「何てことだ……私が、レイヴァンを吸収したばかりに。」

「何!?お前、レイヴァンを吸収したのか?」

「??何の話をしているのですか?」

ケイナスが怪訝そうに尋ねてきた。そうか、彼はまだ何も知らないんだっけ……私はケイナスに全てを告げた。彼も仲間だ…隠し事は良くない……。例え信じてもらえなくとも、いいんだ。

「なんと!?その様な経緯があったとは……俄かには信じ難いですが、ケイス殿が嘘を言うハズがありません。拙者は信じますぞ!!」

「ありがとう……。」

「して、ケイス殿の中に眠っていたレイヴァンが覚醒し、それを受け入れた変わりに異世界の知識を手に入れた……そして一時期は再び眠っていたレイヴァンが先程の決勝で覚醒した。ケイス殿はそれを必死に抑え込もうとしたところ、自分でも無意識にレイヴァンを吸収した……。そしてレイヴァンと完全な融合を果たしたケイス殿は全く新しい人間として生まれ変わったと……そういう事ですな。」

「そうみたいなんだ。だから今、君達の目の前に居るのはケイス・アルムナスじゃない………。」

「で、でもよ……どうしてそんな事が出来たんだよ?!」

「それは私にも分からない……。ただレイヴァンを抑えようと必死に抵抗していたら、急にレイヴァンが苦しみだしたんだ…。」

混乱する頭を抑えながら、ザイバックは今の現実を受け入れようと必死にブツブツ何かを言っていた。一方、ケイナスは大よその事態を冷静に分析して納得していた………。それにしても、何故私は吸収出来たんだ………?……。

「分かった……お前はケイスじゃないんだな。だったら、名前はどうすんだよ?」

そうだ、この姿じゃもうケイスではない……ケイスと言う人間はもう居ないんだ……。ん?何だ?……何かが意識に呼びかけてくる……【レム】……【真人(トゥレイオ)】……??…何なんだ?
……護り手との契約……それが護り手を取り込み、新生すること……護り手の能力や知識を身に付け、更に進化した護り手になる者……それが真人(トゥレイオ)……。これは?一体誰なんだ?私に語りかけてくるのは一体誰だ……?

「おい!大丈夫か!?頭が痛むのか?」

ザイバックの声に、意識に語りかけてきた声は途絶えた。

「あ、ああ……レム……私は、いや俺はレムだ。」

「レム?俺?」

「ああ、誰かが俺に教えてくれたんだ。直接意識の中に……。
レイヴァンはシャルを護る【護り手】、そしてその護り手と契約を結んだ者、つまり受け入れた者は護り手を吸収する事で、新たな護り手として新生をする……【真人(トゥレイオ)】…それが今の俺だ……。レムとは、ギエルハイムの言葉で【始まり】を意味し、つまり新たに生まれ変わった俺にピッタリの名ってわけさ。俺という一人称は、レイヴァンの名残かもしれない。」

「それって、まさかアッチの人間の仕業じゃねえのか?!」

「そうかもしれない……どうやら、俺には自身でも知らない秘密があるのかもしれない……レイヴァンが俺の中で眠っていたのも……俺が短期間であんなに強くなったのも……。」

暫しの静寂が辺りを包んだ。分からない事が多すぎて、混乱している……。俺は一体……誰なんだ……?

「ええい!こうしてても始まらねえ!!つまり、ケイスはレムになって、強くなった!!レイヴァンは居ない!これでいいじゃねえか!!細かいことは後で考えようぜ!」

ザイバックがたまりかねた様に大手を振って言った。

「そうですな。真実はシャル殿と共にゲートを閉じに行けば自ずと分かるでしょう。」

ケイナスも納得したように頷いた。

「すまないな。俺の所為で色々と苦労をかける…。」

「何言ってんだ!レムになってもお前は俺の親友だろうが!!」

「そうですぞ!」

「みんな………。」

「よし!そうと決まったら先ずは屋敷に戻ってエレンブラやシャルにこの事を報告しようぜ!」

「そうだな……行こう!」

こうして、俺はトゥレイオとして新生し、レムという名を受けた…。何者かの意図によって……。それが何なのか、俺はそもそも誰なのか……事の真相、アウヴァニアとギエルハイムの関係……それは閉じたゲートにあるに違いない……。俺達は屋敷に戻り、シャルと共に旅に出る事を決め、医務室を後にした……
俺の運命の歯車が、少し回り始めた様な気がする………。
私は驚異的とも呼べる速度で戦士へと変わっていった。粗方の訓練は全てこなして来た。今日はザイバックの試みでいよいよ実践訓練となった。そう……これがレイヴァンを抑える第一歩になる……。

「どうした?不安か?」

「いや、いつもの考え事さ。不思議と恐れは無いよ……。」

「その意気ですぞ。自信は力になります故。」

「ま、それならイイんだがよ。さて、そろそろ会場に到着だ。きっとウジャウジャ居るぜ♪戦いに飢えた狂犬どもが。」

ザイバックは楽しそうにある場所を指差した。視線を向けると、そこにはカルナムールに唯一存在する道楽施設「コロッセオ」があった。コロッセオは主に賭け事(ギャンブル)に使われる施設で、武道トーナメントなどが主な人気である。まぁ、確かに御誂え向きではあるか……。

「今日はお前にトーナメントに参加してもらうぜ。他の参加者は文字通り戦いに飢えた狂犬がいっぱいだぜ。なんせ賞金が掛かってんだ……あいつ等はこれで飯を食ってる。強いぜ、金が絡むと人って奴は……。」

私はザイバックの言葉に頷くと、コロッセオに足を踏み入れた。
……凄い。受付ロビーには既に溢れかえる様に人が群がっている……この中で私は戦うのか……トーナメント参加者と思しき者の眼は確かに狂気に満ちている……。これが、戦士……。萎縮する私にケイナスが声を掛けてきた。

「どうですかな?あれが戦う者達です。己の力に絶対的な自信を持っているから強い……そしてしぶといんです。」

「どうやらそうみたいだね。眼を見て確信したよ……私も本気で挑まなきゃ、殺される……。」

背筋にゾワッとした変な感覚が走った。寒気とも違う、何か高揚感に近い………。ザイバックは何やら壁に貼ってある紙に見入っている。

「何を、見てるんだ?」

「あ、ああこれか?これはトーナメント表だよ!お前のエントリーは昨日済ませといたから、ホラ!見ろ。」

何!?勝手に済ませていたのか……。どうやら訓練開始当初からこれを計画に入れてたな……。若干腑に落ちなかったが、今更どうこう言っても仕方ない……どれ、表に目を通しておくか……
なるほど、私の最初の相手は【クレイサン】か……って誰なんだ?

「ほう、クレイサンか……。」

ザイバックがニタニタと笑いながら言った。

「知ってるのか?」

「ああ、クレイサン、通称ハンマークラッシャー。鎖に繋がったハンマーで慈悲の欠片も無く打ち砕く、まぁ殺人鬼みたいな奴だ……。俺も騎士団に入る前に一度戦ってんだ。ま、俺が勝ったけどな♪」

当たり前だろうな……。私にはザイバックに勝てる人間なんて居るとは思えない……彼は戦いの風が見えるんだ……。

「では、第一戦を開始する!クレイサン!ケイス!は競技場に!」

来た……いよいよ実践だ……。ザイバック達の声援を背に受け、私は競技場に入った…………。

「な、なんだ?!」

競技場に入った瞬間、私は狼狽してしまった。地響きの様な大歓声が沸きあがり、360度観客で埋め尽くされている……。

「では、これよりケイス・アルムナスとクレイサン・カイルの試合を始める。両者、前へ!!」

「ヘヘヘヘヘ……今日はお前が餌食になってくれるか……。」

「お手柔らかに頼むよ。」

私には恐怖や不安といったものは無かった。そう、レイヴァンに支配されるより怖いものなど存在しない……。

「両者武器を取れ………始め!!」

大きな大砲の音が響き、戦いの火蓋が切って落とされた。私は雪凪の柄に手を添えてジリジリと間合いを計った。居合いを決めるには後もう半歩の距離が居る。

「おいおい、どうした?仕掛けねえのか?なら、俺からいくぜ!」

クレイサンはブンブンと巨大なハンマーを回し始めた。距離にして三メートル……ハンマーを当てるにはもう少し近づかねばならないはずだ。
私はクレイサンの足元に神経を集中させた………。

