しているんではないか?……その少女に関して何らかの関係があるんでは?」
とんでもない事になった……私に疑いと懸念が懸けられている。
「……いえ、決してそのような事は……。」
「分かった……貴公の申し出を受諾しよう……しかし!貴公への疑が解けたわけではない!よって、この王国での身柄引き受けは了承出来ん……貴公には政務卿の職から外れて、辺境の街カルナムールの取り締まりの任を命ずる。そこでその少女の身柄を引き受けるが良い。」
………こうして……私は少女の身柄を引き受けたのと同時に、辺境に左遷されてしまった…………。何とも数奇的な出会いである……。
小説「狼狽」第1章〜少女
2004年8月14日 連載君は一体誰だ?……そんな言葉が良く似合うその少女は私の瞳を見つめ、空虚なその薄葵の瞳を私の黒眼(くろまなこ)に写していた。
「君は、名前は何て言うのかな?」
「……シャル……」
「そ、そうか…!私はケイス。この辺境地帯の取り締まりをしているんだ。」
……あまりに冷たい視線と口様に質問した私自身がたじろいでしまった。常に冷静さを失わない私がだ。彼女には生気がまるで抜けている……。まるでクグツの様だ。
―と、不意に扉がけたたましく響き、私はそちらに気を奪われてしまった。
そこには一人の巨漢が立っていた……。
巨漢は私を見るや否やニカーッと野卑な笑いを浮かべた。
「ヒヒヒヒ、調子はどうだ?親友よ!」
武芸に通じ、戦闘では未だ負け知らず、容姿端麗だが、どこかガサツな巨漢は私の一応の親友に当たる【ザイバック】だった。
「おやおや、これはとんだ客だな、将軍様。」
そう、彼は幾多の戦いを無傷で乗り越えてきたその戦歴を買われ、この世界の中枢である【ケイネラス王国】の国王直属に位置する最も誉れ高い騎士団【国王騎士団】の将軍に抜擢された、いわば私の上司にあたる男である。
「おいおい、その将軍様っての止めろよ。何か背中がムズ痒くなっちまう……。お前には昔と同じ、ザイバックって呼んでもらいてぇんだよ……。」
「分かった分かった……で、何でこんな辺境の街まで?」
こんな事を言うのもなんだが、正直なトコ、私が職務に励んでいる街は【カルナムール】と言う、王国からは2000キロ以上も離れた街で、一般に“辺境”と呼ばれ、国王からの信頼が薄い者程飛ばされ易いという……。つまり私も国王からの信頼が余程薄いと見える……いや、このシャルの身元引き受けを申し出たからか?
私の悪い癖で、直ぐに物思いにふけっていると……
「おい!ケイス!!」
ザイバックがそれに気付いたらしく、私に強めの口調で迫ってきた。
「お前なぁ…人に話を振っておきながらそのまま放置はねぇだろ!ちゃんと話を最後まで聞け!!」
「ア、アハハ………すまない…つい、いつもの悪癖が出てしまったよ……そ、それで、君がこんな辺境に来た理由は?」
「ああ、実はな…お前がその身元不明、記憶喪失の少女の身柄を引き取ってから、辺境のこんなトコに左遷されちまっただろ?国王がキチンと“仕事”をしてるか確認を取って来い!って言うから来たんだよ。」
「…………。」
“仕事”…それは辺境の地を治める事も含まれるが、何と言っても私の場合はシャルの記憶の復元と身元のハッキリとした所在を見つける事に重点が置かれていた。そもそも、何故にそこまで国王がシャルを警戒するか、それは私がまだ彼女の身元引き受け人を名乗り出る前、つまり時にして約一ヶ月前に遡る………。
「君は、名前は何て言うのかな?」
「……シャル……」
「そ、そうか…!私はケイス。この辺境地帯の取り締まりをしているんだ。」
……あまりに冷たい視線と口様に質問した私自身がたじろいでしまった。常に冷静さを失わない私がだ。彼女には生気がまるで抜けている……。まるでクグツの様だ。
―と、不意に扉がけたたましく響き、私はそちらに気を奪われてしまった。
そこには一人の巨漢が立っていた……。
巨漢は私を見るや否やニカーッと野卑な笑いを浮かべた。
「ヒヒヒヒ、調子はどうだ?親友よ!」
武芸に通じ、戦闘では未だ負け知らず、容姿端麗だが、どこかガサツな巨漢は私の一応の親友に当たる【ザイバック】だった。
「おやおや、これはとんだ客だな、将軍様。」
そう、彼は幾多の戦いを無傷で乗り越えてきたその戦歴を買われ、この世界の中枢である【ケイネラス王国】の国王直属に位置する最も誉れ高い騎士団【国王騎士団】の将軍に抜擢された、いわば私の上司にあたる男である。
「おいおい、その将軍様っての止めろよ。何か背中がムズ痒くなっちまう……。お前には昔と同じ、ザイバックって呼んでもらいてぇんだよ……。」
「分かった分かった……で、何でこんな辺境の街まで?」
こんな事を言うのもなんだが、正直なトコ、私が職務に励んでいる街は【カルナムール】と言う、王国からは2000キロ以上も離れた街で、一般に“辺境”と呼ばれ、国王からの信頼が薄い者程飛ばされ易いという……。つまり私も国王からの信頼が余程薄いと見える……いや、このシャルの身元引き受けを申し出たからか?
私の悪い癖で、直ぐに物思いにふけっていると……
「おい!ケイス!!」
ザイバックがそれに気付いたらしく、私に強めの口調で迫ってきた。
「お前なぁ…人に話を振っておきながらそのまま放置はねぇだろ!ちゃんと話を最後まで聞け!!」
「ア、アハハ………すまない…つい、いつもの悪癖が出てしまったよ……そ、それで、君がこんな辺境に来た理由は?」
「ああ、実はな…お前がその身元不明、記憶喪失の少女の身柄を引き取ってから、辺境のこんなトコに左遷されちまっただろ?国王がキチンと“仕事”をしてるか確認を取って来い!って言うから来たんだよ。」
「…………。」
“仕事”…それは辺境の地を治める事も含まれるが、何と言っても私の場合はシャルの記憶の復元と身元のハッキリとした所在を見つける事に重点が置かれていた。そもそも、何故にそこまで国王がシャルを警戒するか、それは私がまだ彼女の身元引き受け人を名乗り出る前、つまり時にして約一ヶ月前に遡る………。
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