「ホラよ!!」

大きく一歩を踏み出すと、クレイサンの手からハンマーが放たれた。

「今だ!!」

私は飛んできたハンマーを瞬時に交わして間合いを一気に詰め、懐ががら空きになったクレイサンの腹部に一閃を走らせた。

「ん?どうした?何かしたか?」

「ちょっとね、君のお腹を切開させて貰ったよ。」

「何バカな事………!!?……ぐわぁっ!!」

体を捻ってコチラを振り返ったクレイサンの腹部から勢い良く血飛沫が舞った。苦痛に顔を歪めるとクレイサンは呆気なく倒れてしまった……。これが、殺人鬼??全く弱い……。私は自分の力がこれ程までに付いているとは、正直驚きだった。観客も全員何が起こったのかを理解できずにポカンとしている。

「勝者!!ケイス・アルムナス!!」

その言葉に、漸く会場が戦いの終了を把握した様に沸き返った。
こうして私の初陣は勝利で飾られた………。その後も私は自分でも恐ろしいほどに次々と対戦相手を薙ぎ倒していった。そして………遂に、決勝まで来てしまった。ザイバックやケイナスは心底嬉しそうにしていたが、私にはどうも解せなかった。私は一ヶ月程度の訓練でここまで来ている。仮にも対戦相手はザイバックを唸らせる程の実力者ばかりだ。幾ら訓練の内容が通常よりも数倍厳しかったとはいえ、これはあまりに強くなり過ぎだ…。

「では決勝を始める!両選手は前へ!!」

私の懸念を他所に、無常にも試合の開始は告げられた。対戦者は
【ケント・クラブル】と言って、レンブラント王国と肩を並べる大国【ドレケイティア】の出身で、レンブラント王国内でも有名な凄腕剣士である。

「さてと、お手並み拝見といこうか。」

ケントは背中の愛剣【クレヴァライズ】に手を掛けてその場に静止した。私は雪凪に指を添えると、ケントににじり寄った。凄い威圧感だ。指が震えて居合いが出来ない。……!!……くっ!こんな時に頭痛だと?……いや、違う、この感覚は……レイヴァン!!……。

「どうした?仕掛けないのならコチラから行くぞ……。」

どうして、出て来た……。どうして?ひでえじゃねえか…。お前は俺を受け入れたハズだぜ?なのにこんな楽しいパーティーに俺を呼ばないなんてよぉ……。止めろ!お前は殺戮しか生まない……。いいじゃねえか……静寂の巫女さえ無事ならイイんだよ……。後は俺の飢えを満たす為の道具だ。……くっ!!私はお前など認めない……。殺戮を糧にするなど……絶対に許さん。……!!何だ?何て力だ?!……うおっ!?俺が、俺の意識が……。まさか、お前……俺を吸収する気か?!……もし、それでお前が消滅するなら…やってやる!……止めろ!!そんな事をしたらお前は人じゃ無くなるぞ!!……構わない…。お前をこのまま野放しにするよりもマシだ。……止めろ、止めろぉぉぉぉぉぉぉ!!………。レイヴァンの声は消えた。体が熱い…。レイヴァンの存在は消えた……。私は……レイヴァンを吸収したのか……これで、私は人じゃ無い………人じゃ…………。

「おい!大丈夫か?」

「………ん?ここは……。」

「ここは医務室だよ!ケイス、お前突然倒れてどうしたんだよ!?」

そうか……レイヴァンを吸収した後、私は気を失ったのか……。

「それに、ケイス……お前、何があった?顔が変わってるぞ。」

「何?顔が……!!まさか、鏡は!?」

「ここだ!ホレ!」

ザイバックの差し出した鏡に映っていたのは私の面影を残した別人だった……。吸収の業……なのか?………。

ついに!!

2004年9月3日 日常
やったーーー!!俺はついに手に入れたでーー!!

今日からマ王!のOP&ED曲!!

探しに探して漸く、大手ショッピングモールに勢いを奪われた店で一枚だけ残っていたのを発見したのであります♪
ロイ「今日は、大総統自ら、この東方支部へ偵察に来られる!」

ハボック「ええ〜っ!?マジですか?」

ロイ「私は嘘など付かん!お前達の様な野郎に付くだけ大損だ!」

ハボック「…………。」

ホークアイ「大佐、大総統がお見えになりました。」

ロイ「そうか。よし!みんな、敬礼で迎えるぞ!!」

ブラッドレイ「おお!諸君、ごくろうさん。」

アームストロング「大総統、長旅でお疲れでしょうから、お休みになられては……。」

ブラッドレイ「ワーッハッハッハ!!私なら心配せんでいい。ところで、鋼のチビ君は?」

ロイ「は!?エドワード・エルリックですか?」

ブラッドレイ「そうだ。」

ロイ「生憎ですが、今日は任務で此処にはおりません。」

ブラッドレイ「な!?何?……それは本当か?」

ロイ「は、はぁ……。」

ブラッドレイ「折角、秘蔵コレクションの中から幾つか持ってきたというのに……。」

ロイ「秘蔵…ですか?」

ブラッドレイ「見たいかね?」

ロイ「え、ええ……。」

ブラッドレイ「なに、大した事は無いが…ホレ。」

ロイ「!!!!(バニーガールにアニメのコスプレ…ウェイトレスにチャイナドレスだと?)」

ブラッドレイ「そうか……おらんのか…それは残念…それじゃ…
ホークアイ中佐……これに着替えなさい。」

ホークアイ「!!!!!」

ロイ「!!」

ブラッドレイ「どうした?私の言う事は聞けないのかね?」

ホークアイ「わ、分かりました……。」

ロイ「大総統……ロイ・マスタング!!一生あなたに着いて行きます!!」

ブラッドレイ「ワーッハッハッハッ!!君も好きだなぁ!!」

ハボック「(エロ親父に、エロ大佐め……。)」

END

季節が変わり

2004年9月2日 日常
季節もいよいよ秋!朝晩の冷え込みが中々心地良く感じております。作業も捗り易く、「めっちゃエエ季節やなぁ…。」なんて一人で浸ってます(^▽^)/

そろそろ「狼狽」第十一章・「十六夜草子」第一幕其の弐を掲載したいと思っておりますんで、どうぞお楽しみに!!
エド「なぁ、昼飯どうする?」

アル「う〜ん……兄さんが好きなトコでいいよ。僕は食べれないから。」

エド「あ!ご、ごめん。アル…。」

アル「いいって。」

町人「うわーーーーー!!」

エド&アル「!!!」

エド「おい!何があった!?」

町人「今、路地の隅で、錬金術師が、傷の男に!!」

アル「兄さん!!きっとスカーさんだ!」

エド「あんにゃろ!!」

スカー「神に背きし錬金術師よ……永久(とこしえ)の眠りの中で懺悔せよ。」

エド「おい!!お前、いい加減にしろよ。」

アル「兄さん!」

エド「黙ってろアル……お前、人の命を何だと思ってんだ…。」

スカー「再び見え様とはな、鋼の錬金術師よ……。」

エド「大体、お前の破壊の手も、錬金術なんだろ……。」

スカー「そうだ。俺は自ら業を背負い生きる事を選んだ。全ては錬金術師を破壊する為……この腕に刻まれし紋様に懸けて。」

アル「うわー!凄い、模様がビッシリだ、。」

エド「フフフフハーっハッハッハッ!!見破ったり、スカー!」

アル「に、兄さん?」

エド「お前のその腕、それは刺青だな!!つまり、お前は【ヤクザの錬金術師】だ!!」

アル「!!」

スカー「…………死ぬがいい…。」

エド「ぬわぁにぃ!!?違うのかぁ??!!」

アル「当たり前だろ!!ヤクザのなんてダッサイし!!」

エド「うるせえ!!黙って逃げろ!!」

スカー「………(ヤクザの…か、今度名乗ってみるか。)」

END
夜もすっかり帳を降ろし、街は顔色を一変して、大人の世界にう移ろいで行く中、俺は残り二人まで、何とか理性を残すことが出来た。後は、妹の秋葉と、使用人の琥珀さんだ。さて、誰を選ぼうか……。よし、秋葉にしよう。秋葉に何時までもあんな姿を晒していたんじゃ、可哀想だ。

志貴「それじゃ、秋葉。」

秋葉「わ、私の番ですね……分かりました。」

秋葉の少し物寂しげな表情に、何だか罪悪感が生まれた。俺は、妹の前でいろんな醜態を晒して、何をやってんだか……。

琥珀「秋葉様は、どの様なシチュエーションで?」

秋葉「えっと……その、私は……。」

秋葉の慌てて顔を上気させている姿に、俺はもう居ても立っても居られなくなった。

志貴「秋葉……コッチにおいで。」

秋葉「え?に、兄さん?」

志貴「いいから、ホラ。横においで。」

俺のいつもとは違う雰囲気に戸惑いを見せた秋葉だったが、自分では特にこれと言ったシチュエーションを考えていなかったらしく、コクリと頷くと、俺の横に体を強張らせながら座った。

志貴「……ごめんな。秋葉!!」

俺は秋葉をグッと抱き寄せると、自分でもワケが分からない内に涙が溢れていた。ただ、秋葉に謝りたい。血を分けた、たった一人の妹の目の前で俺は、あんな事を……。俺は自分が情けなくて、悔しかった。

秋葉「に、兄さん?!……どうしたの?」

志貴「ごめんな……ごめんな……。辛かったよな……兄貴が目の前であんな風に……ごめん……ごめんよ秋葉……。」

秋葉「!!……に、兄さん……私、私……う、うわぁぁぁん!」

秋葉が泣いた……。大声を上げて泣いた………。俺の腕の中で身を震わせて、すがる様に泣いた。

志貴「俺って、バカだから……お前がどんな気持ちで見てたかなんて、気付かなくってさ……。悔しいよ……情けないよ……。」

俺の目からは更に涙が溢れて止まらなかった。幼少時代も秋葉を遠野の屋敷に置いて、有間に移った癖に……今日もまたこんな苦しくて辛い思いを秋葉にさせている……。最低の兄貴と敬遠されても当たり前だろうな……。

志貴「俺を、嫌ってくれて構わないよ……俺はお前に幼少時代も、そして今日も辛い目を見せた。こんな、こんな兄貴なんて……うぅ……。」

秋葉「いいよ……気にしてないよ……。私は、兄さんの事、ずっと、昔からずっと好きだから……だから、だから……泣かないで……兄さんが泣いてると、私だって……うぅ、うわーーーん。」

秋葉が俺の為に泣いてくれてる……。こんな最低の兄貴を好きだって……。胸がズキリと痛んだ。ギュウっと締め付けられて、俺は秋葉をひたすら抱き締めた。

志貴「秋葉………。こんな男でも……慕ってくれるのか?」

秋葉「当たり前だよ……ぐすっ…だって、お兄ちゃんは、秋葉のたった一人のお兄ちゃんだから………。うぅ……ごめんね、意地っぱりで……ごめんね……冷たくしたりして……うぁぁぁぁ!」

泣きじゃくる秋葉を俺は更にグッと抱き寄せた。俺の所為で、秋葉は一人ぼっちになったのに……秋葉は俺に謝ってる……。冷たい態度を取られて然るべきはずの俺に、秋葉は冷たくしてごめんねと言っている……溢れる涙は更に洪水のように俺の頬を伝った。唇を噛み締め、必死に声押し殺して、俺は泣いた…。

志貴「ごめん……ごめん……。」

ただその一言しか言えなくて、俺はもどかしかった。こんな事しか俺には言えないし、言う資格なんてない……。なのに、秋葉はただひたすらに俺を許してくれる……。くそ……何でだよ!……何で俺を罵倒しないんだ!……何でこんなにも直向に俺を好いてくれるんだよ………苦しいよ……胸が締め付けられるよ…。

秋葉「もう少しでいいから、お兄ちゃんの腕の中で泣いていい?」

志貴「ああ、いくらでも泣いていいよ。俺の大切な秋葉…。」

秋葉「うぅ…お兄ちゃん……寂しかったよぉ!辛かったよぉ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん………。」

秋葉は涙が枯れるまで俺の腕の中で泣いた。俺はその姿がとても辛くて見れなかった。いや、溢れる涙で視界が遮られ、ただ抱き締めてやる事しか出来なかった……。

琥珀「うぅぅぅ……感動ですぅぅ。」

アルク「うわぁぁぁん…良かったね、良かったねぇ志貴ーー!」

弓塚「うぅっ……私、こういうの弱いんだよね…。」

シエル「これは、邪魔するわけにはいきませんね。」

シオン「ええ、そうですね。」

琥珀「うぅぅぅぅ……もう、ゲームは終わりにしましょう。」

琥珀さん達は、知らない間に帰っていた。部屋には、俺と秋葉だけが残っていた。どうやら、琥珀さんもゲーム続行は断念したみたいだ。

志貴「秋葉、今日は一緒に俺が居るから。」

秋葉「うん……もう、離れちゃイヤだよ……お兄ちゃん…。」

志貴「ああ、ずっとずっと、一緒だ。」

秋葉「ね、お兄ちゃん……。」

志貴「ん?」

秋葉「……ダイスキ!……。」

……こうして、俺は、かけがえの無い存在に気付く事が出来た。
身近に居たのに、逆に近すぎて見失っていたもの……。気付くのは遅かったけど、それでも構わない……。嫌なゲームだと思っていたけど、今はちょっと、感謝したいな……。

END

やっとの思い

2004年8月30日 日常
やっと、十六夜を掲載できました。他の小説の事情が重なって、中々掲載する暇が無かったんですが、今日、漸く、掲載に漕ぎ着けました。
三日月が紅く不気味に衒い、街は静寂と混沌に包まれた。

青年はビルの屋上にスックと立ち、眼下に広がる鬱蒼とした人間の群れに一瞥を下すと、踵を返して背後の気配に睨みを利かせた。

「俺の“コレ”が狙いなんだろ?」

青年は背中に挿してある刀を鞘から引き抜くと、キラリと紅く不気味な月明かりに刃を向けた。

「そうだ。大人しく【十六夜の剣】を渡せ。俺は無駄な犠牲を出したくない……。」

気配はカツカツと小気味良い靴音を鳴らし、月明かりの下に身を晒した。黒いスーツに身を包んだ三十路程の男が一人。手には拳銃が握られていた。男は野卑な笑いを浮かべると、拳銃を突き出し、青年に諭すように言葉を投げた。

「君も分かるだろう?いくら刀身が長くとも、この距離での抵抗は、自殺行為だよ。さぁ、大人しく渡すんだ。」

男の声に青年はニヤッと不気味な笑みを零した。まるで、今の状況を楽しんでいるかの様に……。

「分かっていないのはアンタだよ。俺に猶予を与えたんだから。」

「ふん、何を言って……。」

男が嘲笑するよりも速く、青年の姿は消えていた。

「??ど、どこだ!?」

男は慌てて辺りを見回した。手が震え、その身は恐怖に彩られていた。眼前で青年が一瞬にして消えた……手品かはたまたSFの世界の様な非現実を現実として目の当たりにした驚愕と狼狽は察するに余りあった。

「ここだよ。ホラ。」

男はバッと声の方に身を向けると、少し落ち着きを取り戻したらしく、再び拳銃を突きつけた。

「おいおい、おふざけも大概にしないとな……。コッチもあんまし気は長くねえんだよ、ボウヤ。」

拳銃のトリガーに手を掛けると、男はある異変に気付いた。目の前にあるハズの拳銃が無い……。いや、肘から先が無い……。
男は何が起きたのかも分からずに目線を落とすと、そこには拳銃のトリガーに手を掛けた状態で転がっている肘から先があった。

「あらら、あんまし動かない方がいいよ。アンタもう斬り刻まれてんだから……。」

「え?お、俺の腕が……ヒィーーーーーーーー!!!!」

男はあられもない大声で悲鳴を上げた。苦痛と恐怖に顔を歪め、青年の凶気に満ちた笑顔に思わず逃げ出してしまった。

「う、うわーーー!!!コイツ、バケモノだーーー!!」

「あ〜あ、動いちゃったか。残念……。」

逃げ出した男の体は、男が一歩一歩進む度に、在るべき位置からずれて行った。男は悲鳴と断末魔を上げ、間も無くして、肉塊と化した……。切断面からはジワジワと紅い血が染み出し、まるで今宵の月明かりの様だった。

「今宵の十六夜夜業は終了っと。さてと、帰宅するか。」

青年は刀を鞘に戻すと、ビル群の中をまるで忍者の様に飛び継いで行った………。

ジリリリリリリ……うるさい目覚ましの音で、青年は起きた。

「ふ、ふあぁぁぁ。ん〜最悪な目覚めだな。」

青年は寝ぼけ眼のまま洗面台に立ち、洗顔、うがいを終える頃にはすっかり目が覚めていた。

「あら、誄くん、おはよう。」

不意に誄の背後から優しく甘い声が聞こえて来た。

「ああ、おはよう!庵樹さん。」

庵樹と呼ばれた、日本人形の様に清純で綺麗な女性は、姓を群雲と言い、誄が神楽家から移って来た時から実の弟の様に誄を可愛がっている人である。そもそも、誄の実家である神楽と、庵樹の群雲は、先祖代々の繋がりがある分家筋の様なもので、誄の父で、誄の幼少期に【十六夜の剣】を残して他界してしまった【神楽 修也】の意思により、誄は群雲家で6歳から育てられたのであった。

「今日はお休みなのに、どこかお出掛け?」

「ん?あ、ああ。ちょっとね……鈴音の奴が買い物に付き合えってうるさいから…。」

庵樹には、誄と同い年の妹、群雲 鈴音(むらくも すずね)がいた。庵樹が大人しく優しいのに対し、鈴音は明朗快活で破天荒な性格だと誄は常々愚痴っていた。

「あら、鈴ったら……誄くんを使いっぱしりにして……。」

ぷうっと頬を膨らませて庵樹は怒った。ぷんぷんと言う擬音が良く似合うその怒り方に、誄は少なからず可愛さを感じていた。

「誄ーーーー!起きたぁ?」

鈴音の声が不意に響いた。誄は素っ気無く返事をすると、庵樹の肩を押しながら食卓までイソイソと歩いていった。庵樹は食卓に着くと、テキパキと朝食の用意を始めた。時刻は8時を少し回っていた…。我ながら今日は早起きだなと誄は一人、満足感に浸りながら朝のニュースに目を遣った。

「今朝、入ったニュースです!都内の某ビルの屋上で、肉塊となった男性が、職員に発見されました。切断面がとても綺麗で、警察も、非現実的な死に方に、未曾有の恐怖を募らせている模様です。」

「ふ〜ん、怖い話だな。庵樹さんも気を付けないとね。」

「本当ね。あまり夜遅くは出歩かない様にしなくちゃ。」

「そんなの、私の【七星】の力でやっつけちゃうんだから。」

何時の間に席に着いたのか、鈴音が首にぶら下がった玉のネックレスを掴んで得意げに胸を張っていた。

「止めとけよ。こういう事件には関わらないに越した事は無いぜ…。」

誄は呆れ顔で鈴音を諭す様に言った。鈴音は不満げにムスッと顔をしかめると、手をヒラヒラさせて言った。

「誄だって、【十六夜の剣】があるでしょ?」

「あのなぁ、確かに俺は免許皆伝だ。でも、無駄に身を危険に晒せるかっつうの!大体、犯人の手口を聞いたか?切断面が綺麗なんだぜ?!普通の刃物じゃ絶対無理なんだぞ。」

身をブルブルと震わせて誄は鈴音を見た。その顔には余計な事は絶対するなと言わんばかりに真に迫っている。

「わ、分かったわよ。ほっとけばいいんでしょ?」

「そう言う事!」

納得がいったのか誄はウンウンと頷くと、朝食を取り始めた。鈴音はまだ納得がいかない様子で、何度も何か言いたげに誄を見遣った。一方、誄はそんな鈴音などお構いなしと言った様に、芸能ニュースに目を奪われていた。

「鈴…。早く食べないと、今日は誄くんと買い物なんでしょ?」

庵樹の言葉にハッと思い出したように鈴音は朝食を大急ぎで済ませると、自室に足早に駆けて行った。

「ん?鈴音の奴……どうしたんだろ?」

「ウフフ、鈴も女の子なのよ……。」

「????」

誄は庵樹の言葉の意味を模索しながら、再び芸能ニュースに視線を遣った。すると思考回路は直ぐに模索を止めて、学校での芸能ネタ集めに没頭してしまった。

「お待たせ!さ、誄。そろそろ行くよ!」

あれから30分程経ち、朝食を済ませゆっくりと寛ぐ誄と庵樹の前に、見たことも無い格好で鈴音が現れた。

「お、おい!何だよそのミニスカートは……。お前、今までずっとジーパンとかだっただろ?」

誄の慌てた様子にニヤっと含み笑いを浮かべた鈴音を庵樹が愛おしそうに見つめて来た。

「ああ、可愛い!!鈴、スッゴク可愛いわよ。お姉ちゃん、食べちゃいそう……。」

「エヘ、そうか、な?」

照れる鈴音を見て、庵樹は益々興奮したのか、隣りに居た誄の肩をバンバンと勢い良く叩いて萌えている。

「いや〜ん!可愛い〜!」

「痛い、痛いって!!お、おい鈴音、さっさと買い物に行こうぜ!!このままじゃ庵樹さんに撲殺される……。」

誄は庵樹から逃げるようにして鈴音を引っ張り、一目散に飛び出した。

「あ〜、死ぬかと思った。」

「さ!今日はとことん行くわよ!!」

「お手柔らかに………。」

こうして二人は買い物へと出掛けた。その背後に迫る人影に気付かずに…。
日がすっかりと落ちてしまった。琥珀さんの計らいで、場所を移しての続行となった。暫く見慣れぬ路地を歩いていくと、そこには大変に危なげな看板が目に止まった。―ホテル:愛の巣―
……これは、絶対ラブホテルだぁーー!!

琥珀「夜の部ではここが舞台です♪残ってるのは、私と、秋葉様と、シオンさんですね。」

秋葉「こ、ここって……その……えっと……。」

アルク「ラブホだよね〜。ぷー!ズルイじゃん。」

弓塚「え?!こんなトコに?……。」

志貴「ね、ねえ…琥珀さん。これはマズイんじゃない?俺も弓塚も学生だし、さ。」

琥珀「大丈夫です♪だって、ここは私の所有するホテルですから。」

え?!琥珀さんが……??……何故だ?何故なんだ?この人のバックボーンには何が……。

琥珀「どうしました?」

志貴「い、いや、何でもない……。」

琥珀「それじゃ、入りましょうか。」

琥珀さんに案内された部屋に入ると、そこは正にエロチックな雰囲気全開の部屋だった。間接照明はピンクだし、何かベッドはシルクのサラサラしたやつだ……。一緒に入れるジャグジーに、何やら怪しげなタンスが一棹……。恐る恐る俺はタンスの引き出しを開けた。すると、一段目にはとてもエロいランジェリーがビッシリと詰まっている。慌てて二段目を開けると、今度は大人の玩具が!!………自分でも分かる位顔を高潮させながら俺は三段目を開けた。すると……なんだ?これは?ビン、だよな…。

琥珀「ああ、それは媚薬ですよ♪志貴さん。」

志貴「あの…琥珀さん……俺、やっぱ帰っていいすか?」

琥珀「ダメですよ!!」

志貴「だって、媚薬とかもし飲み物に混ぜてあったらどうすんですか?!俺だって我慢ってもんが……。」

琥珀「大丈夫ですよ!媚薬は反則ですから♪」

そういう問題じゃ無い様な……ま、いいや。全員に付き合ってやるまでは帰れないんだろうし……。だったらそうだな、シオン辺りでいいか……。コイツは別にそう言う事に興味なんて無いだろうし……。

志貴「それじゃ、さっさと終らせて帰らせてもらうよ。次の挑戦者は、シオンでお願いする。」

シオンは自分の名前が指名され、何やら少し慌てた様だ。

シオン「わ、私の番が回ってきたんですね。分かりました。志貴、お相手しましょう。」

志貴「お手柔らかに……。」

琥珀「それじゃあ、シオンさんはどんなシチュエーションで?」

シオン「私のエーテライトで志貴の第四番から十二番回路までを…。」

志貴「コラコラコラ!!そんなのダメだ!!」

シオン「冗談ですよ……。そんな背徳的な事、私は純粋に志貴に喜んで欲しいから……。」

志貴「え?!」

シオンの口から出た意外な言葉に思わずドキッとした。シオンの顔はうっすらと上気し、瞳には潤いが浮かんできた。恍惚とした表情のままシオンは俺に近づくと、覆い被さるようにして、ベッドを背にした俺にしな垂れかかって来た。ムニュっと柔らかい感触が体に伝わった。

志貴「シ、シオン?!」

シオン「私…おかしいんです。……他の挑戦者の方々を見ていたら……感情に乱れが生じて……胸が切ないんです。志貴……。」

志貴「俺にどうしろと?」

シオン「揉んで下さい…。」

俺はシオンの切なそうな顔を見ると、どうしても断る事が出来なかった…。あ〜あ……俺ってお人よしだよな……。愚痴を零しながら俺はシオンの柔らかい二つの膨らみを掴むと、円を描くように揉んでいった。

シオン「あ!……くぁ……へ、変になりそう…です。」

志貴「それが、気持ちイイって事だ。」

シオン「これが……気持ちがイイって事ですか?……胸が切なくって、奥がジンジンして熱い……。」

ん?そういや俺、もう抵抗してないな。ていうか逆に積極的に交わろうとしてる気が……。

シオン「もう、ダメです。志貴…アソコが…ムズムズ…します。」

快感に顔を歪めると、シオンは一糸纏わぬ姿になった。白くて艶やかな肢体が俺の腕の中で胸を揉まれて善がっている……。それも良く良く秘所の方を見れば、濡れてきているのが分かる……。俺はもう理性なんてすっかり無かった。ただ、シオンを抱きたい。それだけに思考回路は働いていた。

志貴「もう濡れてるよ。シオンはエッチだな。」

シオン「いや、そんな……恥ずかしい事を言わないで下さい。」

照れて身を捩るシオンが何とも可愛く見える。さて、そろそろ秘所へ……。俺は既に元気になったジュニアを入れたくて仕方なかった。口付けを強く交わすと、シオンを仰向けにした。

志貴「そろそろ……いいか?」

シオン「もう……我慢できない……来て…下さい。」

秋葉「に、兄さん……。」

アルク「えーー!そんなぁ。ズルイよシオン!!」

互いの合意の下、俺とシオンは結ばれる事に………。ん?何だ?背中に物凄い寒さを……。

ワラキアの夜「フフフフフフ、今宵、ワラキアの象る姿は……。」

志貴「ウわーーーーーーーーー!!!!!!」

シオン「チッ!よくも私と志貴の大事な契りを……!!」

アルク「ここは任せなさい!!消え去れ!!」

ズバアッッ!……ものの数秒でワラキアの姿は引き裂かれた。
一体、何だったんだ??はぁ、これはアルクに助けられたのか?それともワラキアに………ま、どっちにしてもこれでシオンのチャレンジは終了だな。都古ちゃん!お兄ちゃんは何とか操を守ったよ!!って本当はスル気だったんだけど………。にしても、ドンドンエスカレートしていってるな。後は、琥珀さんと秋葉か……秋葉は兄弟だからな、多分大丈夫だろ……。問題は琥珀さんだ。彼女の本質を俺はまだ知らない……。妙な寒気がゾクッと走った。

琥珀「はい!シオンさん終了〜♪」

シオン「ああ!もう……邪魔さえなければ……。」

志貴「ハ、ハハ……。」

コイツら洒落にならんな……本気で交われなかった事を悔しがってるなんて………。不安が募る中、俺は次の挑戦者を指名することとなった………。

志貴「神様……いや、蒼子先生……助けて…。」

to be continue……
いや〜第十章が掲載できました!!この章ではケイスの急変振りが目に付いた事とおもいます。実はですね、彼はレイヴァンを受け入れまいたよね。それが彼の急成長の一番の理由なんです。そうですね……この事は12章(未掲載)あたりに書いてあるんです。……ですのでどうぞお楽しみに!!
―パーティーから一夜明け、私は騒々しい音で目が覚めた。

「どうしたんだ?こんな朝早くから……。」

眠っているエレンブラを起こさない様、そっとベッドから離れると、寝ぼけ眼を擦って音のする中庭に出向いた。

「おう!起きたかケイス。お前も早く顔洗ってこいよ。」

そこにはザイバックとケイナスが剣の訓練をしていた。そうか、昨日約束したんだっけ……剣の教えを請うと……。よし、顔を洗って来るか…。私は部屋に戻り、着替えを済ませると顔を洗って再び中庭に出向いた。

「で、私は何から始めればいいんだ?」

「そうですな、まずはこれを。」

そう言ってケイナスが私に細長い筒を渡した。

「……これは?」

不思議そうに問う私を、ザイバックは呆れた様に見た。

「おいおい……それは刀だよ。鞘に収まってんだよ。」

鞘?……ああ、そうか。あまりに細いんで気付かなかった。ザイバック達の鞘は平たいから……。

「それは【雪凪】。ケイス殿の刀です。」

「え?貰ってもいいのかい?」

「当然です!自分の刀も持たぬ剣士などおりませぬ。」

「でも、高価な物なんじゃ……。」

「心配すんなって!ケイナスがやるって言ってんだ。」

「そうですよ。拙者は是非、受け取って欲しいんです。」

「そ、そうか……ありがとう。大切にするよ。」

凄い…これが刀か。芸術品だな……。スラッと長い刀身は美しく銀に輝き、鞘は細かな装飾が施されている。

「さてと、んじゃ始めるか!!朝食までに、まず基本的な事を覚えてもらうぜ!!」

「では、まずは拙者が刀の扱い方を……。」

よし、私は必ずこの【雪凪】をモノにしてみせる。固い決意を今一度確認し、私の訓練は始まった………。

「まず、刀は刃が片方しかありませぬ。そう、この曲がっていて波模様が付いている薄い部分です。ここでしか斬る事は出来ませぬ。」

「じゃあ、背の部分は何に使うのかな?」

「刃の反対側の背の部分、これは【峰】といって、相手に打撃を与える時に使います。例えば、相手を殺さず、気絶させたい時は峰の部分で相手の後頭部を打ち付けて気絶させます。これを【峰打ち】と言います。」

なるほど。刀はブレードの様に相手を打ち倒す事のみを目的に作られているワケでは無いと……。つまり、無駄な犠牲を極力削減出来ると言うワケだ……。

「次に、刀は叩きつけるだけでは斬れませぬ。刀がその世界最高の切れ味を発揮するには、斬りたい箇所に刀の刃を当てたら、引かなくてはいけませぬ。」

【ブレード】が叩きつけて骨ごと砕いて相手を殺すのに対して、刀はあくまで局所的に相手を切り刻むというわけか。

「斬った際に注意せねばならぬのは、返り血です。刀は切断する武器です。故に切断箇所からは勢い良く血が出ます。刀を引いて斬ったらば、素早く身を後ろにずらして返り血が目に入らぬ様、注意して頂きたい。」

「どうだ?刀の事、分かってきたか?」

「ああ、何と言うか……扱うのに数年を要する理由が分かったよ。戦闘技術がかなり要るみたいだね。」

ザイバックは私の答えに納得したのかうんうんと頷くと、自慢げに鼻を鳴らした。

「フン!流石ケイス!よく分かってんじゃねえか。だったら、まず自分が身に付けるべき事は……分かるだろ?」

「ああ、まずは基礎的な剣の技術が必要だ。ザイバック、頼む。」

「おう!そうだな、まずは腕立て伏せ300回!!」

「何?何で腕立て伏せなんだ?」

「おいおい、ケイス、刀や剣は腕の筋力が無きゃ自在に振れないんだぜ。お前は体力に自信が無いんだろ?だったら当分は基礎体力を作らなきゃな♪ホラ!始め!!」

……どうやら、私の考えが甘かったみたいだ。ザイバックやケイナスもこういう地道な下積みがあったから、今みたいに立派な剣士になったんだ。私だけいきなり刀の訓練にいけるハズが無いんだ……。自分の認識の甘さに僅かな自己嫌悪を抱きつつも、私は黙々と基礎体力作りに励んだ。………雨の日も、風の日も……。

―基礎体力作りを始めて10日経った。

「よし!大体いいだろ!しっかし、よく付いて来れたな。俺達は通常の倍以上の量でカリキュラム組んでたんだよ。ケイス……お前、すげえな。普通の兵士でも音を上げるぜ。」

「え?……私がこなしていた訓練は……通常の倍以上の過酷さだったのか?」

「ええ、早くケイス殿に刀の訓練に移って貰いたく思いましてな。拙者達も、五日が限界かと踏んでいたんですが、まさか全部こなしてしまうとは思いませんでした。やはり、ケイス殿には剣士としての素質がおありだ。」

「うっし!それじゃ今日から剣を使った訓練だ!ケイス、雪凪を抜いてみろ。」

「あ、ああ。」

「よし、それじゃ試しに振ってみ。多分恐ろしく軽く感じるはずだぜ♪」

そんなバカな。腰に下げているだけでズシリと重みが伝わって来ると言うのに……。私は半信半疑のまま刀を鞘から引き抜いた。

「な……そんな……か、軽い!!まるで紙の様に軽い!!」

刀を振ってみるが全く重みを感じない。凄い!!自在に動くぞ!!

「ありがとう!ザイバック、ケイナス!まさか私にここまで筋力が付くなんて……。」

「おいおい、まだお礼を言うには早いぜ!こっから訓練は本番なんだからよ!」

「そうですぞ。では、先ずは基本的な型を、そして足裁きをお教え致します。しっかりと付いて来てくだされ。」

「ああ!お願いするよ。」

私はただ無我夢中で訓練を消化していった。自分でもどこまで体力が保つのか分からなかったが、今はそんな悠長な事は言ってる場合じゃない。一刻も早く、剣士として……。そして、レイヴァンを制御できる力を……。

―訓練開始から20日目……。

私は刀の型、足裁き、相手の攻撃の受け流しや裁き方をほぼ体得していた。体力のほうも、一日40kmは軽く走れるまでになった。ザイバック達も正直驚いているらしい。常人じゃ在り得ない速度で私は剣士としての階段を駆け上がっているらしいのだ。
これも、全てはシャルを守りたい、レイヴァンの力を制御したいという想いが後押ししてくれているからだろう……。今日からは、実際に腕利きの剣士を募っての実践訓練に移るらしい。漸く、漸く実践まで漕ぎ着けた。【雪凪】も既に私の体の一部の様になっている。コンディションもベストだ。今までの私なら在り得ない事だが、今の私は自信を持ち始めていた。

「今日は試合なんだよね?あんまし無理しないでよ。ケイスに何かあったら、ボク……。」

「分かってるよ。私は絶対勝つよ。だからエレンブラは応援していてくれ。」

心配そうに体を寄せて来るエレンブラをギュッと抱き寄せると、私は頬に口づけをして部屋を後にした。

「おう!それじゃ、記念すべき実践といくか♪」

「ケイス殿には戦場で戦果を挙げられる程の技術は叩き込みました故、自信を持って下され。」

「ああ、私はまだ剣士としては未熟だ。でも、精一杯やれるだけはやるつもりさ。」

「そうだ!よく言ったぜ!!短期間での急成長に少しは天狗になってるかと心配したけど、どうやら余計なお世話だったみたいだな♪」

…………こうして、私は剣士としての腕を確かめる為、戦いに飢えた戦士達の中へと飛び込んでいく事になった………。待っていろ、レイヴァン。私は二度と過ちは繰り返さない!繰り返させない!!

To be continue……
ザイバック「ようし!今日は、返し斬りの練習だ。」

ケイナス「それは名案ですな。」

ケイス「ん?どうしてだい?」

ザイバック「あん?ケイス、お前はまだ訓練初めて間もないから分かんねえんだよ。」

ケイナス「拙者がお教え致しましょう。まず、返し斬りは刀を上段に構え、さっと振り下ろし、またさっと斬り上げる。どうです?簡単でしょう?」

ケイス「こ、こうかい?」

ザイバック「随分とぎこちないけど、まぁそんなもんだな。後はもっと剣筋をビシッと垂直にして、左右へのブレを無くす。そして何と言っても素早く出来るようにならなきゃな。」

ケイス「ハハ、頑張るよ。」

ケイナス「それでは、実践と参りましょうか。」

ザイバック「そうだな。習うより慣れろってな♪」

ケイス「も、もうかい?それに実践ってどうやって?」

ケイナス「そうですなぁ……お!あれに見えるはエレンブラ殿。丁度良い。今回は彼女にしましょう。」

ザイバック「お♪イイねぇ。それじゃケイス、エレンブラに実践するぞ!」

ケイス「え?!な、何を言ってるんだ?!彼女にそんな事出来るわけ……。」

ザイバック「いいからいいから、ホラ、ゆっくり後ろから近づけよ。」

ケイス「…………。」

ケイナス「そこです!ストップ!」

ケイス「え?だってまだ距離が……。」

ザイバック「いいから、今だ!!」

ケイス「くうっ!ええい!!」

ブワッ!!…

ザイバック「ほう♪今日は黒のスケスケショーツか♪」

ケイナス「いや、中々目の保養になりますな。」

エレンブラ「なに?どうしたの?ケイス……もしかして、ボクのパンツが気になったの?………んもう♪エッチなんだから!」

ケイス「………君たち……。」

友に殺意を抱いたのはその時が最初で最後だった。


END
ふぅ……何とか落ち着いてきたな。日も殆ど落ちかけてるし、ホントにこのままチャレンジを続行するのか……。

琥珀「どうしたんです?志貴さん。早く次の挑戦者を。」

志貴「え?ああ、そ、そうだね。」

次は当然アルクエイドだろ。アイツこそ夜になったら何をするか分かったもんじゃない。

志貴「それじゃ、アルクだな。」

アルク「えーーー!もっと遅く指名してよぉ。」

志貴「うるせえ!俺は大事な体を守らなきゃいけないんだよ!」

アルク「ぷーーーーっ!」

不満そうにアルクは頬を膨らませた。

琥珀「それじゃあ、アルクさんはどんなシチュエーション?」

アルク「自由演技♪」

志貴「おい、何が自由だよ。それじゃシチュエーションゲームにならないじゃ……。」

琥珀「自由ですね。それじゃスタート!!」

へ?普通に始まっちゃったよ……。本来のゲームの意味を失ってるじゃないか……。

アルク「それじゃあ、志貴、ベンチに座って。」

志貴「ん?こうか?」

アルク「そうそう!それじゃあ………んむっ。」

志貴「−−−っ!!」

アルクは俺をベンチに座らせるや否や奇襲攻撃とも言えるディープキスで先制した。一瞬、何が起きたのか把握できなかったが、アルクの顔が異様に接近している事から、間もなくして俺は状況を把握した。

志貴「プハッ……いきなりかよ?アルク、もちっと雰囲気ってモンが………!!」

アルクは有無を言わさず再びキスをしてきた。しかも舌まで入れて……。体を摺り寄せてアルクは切なそうに声を漏らすと、より強く唇を押し付けてきた。……コイツ、マジでやる気みたいだな。……クソ!負けるか……。俺は変な対抗意識を燃やしていた。アルクエイドには好き勝手やらせたくなかった。いや、俺が主導権を掌握したかった。俺はアルクの頭に手を遣ると、グッと押し付けて更に強くキスをした。

アルク「!!……んむぅ…んぐっ!!……くっ…プハァッ!!」

志貴「ハァハァ……いやぁ、苦しかった……。どうだ?アルク。俺がただやられっ放しだと思ったか?これぞ遠野流、唇返し!!」

アルク「ハァ…ハァ…中々やるじゃない。それじゃ、これはどう?」

何だろうな……対抗意識を燃やしてると、理性が保てるぞ。全然本能が、黒い欲望が湧き上がってこない。弓塚の時なんてキスで理性が飛びそうだったのに……こりゃいいや。俺が解決法を見出していると、アルクは胸を俺の顔に当てて、揺すり始めた。突然の事に動揺する俺に、更に拍車をかける様に、アルクは足を絡めて俺の体に乗っかった。甘くてイイ香りが漂ってくる。しかもアルクの体の肉感が直に伝わってきて、かなりヤバイ感じだ。

志貴「ングッ!!く、苦しい……おい、アルク!胸をどけろ!呼吸が出来ない……。」

アルク「あら、そんな事言って、本当はしゃぶり付きたいクセに。」

志貴「本当に苦しいんだよ!……このやろ!」

俺は苦し紛れにアルクの胸を鷲掴みにした。ビクッと体を仰け反らせると、アルクは恍惚とした目で俺を見てきた。

アルク「あ!……あ、はぁ……志貴……大胆。」

志貴「ハァハァハァ……死ぬかと思った。アルク!少しは人の事も考えて………!!!!」

目の前に居るアルクが徐に上着を脱ぎ始めた。ブラジャーだけになった上半身を俺に擦り付けながら、アルクは艶っぽく笑った。

志貴「ちょ、ちょっとアルク!!止めなさいって!!」

アルク「もう、ダメ……我慢できない………。」

するとアルクはスカートに手を掛けた。おいおい…何をするつもりだ?……まさか、ここで下着だけになるつもりではあるまいな…………う、うわーー!!ヤバイぞ、どうする?遠野志貴!!

志貴「おい、アルク!止めろって!!」

アルク「もう………止まらない……。」

途切れ途切れに言葉を紡ぐと、アルクはスカートを下ろした。俺に体を寄せて恍惚とした表情で荒く呼吸をするアルクは、純白の下着を着けていて、とても綺麗だった。と同時に俺の中に眠っていた欲望が渦を巻き始めた。………止めろ…治まるんだ…。

志貴「アルク……お前。」

アルク「いいよ……志貴だったら、食べていいよ。」

その瞬間、俺の理性はほぼ消え失せた。アルクの胸を掴むと、ゆっくりと揉みしだいていった。

アルク「ああ……そ、そう……そこ気持ちいいよ……。」

まんまとアルクの罠に掛かってしまった。これで俺もゲームオーバーか………。そう思って俺はアルクのブラジャーのホックを外して、直に胸を揉んでいった。ビクンと大きく体を痙攣させると、アルクは切なそうに声を上げて善がりだした。

アルク「はぁ……イイ……イイよ……。」

俺はもう最後までヤルつもりだった。胸を片手で揉みながら、残った片方の手で、アルクの秘所へと手を這わせていったその時、

???「だめーーーーーーーー!!!!」

ズガンっ!!鈍い音を立ててアルクが吹っ飛んだ。え?!な、何だ??何が起きたんだ?!俺は慌てて体裁を整えると、ベンチの近くで泣きべそをかいている女の子を見つけた。

志貴「み、都古ちゃん!!どうしたの?こんなところに。」

都古「えぐ…ひっく……お兄ちゃんが、えぐ…襲われてたから。」

あ!なるほど、アルクと俺の光景を見て、俺が襲われてると思ったんだ。にしても、こんなに泣きべそまでかいて…よっぽど俺を心配してくれてんだ。俺の中にあった欲望は、都古ちゃんの顔をみていたら消えていた。こんなに心配してくれる妹がいるんだ。
欲望だけで突っ走っちゃだめだな。

志貴「都古ちゃん、ありがとう。俺は大丈夫だから。」

都古「ほんとう?」

志貴「ああ、都古ちゃんが来てくれたからね。」

都古「えへっ♪良かったぁ。」

都古ちゃんの純真無垢な笑顔に思わずドキッとした。そうだよな。俺ってばこんな不純なゲームに手を染めちゃって…。自己嫌悪が沸々と湧き上がってきた。そうだ、こんなゲームさっさと終らせよう。絶対欲情するもんか。都古ちゃんの笑顔を思い出せば大丈夫だ。

ネロ「おーーい!都古、このような所に来ておったか。さ、行くぞ。」

志貴「ネロ?!何でまた来たんだよ?それに、都古ちゃんをどこに連れて行くんだ?」

ネロ「先も述べたとおり、老人の集いし場所に行くのだ。都古はあくまで偶像的肖像(マスコットキャラクター)として活躍してもらうのだ。」

志貴「は、はぁ……。」

都古「そういうわけだから、じゃあね!お兄ちゃん。」

志貴「あ?ああ、さよなら!都古ちゃん。」

ネロに連れられて風の様に都古ちゃんは去っていった。一体何だったんだろう……おっと!そう言えばアルクは?!都古ちゃんのコンボをまともに受けて吹っ飛んだからなぁ……しかもパンツ一枚だし……。ふとアルクが吹き飛んだ方へ視線を遣ると、そこにはただ立ち尽くすアルクが居た。

志貴「おーーーい……大丈夫か?」

アルク「…………。」

異様な殺気に思わず身動ぎしてしまった。

アルク「……あのガキーーーーー!!!!殺してやるーー!!」

志貴「待て待てって!!都古ちゃんは俺を心配してくれただけだよ!!お前に恨みがあるとかそんなんじゃないって!!」

俺は必死にアルクを羽交い絞めにして止めた。

琥珀「はい!それじゃあそこまでですね。」

アルク「ぷーーーーーっ!!折角、志貴がパンツの中に手を入れてこようとしてたのにぃーーー!!」

志貴「ば、バカ!!そんな事言うなよ!!」

こうして、何とか切り抜けた俺であった。

続く。

この頃

2004年8月28日 日常
最近、BSで深夜などに「今日からマ王」というアニメが一日三話ずつほど再放送されております。

私、草薙も偶々、新聞のテレビ覧で見つけて、実際見てみた所、面白くてハマってしまいました……。

深夜にあっていますが、れっきとしたファンタジーもので全くアダルトではありません。

毎日、深夜を楽しみにしておるのです。

ちなみに私は「今日からマ王」の中では、グウェンダルとギュンターが好きですね。

特にギュンターがイイですね〜。紫色の長髪に美しい顔立ちの男で、マ王である主人公「渋谷 有利」に惚れているんですよ。何でもマ王の居るべき場所「真魔国」では男性が男性を好きになっても問題無いそうで……。

真面目なんですが、有利の事になると恋する乙女のようにもう心配ばっかりしてるんです。

あるお話の中で、有利が海で濡れた服をギュンターに預けた時、その服の匂いを嗅いで、「ああ〜これが若者の香り♪」と磯臭い服を愛おしそうに持っていたんですよ。王女が自分にも陛下の匂いを嗅がせてと迫っても、「これはワタクシが陛下からお預かりしたんです。」と言って放そうとしないんですから(笑)彼の一途な思いにはホント感動ですよ。

あ!そうそう、有利の婚約者にヴォルフラムって美形がいるんですけど、それも男です。しかも寝巻きがピンクのネグリジェだった……。幾ら美形だからって……まぁ、似合ってましたが…。
剣の腕が立って、有利の周りに集まる男には必ず敵対心むき出しですね。有利が優しくした馬にすら嫉妬したんですから。

ちなみに有利をそんなにも愛しているヴォルフラムですが、彼は有利の事を「へなちょこ」とよく言います。

大募集!!

2004年8月28日 日常
どうも!!草薙です。この度、現在連載中の小説、「狼狽」のキャラクターデザインを募集したいと思います!私も、イラストの方もやっておりますが、皆様方のデザインを是非、拝見したく思い、この場を借りて募集する次第です。

送りたい!!言う人は、詳しい送り方が秘密日記に載っておりますので、相互リンクを張った上で、ご覧ください。

お手数かけます…。
私はシャル。パーティーの為のドレスをケイスの許婚のエレンブラと買いに、街に来ているの。

「うわーーー♪賑やかだねぇ。シャルさん!」

「そうね♪凄く活気に溢れてて、皆の顔も活き活きしてる。」

街の人はみんな笑顔が溢れてて、私の心はとても温かい気持ちになった。ケイスって上手く取り締まってるんだ……。視線を右に左にと泳がせていると、エレンブラが肩を叩いてきた。

「ちょっと、シャルさん。ドレス屋過ぎてますよ!」

「え?ああ、ゴメン!ちょっと目移りし過ぎちゃったみたい。」

「無理もないよ。カルナムールは辺境地帯の中じゃかなり活気付いてる街なんだし。」

エレンブラが言うには、王都から離れれば離れるほど、活気は減ってくるらしいの。物資の調達や人の流通が少なくなるから、らしいんだけど……。

「よし、それじゃドレス仕立ててもらお♪」

「うん!」

エレンブラは慣れた様子でドレスの仕立てを頼むと、まだ若干の時間が掛かるらしい…。私達はその空き時間を利用して、カフェで話す事にした。

「ね、シャルさんって見た目はすっごい若く見えるんだけど、実際は何歳なの?」

「え?私は21歳だけど……。」

そっか、彼女はまだ私が異世界「ギエルハイム」から来たって知らないんだっけ……。容姿は都合が良い様に15,6歳の頃の私に変えてあるんだった……。

「えーーー!?ボクより2歳も若いんだぁ。ビックリ!!でも、ボクなんかよりも随分大人な雰囲気だよね。恋愛もなんか凄そうだし……何より、その容姿で21じゃ、もはや犯罪だよね♪」

犯罪??私何か悪いことでもしてるのかな?

「私、何か悪いことした?」

「え?!アハハ、違うよ。シャルさんの見た目が少女っぽいでしょ。少女は法律で不純な事はしちゃいけませんよって事になってるから、実年齢が21歳って事は別に不純な事でも出来る、でも見た目はやっちゃいけない年齢に見える……だから、犯罪♪」

そう、なんだ。コッチは少女が体を交えるのは犯罪なんだ……。
私は漸くエレンブラの言葉の意味を理解すると、残っていたコーヒーをグイっと飲み干した。

「そろそろ、かな?」

エレンブラが店の時計に目配せすると、残念そうに呟いた。

「あれ?何か残念そう……。」

「だって、ボクもっとシャルさんの恋愛話を聞きたかったのに。」

「フフフ、それなら何時でも出来るじゃない。ケイスのお屋敷に一緒に住んでるんだし。」

「そ、そうだよね!よ〜し♪ドレスを取りに行こう♪」

納得がいったのか、エレンブラは急に明るさを取り戻すと、私の腕を引っ張って、ドレス屋に仕立ててもらっているドレスを受け取りに向かった。でも、私の話をもっと聞きたい……か。フフ、嬉しいな……。

「おう!お嬢ちゃん達!!これ、どうだい?今なら安くしとくよ。なんたってお嬢ちゃん達は美人だもんな♪」

「フフン♪そんな当たり前の事言っても、ボク達は買いませんよ〜だ。」

街の商人とエレンブラの会話を聞いてると、自然に笑みが零れて来た。こんなにアウヴァニアってあったかいんだ……。このまま……ずっと過ごせたらいいなぁ……。

「シャルさん!!」

突然のエレンブラの緊迫した声に私は我に帰った。何やら怯えている様子のエレンブラが指差した方向を見て、私は背筋が凍った。

「え?!……うそ……人が、倒れてる……。」

20代と見受けられる若い男の人が、路地の脇でうつ伏せに倒れていた。腰に剣を挿している所からして…どうやら剣士みたい……。私は、咄嗟に駆け寄ると、倒れている男に声を掛けた。

「だ、大丈夫ですか!?」

私の行動に継いでエレンブラも駆け寄り、声を掛けた。

「ねえ!大丈夫?ボクの声、聞こえる?」

男に反応は無い……ふと、最悪の状況が脳裏を掠める……。

「エレンブラ……もしかして、もう手遅れなんじゃ……。」

「え、ええ?!それって……死んでるって……こと?」

急に背筋に冷や汗が流れた。手は震えて、腰は抜けてしまって動けない。どうしよう……必死で私は男の体を揺さぶった。すると、

「う、う〜ん……どうしたのだ?地震か?」

「!!!!」

男は目を擦りながら、ムクッと上体を起こして辺りをキョロキョロと見回した。

「ん?お嬢さん方、どうなされました?」

「え?だって、貴方が倒れていたから……。」

男は暫しポカンと口を開けていたが、思い出したのか深々と頭を下げてきた。

「そうだったのですか!これはかたじけない!!不肖ケイナスこのご恩は一生忘れませぬぞ!!」

「そ、そんな、一生だなんて、ねえ?エレンブラ。」

「そうだよ!ボク達はただ起こしただけだから。」

ケイナスと名乗った男はバッと立ち上がると、右手を胸に当て、軽くお辞儀をした。

「いや、あなた方は拙者が空腹で死に掛けていたのを救ってくださった。もしあのままだったら、拙者は恐らく……。」

「なんだ。お腹が空いてるんだ。ね?シャルさん。この人に何か食べさせてあげようよ。」

「そうね。それが良いと思う。」

こうして、私達はケイナスにご飯を奢ってあげた。

「いや、かたじけない!!助けてもらった上にこのような食事までさせて頂けるとは、ケイナス、感謝に耐えませぬ…。」

「アハハ、ケイナスって何か喋り方面白い♪ところで、これから何処行くの?」

すっかりエレンブラはケイナスが気に入ったみたい……。あれから三十分くらい話してるけど、ケイナスは別に悪い人じゃないって事は分かった。後、喋り方が面白いって事も……。

「拙者、シャル殿とエレンブラ殿を守り抜く所存です!」

え?それって私達について行くって事?どうしよ、変な事になってきたみたい。

「べ、別にそこまでしてもらわなくても、私達は見返りを求めて助けたわけでは無いですから……。」

「いえ、拙者の住んでいた所の教えで、命を救ってくれた者は、命を賭して守れとあるんです。拙者、武人の端くれ、この教えに背くと言う事は、死よりも辛いこと……。別にくっ付いて回るというのではありませぬ。シャル殿やエレンブラ殿が危険に晒されぬよう、またもし危険な目に晒された場合に、拙者が守るといっているだけです。」

といわれても……。はぁ……仕方ない…か。多分拒んでも付いて来るだろうし……。

「分かりました……。それじゃ、私達は屋敷に戻りますから、付いて来てください。」

「なんか友達が増えちゃったね。ま、いいか♪ケイスもきっと仲間は大勢に限るって言うだろうし。」

「おお!ありがたき幸せ!!」

「……………。」

「それじゃ、ケイスの屋敷に出発!!」

こうして、私達はケイナスと知り合ったのです。……なんか、違うような気がするんだけど………本人はもう覚悟決めてるみたいだし……どうこう言っても付いて来るんだろうなぁ……ま、これも何かの縁だと思うしかない、か……。

「シャルさん〜!遅れますよ〜!」

「シャル殿〜!!急がれよ!!」

「はぁ………。」

外伝おわり(^▽^)
人は誰しも基層的な通念を抱いているものである

それは正か否かの定まらぬもの

机上の空論であり、また思想の類……

自らの正を主張するか

はたまた否を露呈するか……

しかし、決して存在無くしては自信の存在定義を失ってしまう…

鬱蒼とはびこる人類の共存、調律を見据えての存在であるハズが

何時しか人類の革新と相まって

個人の通念にその形態と主存を変えてしまった……

果たしてそれは革新の賜物なのか

人類が失った大いなる思想遺産の成れの果てなのか…

私は問いたい………

END
ヒューゴ「くっ……もう、切れたのか……。」

アクア「ど、どうしたの?!顔色が真っ青よ!」

ヒューゴ「な、何でも無い……。ただの風邪だ…。」

アクア「風邪って……そんなに苦しいの?」

ヒューゴ「すまないが、水を………。」

アクア「水ね。分かったわ…………はい、水。」

ヒューゴ「すまないな………。」

アクア「ちょ、ちょっと、何その薬?」

ヒューゴ「何って……ただの風邪薬さ…。」

アクア「嘘ね……。」

ヒューゴ「心の声(!?やはり、風邪は無理があったか?こんなに簡単にバレるとは……)」

アクア「だって、風邪薬は“食後”じゃない!!」

ヒューゴ「………(ああ、そういうことね……アクアってちょっとズレてんだ……。)」

……その後、俺がビタミン剤だと言ったら納得した……。

早いもので

2004年8月26日 日常
早いモンで、狼狽も第九章を無事掲載できました!エレンブラとケイナスという個性溢れる新キャラ二人を追加して、ケイスの屋敷も結構活気付いてきました♪

ここではちょっと新キャラについて補足をしときます。

まず、【エレンブラ】ですが、彼女は幼少期にケイスやザイバックと共に遊んだ仲で、ケイスやザイバックが王宮の仕官学校に通い始めた頃に、エレンブラの父親であるその当時の政務卿が失態を犯して辺境に左遷された事で離れ離れになってしまうんです。

士官学校に通う前のケイスに、許婚になると約束をしたんですが、その当時、エレンブラは髪も短髪で、化粧なんかもしているはずがなく、喋り方も男口調だったので、ケイスやザイバックは男友達だと思っていたんですね。

そしたら、10年振りにケイスの目の前に現れたエレンブラは立派な女性で、喋り方こそ変わってはいないものの、顔立ちも抜群に綺麗で、プロポーションも良くなっていて、ケイスも始めかつての親友だとは気付きませんでした(笑)もちろんザイバックも。

彼女が10年振りに何故姿を現したかと言えば、理由の一番は、幼少期に約束を交わした許婚の誓いを実行する為です。彼女はずーっとケイスが好きなんですよ。一途ですね。

もう一つの理由は、ケイスが辺境に来たということですね。エレンブラが住んでいる所はカルナムールから200km程離れた山間美しい街【エルテルード】で、出向くには丁度良かったんです。距離的に……。

性格は明るくて芯が強い女性で、例えザイバックであろうと、ケイスを困らせる者には容赦なく制裁を下すんです。ホントに補足ですが、彼女はケイスの子供を三人ほど生みたいという願望があります。

次に【ケイナス】ですが、彼は王都から4000km離れた、辺境よりも離れている為【大辺境】と呼ばれる【トウコク】と言う、刀を主な収入源とする独自の文化が築かれた街の出身です。

彼の礼儀正しいというか、堅い喋り方はトウコクの方言みたいなもんです。トウコクは、本編でも説明があったとは思いますが、世界で最も切れ味の鋭い【刀】を鋳造する唯一の街で、刀を扱う剣士が多い事で有名です。【ガンテス】という伝説の刀鍛冶もいて、義を何よりも重んずる傾向にあります。

ケイナスは、自分の腕を試す為に遥々カルナムールまで遣って来たんですが、お金をあまり持っていなかった為、空腹に喘ぎ、道端に倒れていたところを、丁度パーティーのドレスを買いに来ていたエレンブラとシャルの目に留まり、一命を取り留めたんです。トウコクでは命を救われた者には命を掛けて従えという決まりがあり、ケイナスはその決まりを忠実に守って、命を救ってくれたエレンブラとシャルに命を賭して守る事を心ひそかに誓って、ついて来たんです。

ちなみに彼は刀を自在に操る事が出来、その腕前も超一流らしいです。年齢は27歳とケイス達よりも上なんですが、敬語で話すのは、まぁ、出身地方の影響ですね。

とまあ、こんなとこです。ちなみに、エレンブラとシャルがケイナスと出逢う買い物珍道中は外伝として掲載しますんで、ご心配なく!! それではまた!

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